ふれていたい、永遠に

たっこ

文字の大きさ
101 / 173
番外編

可愛い人✦side蓮✦1

「秋さん……やっぱり何か怒ってるよね?」
「なんも怒ってねぇって」
「じゃあ、仕事で何かあった?」
「……なんもねぇよ」

 久しぶりに見た、秋さんの仮面のような表情。
 夕飯を食べながら、付き合う前のすれ違いを思い出して、不安で胸がざわざわする。

「秋さん。ちゃんと話してくれないと、俺何も分かんなくて不安になる……」
「だから、なんもねぇって。冷めるから早く食うぞ」

 絶対に何かあった。なんで何も話してくれないの……?
 
 俺が帰ってきたとき、秋さんはソファでクッションを抱えて座りテレビをボーっと眺めていた。
 ただいまを言っても反応がなく、肩にふれるとビクッと身体を震わせ俺の手を払いのけた。

「あ……おかえり、蓮」
「秋さん……どうしたの? 何かあった?」
「……別に」

 顔をゆがめて視線を下げる秋さんは、俺には怒ってるように見えた。
 間違いなく機嫌が悪いと思った。
 いつもならおかえりのキスをするのに、秋さんはそれを避けるようにキッチンに行く。

「……ごめん蓮、夕飯まだ作ってねぇんだ。先にシャワー浴びてきて」
 
 いつもなら一緒に入って一緒にご飯を作るのに、それすらも避ける。

「秋さん、どうしたの? ……俺、何かしちゃった……?」
「……なんで。なんもしてねぇよ」
「でも……」
「…………」
 
 機嫌の悪い秋さんを見るのは初めてだった。
 俺……何かしちゃったのかな……。
 思い返しても何も思いつかない。
 今朝、行ってきますのキスが長くて怒らせたから?
 でもあのときはただ照れて怒っているだけだったはず。ごめんと謝ったら頭をワシャワシャと撫でられた。本気で怒ってはいなかった。
 じゃあ仕事で何かあったんだろうか。
 いつも穏やかな秋さんがこんなに機嫌が悪いなんて……理由も分からない俺は、どうしたらいいんだろう。
 不安で胸が締め付けられる。

 シャワーから戻ると、もう夕飯がテーブルに並べられていた。

「ごめん。肉焼いただけなんだ。簡単で悪いけど」
「生姜焼きだ。すごい好き。作ってくれてありがとう」
「ん。食べようぜ」

 そう言って俺を振り返ったときにはもう、仮面を貼り付けたような秋さんになっていた。

 何度も何度も理由を聞いたけど何もないの一点張りで、「しつこいぞ」と言われたらもう何も聞けなくなった。
 せめて俺が怒らせてるのか、仕事で何かあったのかだけでも知りたいのに……。
 
 秋さんがシャワーに入っている間に、キッチンの洗い物を終わらせた。
 トイレに行こうと手前の洗面所のドアを開けようとしたとき、中から秋さんの声が漏れ聞こえた。
 
「あー……マジうぜぇ……」

 その秋さんのつぶやきに愕然となった。
 やっぱり俺が何かやっちゃったんだ……。
 俺が、秋さんを怒らせてるんだ……。
 それなのに俺は何も気づかずに、しつこく秋さんを問い詰めた。そんなのうざいに決まってる。
 ごめん、秋さん……。理由が何も思い当たらない。自分が何をやってしまったのか全然分からない。
 理由も分からないのに、謝っても許してもらえるわけがない。どうしたらいいんだろう。本当に分からなくて途方に暮れた。

 ドアの前から動けずにいると引き戸が開いた。
 秋さんが俺を見て目を見開き、顔を歪ませた。

「もしかして、聞いてた……?」
「……き、聞こえた……」
「…………悪い。今日は俺……自分の家帰るわ……」

 言われた意味が一瞬分からなかった。
 俺は秋さんと一緒に住んでいるつもりだったから。たまに秋さんの家にも移るけど、それはいつも二人一緒だったから。
 俺の家、秋さんの家じゃなくて、どっちも二人の家だと思っていたから……。
 
「……い、いやだ」

 涙がにじんで視界がぼやける。

「ちゃんと話したい……」
「俺はなんも話したくねぇ……」
「いやだ……お願いだから……っ」
「今日はお前と一緒にいたくねぇんだよっ」
「…………っ」

 俺、秋さんに何をしちゃった?
 なんで怒らせちゃった?
 ちゃんと話をしたいのに、それすらも拒否された。
 一緒にいたくないと思わせるほど……何をしちゃった……?

 パジャマから服に着替えた秋さんが玄関に向かうのを、ただ茫然と見ていることしかできなかった。
 今起こっていることが現実だと思いたくなかった。
 このまま行かせたら、もう戻ってこないかもしれない……。
 そう思うと怖くて引き止めたいのに、さっきの秋さんの言葉を思い出すと動けなくなる。
 俺と一緒にいたくない……そんなんことを言わせてしまった。本当に俺はいったい何をやってしまったんだろう。
 思い返しても何も思いつかない。毎日ずっと仲良くやってると思っていたのに……。
 玄関で靴を履く秋さんを見て、やっと俺の足が動いた。

「秋さん待って……っ」

 手を伸ばせば届くところまで追いかけた。でも怖くてふれることができない。
 また払いのけられたら……。これ以上秋さんにきらわれたくない。そう思うと手をふれることもできない自分が、本当に情けなくていやになった。

感想 7

あなたにおすすめの小説

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

おひめさまな俺、帝王に溺愛される

  *  ゆるゆ
BL
帝王陛下に捧げられることになった小国の王族レイには、大変な問題が──! ……男です。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

君に不幸あれ。

ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」 学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。 生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。 静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。 静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。 しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。 「好きになられるからあいつには近づかない方がいいよ。」 玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。 それから十年後。 静は玲に復讐するために近づくが…

BL短編まとめ(現) ①

よしゆき
BL
BL短編まとめ。 冒頭にあらすじがあります。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……