心が聞こえる二人の恋の物語

たっこ

文字の大きさ
71 / 83

71 最終話✦1

しおりを挟む
 久しぶりの一緒の登校にウキウキした。
 制服で手をつなぐのは初めてで、胸がこしょばい。
 マンションを出て少し歩くと、すぐに同じ制服がちらほらと目に入る。
 あ……手、離さなきゃ……だよな。
 そう思ったとき、岳が静かに優しく俺に聞いた。

『気にしないんじゃなかったのか?』
『……うん。全然気にしねぇけど……』
『けど?』

 全然気にしないし隠す気もない。でもだからといってむやみに注目を浴びたいわけじゃない。岳を好奇の目にさらしたいわけじゃない。
 ほんの一瞬すれ違うだけの見ず知らずの人ばかりが集まる空港や街なかと、学校という閉ざされた空間とじゃ話が別だ。
 隠さず自然にバレるのと、見せびらかすのは全然違う。

『……そうだな。俺も徹平をわざわざ好奇の目にさらすのは嫌だ』

 俺たちは目を合わせると、そっと手を離した。
 学校までの道のりを並んで歩く。いままでと同じなのに全然違う。手をつなぎたい。つなぎたくてムズムズする。
 岳も同じように思ってて、二人で笑った。

  

「あっ黒木っ。帰って来れたんだぁっ。よかったぁ!」

 教室に入ると田口がすぐさま声を上げて寄ってきて、俺たちは教卓の横で立ち止まる。

「おかえり、黒木っ」
「ああ、ただいま」

 岳は返事を返してから心で言った。
  
『田口はアメリカ行きを知ってるんだな』
『うん。知ってる』

 夏休み前、残り二日の学校に、俺は泣きはらした目のまま登校して田口にすごい心配をかけた。岳がアメリカに行ったこと、戻って来られるかわからないことだけ伝えて、あとは一人で沈んでた。
 夏休みもメッセージをもらっていたけど、俺はまともな返事を返してない。岳が帰ってきてからも、岳のことで頭がいっぱいで報告を失念してた。 
 田口は笑顔で俺の肩に優しく手を乗せる。

「よかったね、野間っ」
「田口ごめん、俺ちゃんと返信もしねぇで……」
「いや、返信はもらったよ? 『大丈夫じゃない』とか『誰にも会いたくない』って。もうほんと大丈夫かなって心配だった」
『……あ、これ言っちゃダメなやつだったかも……っ』

 田口が、やばいという顔をして俺を見る。
 俺は大丈夫という意味を込めてニカッと笑顔を返した。

「もう大丈夫。心配かけてごめんな? 田口」
「ううん、全然!」
『言っても大丈夫だったのかな……。あぁでも野間、ほんとすごい元気になってる。よかった!』

 すごく嬉しそうに優しい笑顔を見せる田口に、ほんと良いヤツだな、と胸がジンとする。

「徹平……夏休みは誰とも遊ばなかったのか?」
『泣きはらして学校来るほどだったのか……そんなにか……』 
「だって、遊べるわけねぇじゃん。寂しくて毎日泣いたって言っただろ?」
 
 岳の声と心と、どっちにも返事をした。
 それを聞いた田口の驚く心の声が聞こえる。
  
『え……っ、黒木いま徹平って言った。野間もなんか……いまの会話って……え?』
 
 田口には心配かけた分、俺がいますっごい幸せだってすぐにも教えたい。できればこの会話で気づいてほしい。
 本当ははっきり言っちゃいたいけど、そんなことしたら教室中が大騒ぎしそうだしな。
 あ、そういえば田口が俺の気持ちを知ってること岳に話してなかった。こっちも失念。
 それを聞いた岳は心で驚きつつも、いまは表の会話が優先だな、と切り替えている。

「そうか、泣いたのは聞いたがそこまでだったのか……すまん」 
「んーでも、岳も同じようなもんだろ?」
「え?」
「岳もアメリカで、俺と同じ気持ちだったろ?」

 ニヒヒと笑いかけると、岳はとぼけた顔で「さあな」と答えて俺の頭をポンとして、自分の席に向かった。でも歩きながら心では『同じだったよ』と甘くささやく。
 うわっ。なに、学校ではそんな感じ?
 全部が甘い岳よりなんかクるっ!
 うーやばいっ。表情崩れるっ。
 心の中で必死で悶えていると、突然田口が俺の腕をつかんだ。

「野間っ。ちょっと来てっ」
「へ? あ、田口っ」
『二人とも名前で呼びあってるっ! やっぱり両想いだったんだっ!』

 田口は俺の腕をグイグイ引っ張って教室を出るとキョロキョロ見回して立ち止まる。

『あ……ダメだ。どこも人がいっぱい。どこか話せる所……っ』
「田口、こっち」

 今度は俺が田口の腕を引いて、人けの少ない廊下の隅に移動した。
 パラパラとしか人がいないから大丈夫だろう。

「ここならいいだろ?」
 
 それでも田口にしてみると、ここは話ができる場所ではないようで「あ、いや、ここじゃダメっ」と首をふった。

「大丈夫。俺たち隠す気ねぇから」
「…………え?」
「って言っても、大声で宣言とかするつもりはねぇんだけどさ。バレたらバレたでそれでいいって思ってる」
「……うそだろ?」
『やっぱり二人、付き合い始めたんだ……。隠す気ないって……本気?』

 田口の心から、俺たちを心配する気持ちが流れてくる。
 でも俺は気づいてしまった。その裏で、妬ましい気持ちもうずまいてることに。

 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

従順な俺を壊して 【颯斗編】

川崎葵
BL
腕っ節の強い不良達が集まる鷹山高校でトップを張る、最強の男と謳われる火神颯斗。 無敗を貫き通す中、刺激のない毎日に嫌気がさしていた。 退屈な日常を捨て去りたい葛藤を抱えていた時、不思議と気になってしまう相手と出会う。 喧嘩が強い訳でもなく、真面目なその相手との接点はまるでない。 それでも存在が気になり、素性を知りたくなる。 初めて抱く感情に戸惑いつつ、喧嘩以外の初めての刺激に次第に心動かされ…… 最強の不良×警視総監の息子 初めての恋心に戸惑い、止まらなくなる不良の恋愛譚。 本編【従順な俺を壊して】の颯斗(攻)視点になります。 本編の裏側になるので、本編を知らなくても話は分かるように書いているつもりですが、話が交差する部分は省略したりしてます。 本編を知っていた方が楽しめるとは思いますので、長編に抵抗がない方は是非本編も……

双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。 いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。 しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。 営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。 僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。 誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。 それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった── ※これは、フィクションです。 想像で描かれたものであり、現実とは異なります。 ** 旧概要 バイト先の喫茶店にいつも来る スーツ姿の気になる彼。 僕をこの道に引き込んでおきながら 結婚してしまった元彼。 その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。 僕たちの行く末は、なんと、お題次第!? (お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を) *ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成) もしご興味がありましたら、見てやって下さい。 あるアプリでお題小説チャレンジをしています 毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります その中で生まれたお話 何だか勿体ないので上げる事にしました 見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません… 毎日更新出来るように頑張ります! 注:タイトルにあるのがお題です

才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  15,000字程度の予定です。

キミがいる

hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。 何が原因でイジメられていたかなんて分からない。 けれどずっと続いているイジメ。 だけどボクには親友の彼がいた。 明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。 彼のことを心から信じていたけれど…。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

処理中です...