ふれていたい、永遠に

たっこ

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番外編

神宮寺家 1

✦side蓮✦
 

 スマホが鳴って目が覚めた。
 いつものようにアラームを止め、スケジュールの確認のために画面を見ると、そこには楓姉さんの名前。

「姉さん……?」
 
 ん? 姉さんがどうしたんだろう。名前だけで内容が書かれてない。俺入れ忘れた?

「蓮……それアラームじゃなくて電話じゃね……?」

 秋さんの寝起き声が聞こえた。俺の腕の中でモゾモゾと動いてスマホ画面を覗いてくる。
 
「蓮、これ電話つながってる」
「え?」
「だから、もうつながってるから。とりあえず耳に当てな」
「……え、あ、うそ、電話つながってるの……?」
 
 寝起きで働かない頭のまま、とりあえず秋さんの言うとおりスマホを耳に当てた。
 
「……もしもし?」
『もしかして寝てた?! ねえ! いまの、いまのって秋人!? あ、えっと秋人くん!?』

 出たとたんに、姉さんの興奮したような叫びが耳に飛込んでくる。
 
「え……いまの? あ、うん秋さん……」
『うわー! うわー! そっか! 一緒に寝てるのね! そっか! えー! そっか!』
「うるさ……」

 あんまりうるさくて耳から離すと、秋さんがふはっと笑った。

「……聞こえた?」
「うん、聞こえた」
「ごめん、もうすっかり秋さんのファンだから、興奮してるっぽい……」
「え、マジで? うわ、それ嬉しいな」

 おかげでいつもより早く目が覚めてきた。
 いまは秋さんと連休中だ。今日は秋さんの「発熱」の翌日だからどこにも行けない日だ。

「姉さん、それでどうしたの?」
『あ、そうそう。蓮、二人でお楽しみのところなのは重々わかってるんだけど、連休どっか時間取れない?』
「え、なんかあった?」
『うん。実家が大変なことになってる』
「えっ! なに、なにかあったのっ?」
『仕事だって言ってた蓮が秋人くんと遊んでるって。どうなってるんだって。正月なんだから顔ぐらい見せに来るもんだってお父さん怒っちゃって。んで、みんなでなだめてるとこなんだけどさ……』

 電話を漏れ聞いたんだろう秋さんが「えっ!」っと叫んで身体を起こし、俺から電話をすばやく奪った。
 
「え、あ、秋さ……」
「すみませんっ!!」

 秋さんは電話越しに姉さんに謝った。
 
「あのっ、蓮は、蓮くんは悪くないんですっ。俺が一緒にいたくてわがまま言っちゃったんですっ。本当にすみませんっ!」

 秋さんはなにもわがままなんて言ってないのに、なんでそんなこと言うの。
 
「…………あ、突然すみませんっ。初めまして、久遠秋人です」

 秋さんが起き上がってしまったから電話が遠くて姉さんの声が聞こえない。
 俺は慌てて身体を起こして秋さんに引っ付き、スマホの後ろに耳を当てる。
 
『え、あ、あ、あの、はじ、初めまして、蓮の姉の楓と申します。あ、その、えっと……』
「お姉さん、本当にすみません。蓮くんはすぐに家に帰らせます」
「えっ! 秋さんちょっと待って、俺帰らないよ!」
「だめだ。すぐ帰れって。俺はいいから」
「やだよっ!」

 秋さんの手からスマホを奪い返して姉さんに言った。

「姉さん。俺六日に帰るから。父さんは仕事だろうから一日泊まるよ。それでいいよね?」
『……あ、蓮? 蓮だ! うわー! 秋人としゃべっちゃった! うわー! うわー!』
「ちょっと姉さん聞いてる?」

 姉さんはずっと興奮してて、俺の言ってることなんて全然耳に入ってない。
 
「蓮、だめだって。今日すぐ帰れ」

 秋さんは俺の腕をぎゅっとつかんでうつ向いた。

「やっぱ正月はちゃんと顔出すべきだったんだ。俺が悪かったよ……。お前との連休に浮かれすぎてた。ごめん。蓮も帰りづらかったよな」
「違うよっ! 俺が秋さんと一緒にいたくて帰らなかっただけだよっ。秋さんはなにも悪くないっ」

 目はすっかり覚めた。
 こんなことになったのは、きっと昨日のネットニュースのせいだ。でもだからって父さんも怒ることないのに。俺だって休みを自由に楽しんだっていいじゃないか。

『うわー。ラブラブだぁ。うわー。やば……萌える……』
「うるさいよ姉さん」
『あはは、ごめんごめん。てかさ、秋人くん熱大丈夫なの? ごめん、考えなしに電話しちゃって』
「あー……うん。えっと……もう元気」
『そうなんだ、よかったっ。んじゃ、ちょっと顔出せない?』
「だからさ、六日に帰るから。それでいいよね?」
『んー六日かぁ。お父さんの機嫌直るかなぁ』

 父さんへそ曲げたらしばらく引きずるからな、とため息が出た。

『秋人くんが元気なら二人で来たら?』
「…………は?」
『一緒にいたいから六日まで来られないって言ってるんでしょ? なら二人で来ればいいじゃない』

 姉さんはどういうつもりで言ってるんだろう、と困惑した。
 普通、正月に友達を実家に連れて行く?

「秋さんを連れて行くって……ちゃんと恋人として連れてこいって意味?」
『そうだけど?』

 それがどうした、みたいなノリで返ってきた返事に驚いて目を見張る。

「そうだけどって……。それこそ大変なことになるよ……」
『そうかな。お父さんってそういう偏見ないと思うけど』
「ない……とは思いたいけどさ……」

 父さんは頑固すぎて怖い。もし反対されたら、もう普通に話すことも出来なくなりそうだ。だって反対されったって俺は秋さんを諦めることは絶対に無いから。

「蓮、俺も行っていいのか?」

 ハッとして秋さんを見た。
 期待の目でキラキラしてる。あ、これは雫に会えるのが嬉しいって顔だ。秋さん本当に子供が好きなんだな。
 今日はどこにも行くなって榊さんに言われたけど、それは人前には出るなって意味だし、しっかり変装すれば大丈夫かな……。

「姉さんが秋さんを恋人として連れてこいって言ってるけど……どうしようか……」
「うん、行くならちゃんと挨拶しよう。当たり前じゃん」
「……大丈夫? 急に挨拶なんて……。秋さんの家みたいな感じにはならないよ、絶対……」

 秋さんが嫌な思いをしないか心配だ。それも自分の親のせいでつらい思いをさせるかもと思うと行きたくない。でも、いつかは挨拶しないといけないんだよな……。

「どんなことになっても、挨拶はちゃんとしなきゃだろ。俺の親は、あれは特殊だってわかってるから大丈夫だって」

 だから心配すんな、と頭をワシャワシャとされた。

「秋さん……」
『うそ、秋人くんのお家にはもう挨拶行ったの?』
「あ、うん。ちょっと色々あって……。えっと、バレちゃったから」

 うん、うそじゃない。でもまさかドッキリがしたくて呼ばれたなんて話せないよなぁ、と苦笑した。

『そっか。そうだったんだ。反対されなかった?』
「全然。すごい歓迎された。もう息子だって言ってくれたよ」
『息子! えー! まるで結婚でもするみたいね』
「あ……」

 そっか。まだ姉さんにそこまで話してなかった。

「あの、姉さん」
『うん?』
「俺たち、男同士だから正式には結婚できないけど、いつか結婚式は挙げるつもりなんだ」
『……え?』
「結婚指輪も、もう買った。まだ届いてないけど」
『…………は?』
「だから、今日秋さんを連れて行くってことは、そういう挨拶になるってことなんだけど、父さん大丈夫かな……」

 電話の向こうが静まり返る。姉さんが黙り込んでしまった。
 スマホの後ろに耳を当てていた秋さんが、不安そうな顔で俺を見てくる。
 そこまでの話なら反対だって言われるのかな、と俺も不安になったとき、電話の向こうから鼻をすする音が聞こえてきた。

「姉さん?」
『……すごい。蓮、すごいね。ただ付き合ってるだけかと思ったら……。本気なんだね』
「……うん。本気だよ」
『そっか。うん。じゃあそういう挨拶になるって伝えておく』

 いや俺がいまから自分で電話すると言ったら「私がクッションなったほうがいいと思う」と言われ、確かにそのほうがショックが和らぐかもしれないな、と納得した。

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