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離れていかないで【side蓮】3
撮影本番。
倉庫として使われている空き教室の片隅で、別れ話をされるシーン。
キスをしてるところをクラスメイトに見られ、噂が校内に広がりつつある中。相手のためを思って別れを決めた恋人の気持ちに気づかず、責めてしまうシーン。
壁を背に立つ恋人の両手を、壁に押し付けた状態でスタンバイ。
「……蓮、あのさ」
「……うん」
「蓮はなにも嫌われることなんてしてねぇし、俺はお前のこと……すげぇ……好きだよ。……ニコイチとして」
「…………っ」
「俺の態度、悪かったよな。……ごめんな」
じゃあなんで。
じゃあ、なんで避けるの?
なんでさわるのも駄目なの?
少し心を落ち着かせてからここに立ったはずが、またモヤモヤしてしまう。嫌われてなかった、とホッとする気持ちよりも……。
監督のスタートの声が響いた。
グッと壁に押し付けた手に力を込める。
「お前今、なんて言った?」
「……だ、から。もう俺と別れてくれって」
下を向いたままで表情が見えない。
お前、本気で言ってんのか?
「別れる理由は?」
「……もう、嫌なんだよ。みんなに噂されてコソコソされるの」
「関係ねぇだろ、そんなの。勝手に言わせとけ」
「俺は嫌なんだよっ!」
完全に役に入り込めないまま、脳内で自分と役の気持ちがシンクロする。
別れようとする恋人と、離れていこうとする秋さん。それをなんとか取り戻そうとする自分。
「お前は、俺が好きだろ」
「……っ」
「お前は、俺だけが好きだっ。そうだろっ?」
「……なんだよ、それ……」
顔をそむける恋人に苛立ちをつのらせる。
「……もう好きじゃない」
「なに?」
「俺の気持ちなんて全然分かってくれないお前なんか、もう全然好きじゃないよっ!」
イライラで沸騰した頭で、手は片手で拘束したまま、顎に指をかけて唇をふさいだ。
抵抗する恋人に、俺を避ける秋さんに、苛立ちをぶつけるように、口を開いてさらに深く隙間なくふさいだ。
秋さんが驚いたように目を見開く。
唇で唇をはさむようにふさぐ。顔を傾け何度も何度も角度を変え、強く押し付けるように唇を合わせた。
舌は入れない。唇だけで深いキスをくり返した。
「…………んんっ、…………おいっ」
強い抵抗で手の拘束をほどき俺の胸を叩いたあと、はっとした顔をする。思わず役が抜けたのだと分かった。
俺は構わずに両手を使って手を押さえつけ、また唇に噛みつくように深く深く口づけた。
役としてなのか蓮としてなのか、感情がはっきりと分からない。
頭にあるのは、苛立ちと離れていくなという強い気持ち。
カットがかかったら後悔する、と頭の隅では分かっているが止められない。
「…………はぁっ……」
息を吸うため、秋さんの唇がわずかに開く。俺はすかさず唇で下唇と上唇を交互にはさむ。そしてまた深いキス。何度も何度もくり返す。
お互いの唇が濡れて、合わせるたびにかすかに音が鳴った。
秋さんは、抵抗しながらも開いた口でキスを受けてくれる。
瞳をのぞくと、涙で潤んでいた。
「…………んっ、……はぁ」
唇を離して苦しそうに息をした秋さんの口を、再びふさごうとしたとき、頬に平手打ちが飛んできた。
そこではっとする。台本に戻ったと気がついた。
倉庫として使われている空き教室の片隅で、別れ話をされるシーン。
キスをしてるところをクラスメイトに見られ、噂が校内に広がりつつある中。相手のためを思って別れを決めた恋人の気持ちに気づかず、責めてしまうシーン。
壁を背に立つ恋人の両手を、壁に押し付けた状態でスタンバイ。
「……蓮、あのさ」
「……うん」
「蓮はなにも嫌われることなんてしてねぇし、俺はお前のこと……すげぇ……好きだよ。……ニコイチとして」
「…………っ」
「俺の態度、悪かったよな。……ごめんな」
じゃあなんで。
じゃあ、なんで避けるの?
なんでさわるのも駄目なの?
少し心を落ち着かせてからここに立ったはずが、またモヤモヤしてしまう。嫌われてなかった、とホッとする気持ちよりも……。
監督のスタートの声が響いた。
グッと壁に押し付けた手に力を込める。
「お前今、なんて言った?」
「……だ、から。もう俺と別れてくれって」
下を向いたままで表情が見えない。
お前、本気で言ってんのか?
「別れる理由は?」
「……もう、嫌なんだよ。みんなに噂されてコソコソされるの」
「関係ねぇだろ、そんなの。勝手に言わせとけ」
「俺は嫌なんだよっ!」
完全に役に入り込めないまま、脳内で自分と役の気持ちがシンクロする。
別れようとする恋人と、離れていこうとする秋さん。それをなんとか取り戻そうとする自分。
「お前は、俺が好きだろ」
「……っ」
「お前は、俺だけが好きだっ。そうだろっ?」
「……なんだよ、それ……」
顔をそむける恋人に苛立ちをつのらせる。
「……もう好きじゃない」
「なに?」
「俺の気持ちなんて全然分かってくれないお前なんか、もう全然好きじゃないよっ!」
イライラで沸騰した頭で、手は片手で拘束したまま、顎に指をかけて唇をふさいだ。
抵抗する恋人に、俺を避ける秋さんに、苛立ちをぶつけるように、口を開いてさらに深く隙間なくふさいだ。
秋さんが驚いたように目を見開く。
唇で唇をはさむようにふさぐ。顔を傾け何度も何度も角度を変え、強く押し付けるように唇を合わせた。
舌は入れない。唇だけで深いキスをくり返した。
「…………んんっ、…………おいっ」
強い抵抗で手の拘束をほどき俺の胸を叩いたあと、はっとした顔をする。思わず役が抜けたのだと分かった。
俺は構わずに両手を使って手を押さえつけ、また唇に噛みつくように深く深く口づけた。
役としてなのか蓮としてなのか、感情がはっきりと分からない。
頭にあるのは、苛立ちと離れていくなという強い気持ち。
カットがかかったら後悔する、と頭の隅では分かっているが止められない。
「…………はぁっ……」
息を吸うため、秋さんの唇がわずかに開く。俺はすかさず唇で下唇と上唇を交互にはさむ。そしてまた深いキス。何度も何度もくり返す。
お互いの唇が濡れて、合わせるたびにかすかに音が鳴った。
秋さんは、抵抗しながらも開いた口でキスを受けてくれる。
瞳をのぞくと、涙で潤んでいた。
「…………んっ、……はぁ」
唇を離して苦しそうに息をした秋さんの口を、再びふさごうとしたとき、頬に平手打ちが飛んできた。
そこではっとする。台本に戻ったと気がついた。
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