ふれていたい、永遠に

たっこ

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番宣✦side蓮✦3

 チャイムが鳴った。エントランスではなく、直接家の方が鳴るということは……。
 俺はすぐに玄関に駆け寄った。
 
 昨日、事務所の人が引っ越し作業をしてくれたこの部屋に、俺が帰宅したのは夜中だった。
 今朝は俺も秋さんも早朝から番宣で、秋さんはまだここには一度も来ていない。
 嬉しい気持ちがあふれ出て、ドアを開けて秋さんを見た瞬間すぐに「おかえり!」と叫びそうになった。
 ダメだ。どこで聞かれるか分からない。俺はすぐに秋さんを引っ張り込んで鍵を締めた。

「おかえりっ! 秋さんっ!」
「…………っ」

 秋さんからの返事はなく、靴も脱がずにそのまま玄関にしゃがみこんだ。

「秋さん、どうしたのっ?」
「…………なんで、おかえり……? いらっしゃい、じゃねぇの……?」
「あ。秋さん早く仕事終わんないかなー早く帰ってこないかなー、って思ってたから思わず出ちゃった。いらっしゃいのほうが良かった?」

 秋さんが左右に首をふる。

「おかえりの破壊力……やべぇ……」

 ゆっくり立ち上がると、桜色のほっぺの可愛い秋さんが顔を出した。

「……秋さんが可愛すぎる…………」

 秋さんは靴を脱いで家に上がると、ふわっと俺に抱きついてきた。

「…………ただいま」
「……うん。おかえり」
 
 ぎゅうっと抱きしめる。
 幸せすぎる。もう本当にどうしたらいいだろう。

「今日は一日番宣、お疲れ様でした」
「蓮も、二度目の番宣お疲れ様」

 秋さんがなかなか離れないので、背中を優しくトントンする。
 久しぶりの秋さんをゆっくりと堪能した。

「蓮……」
「うん?」
「抱いて……?」
「…………えっ?!」
「もう蓮不足で……つらい……」
「え、えっと、でも、ご飯出来上がってて……」
「あとで食うから。……な?」

 あの日、秋さんを初めて抱いた日以来、まだ一度も秋さんにふれていない。
 引っ越しすればもうずっといつでも会える。それを励みにリークされる危険はおかさない、と秋さんが決めて今日まで我慢してきた。
 撮影も終わって会えなくなって、正直俺も秋さん不足でつらい。

「秋さん……シャワー入る……?」
「……ん。蓮は?」
「俺はもう入った」
「……そっか。じゃあ入ってくるな」

 俺は着替えを用意しに、秋さんは荷物を置きに一緒に寝室に行った。
 着替えを用意してると、秋さんがキョロキョロと部屋を見回していた。

「すごいでしょ、事務所の人が全部やってくれた。俺なんにもやってないの。本当に申し訳ないよね」
「……あ、ああ、そっか。そうだよな。じゃなきゃ、こんなに片付いてるわけねぇもんな」

 秋さんはそう言って、あらためてぐるっと部屋を見回した。なにか様子がおかしい。
 片付いてる部屋を見てたわけじゃなかったようだ。

「秋さん、どうしたの?」
「……あのさ」
「うん?」
「…………ローション、どこ?」
「…………え?」
「……ローション」
「なんで、今ローション?」
「……シャワーのついでに、準備してくるからさ……」

 秋さんは俺を見ない。
 俺が怒るかもと分かってて言っている。
 見つからなかったから仕方なく聞いているんだろう。
 でも、どうして?

「秋さん。そういう準備も全部、俺がやりたい。俺が優しく、秋さんにやりたい。だから自分でやらないで?」
「…………っ」
「秋さん……?」

 秋さんは何も言わずに、うつむいて黙っている。

「秋さん、どうしたの? なにか……あった?」
「……あー、うん、分かった。じゃあシャワー入ってくるな」

 俺の手から着替えを奪って行ってしまおうとする。顔は隠せても涙声は隠せない。
 俺は秋さんの腕を取って引き寄せた。
 少しかがんで顔をのぞき込むと、案の定今にも流れそうなほどいっぱいの涙。

「どうしたの……? なにかあった……?」
「……ごめん、蓮。ごめんな」
「どうして謝るの?」
「……蓮の前では絶対泣きたくなかったのに……。あー、本当なに泣いてんだろな。マジでウザいよな。自分でもイヤんなる……」
「全然ウザくないし、秋さんが泣きたいときは隠してほしくないよ。……その涙は……もしかして、しばらく会えなかったから?」
「…………っ」

 あの日の夜から2週間。クランクアップしてからは一週間。たった一週間だけど、俺たちの距離感は普通じゃなかったから実は俺も喪失感が半端じゃなかった。
 あの日、手が離れるだけでも不安になってた秋さんが一週間も耐えられるわけがなかった。
 腕から手を離して、息が止まるほどぎゅっと強く秋さんを抱きしめた。
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