ふれていたい、永遠に

たっこ

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番外編

神宮寺家 7

✦side蓮✦
 

「時間は気にしなくていいだろう? 楓が送って行くからな」

 ビールをなみなみとグラスに注がれる。
 お前はまだ酎ハイか? と聞かれて、ビールも飲めるよと言ったらビール党の父さんがごきげんになった。
 秋さんもビール党だと言うとますます嬉しそうに、秋さんにも飲め飲めとグラスにどんどん注ぐ。
 秋さんは雫と遊びながら父さんの相手もしていて忙しい。
 守義兄さんは、お酒を飲む前にちょっと用を足しにと家に帰ってしまった。
  
「帰りはタクシーで帰るよ。姉さんも飲みたいでしょ」
「楓は飲めないから大丈夫だ」
「え?」
「二人目だとさ」
「えっ聞いてないよっ」
「私も年末に聞いたばかりだ」

 そうだったのか。あとでおめでとうと言わなくちゃ、と姉さんを見る。
 姉さんは、雫にずっと離してもらえない秋さんを見守りながら、母さんと二人で俺たちのドラマを観ていた。それも一回目のキスシーンの回からだ。
 なんでいまそんなの観るのと抗議すると、耳打ちで「だって二人とも演技じゃないんでしょ? そんなこと聞いたら、蓮と秋人くんだと思ってもう一度観たいじゃないのっ」と言って二人で手を合わせてキャーッと騒いでいた。
 俺も秋さんも恥ずかしくてテレビに顔を向けられないし、雫はキスシーンのたびに「もういっかいっ!」と二度も三度も要求するし、秋さんは両手で顔を隠して恥ずかしがるから、大人三人はリピート中はそっちをニヤニヤして見る。そのくり返しだった。
 もちろん俺も秋さんを見ている。
 そんな俺に、秋さんが雫に聞こえないように小声で言った。

「蓮……お前、なんで恥ずくねぇの……?」
「え? 恥ずかしいよ? でも秋さんが可愛いから見ないともったいないもん」

 俺も耳元で返事をする。
 
「……っはぁっ? ばっ、雫ちゃんの前でやめろよっ。顔見られたらやばいだろっ」

 秋さんが必死で赤面した顔を隠そうと両手で覆う。
 
「大丈夫。雫はテレビに釘付けだし、秋さんさっきからずっと顔赤いし。みんなもおもしろがって喜んでるし。なにも問題ないよ?」
「問題だらけだよっ」

 俺たちのやり取りを、みんなはずっとニヤニヤして笑って見ていた。
 真っ赤な顔で怒る秋さんは可愛いしかなくて、もう早く帰って抱きしめたい。……なんて、実家でそんなことを考えてる自分のほうが本当はドラマよりも恥ずかしい。
 キスシーンがやっと終わって、気を取り直したように雫とまた遊び始めた秋さんを眺めてビールを飲む。
 いいかげん相手にするの疲れてないかな、と心配になったけど、本当に嬉しそうに遊んでいるのが伝わってくる。

「秋人くん、ずいぶん子供に慣れてるのね」
「秋さん子供に慣れてないと思うよ? 兄弟はいないし、周りに子供がいるって話は聞いたことない」
「えっ、あれで? 私より遊ぶの上手よ?」
「そうなの?」

 お買い物ごっこからドーナツ屋さんごっこに変わって、秋さんがお客様役をやっていた。

「ドーナツおまたせしました~はいどうぞっ」
「やったー。ありがとうございます。あと、コーヒーもください」
「はいっ。コーヒーですねっ」
「コーヒーはおかわりできますよね?」
「えーと、おかわりはできませんよ?」
「ええ、できないんですか? 残念です」

 どこかのドーナツ屋さんのシステムを持ち出す秋さんに笑ってしまった。そして本当に残念そうだ。
 受け取ったドーナツセットを床に置き、コーヒーを飲もうとして手にした瞬間カップが倒れた。プラスチックでできたおもちゃのカップ。たぶん俺なら倒れなかったことにして戻してしまうだろう。でも秋さんは違った。

「ああ! すみませんっ、コーヒーこぼしちゃったんですけどっ」
「あらあら、だいじょうぶですか?」

 雫はこぼれたコーヒーを拭くまねをして「さっきはドーナツも落としたし。ふう。いそがしいおきゃくさまですねぇ。ふう」とため息をこぼす真似をする。でもその顔は本当に楽しそうだった。

「あの、まだ一口も飲んでなかったんですけど……もう一杯タダでもらえます?」
「おきゃくさん、わがままはだめですよ? いっぱいひゃくえんです」
「えー。だめですか? ……じゃあ、はい、百円」
「はい、ありがとうございますっ」

 二人のやり取りを見て、姉さんが俺に「ね?」と微笑んだ。
 
「私はさ、ついつい適当に相手しちゃうんだけど、秋人くんは本当にリアルに本気で相手してくれてるから、雫の表情がいつもと全然違うの。楽しいーって顔いっぱいで言ってる。目がキラキラしてるの。見習わなきゃーって反省しちゃった」
「そっか……。秋さん、本当に子供が好きなんだなぁ……」

 秋さんの顔も本当に楽しいって言っていて、顔いっぱいで可愛いって言っていて、やっぱりちょっとだけ思ってしまった。もしも相手が俺じゃなければ、秋さんも子供を持つことができるのにと。

「蓮、もしかして、秋人くんが子供が好きだから悩んでる?」
「……ちょっとだけ……ね。この間、秋さんにも言われた。俺と一緒にいたら子供ができないって言うのは無しだからなって」
「そっか。さすが秋人くん。蓮の考えることはお見通しだったか」
「……姉さん、あのさ」
「うん?」

 姉さんに二人目ができたと父さんに聞いてから、言おうかどうしようか悩んでいた。
 俺はおずおずと口を開く。
 
「あのさ。姉さんの家に、さ。……秋さんと一緒に遊びに行ってもいい?」
「なによ、あらたまって。いいに決まってるでしょ?」
「えっと、その……ね。雫も、生まれてくる赤ちゃんも、秋さんと一緒に成長を見守りたい……って言ったら、重いかな……」

 秋さんが本当に子供が好きなこと。すごく雫に会いたがったこと。今日も朝から雫に会えると嬉しそうだったこと。いまもこんなに幸せそうに雫を可愛がっていること。ポツポツと話して、だから……とつなげようとした。でもそれを口にする前に姉さんが俺の背中をバシッとたたいた。

「痛……っ」
「そんなの願ったり叶ったりよっ。二人目でバタバタだろうし、来てくれたら遠慮なくこき使っちゃうよっ?」
「うん、もちろん。いくらでもっ」

 姉さんが何度も背中をたたく。それが慰めの意味だとわかるから思わず目頭が熱くなった。

 守義兄さんが戻ってきて、あらためてみんなで乾杯をした。
 本当ならいまが夕飯時というころ、昼寝もせずに遊んでいた雫がコテッと寝てしまった。母さんが慣れた風にリビング奥の和室に雫を寝かせる。
 姉さんが秋さんにビールを注ぎながら謝った。 

「秋人くん疲れたでしょう? ごめんね。ずっと遊んでくれて本当にありがとね」 
「とんでもないです。すごく楽しくて癒やされました」
「本当に遊んであげるの上手でびっくりしちゃった」
「いや、えっと、遊んであげたっていうか、俺が遊んでもらったって感じです」

 雫は俺が秋さんに変わって遊ぼうとしても秋さんを離さなかった。一日で俺より秋さんに懐いてしまった。
 でも俺はあんなに本気で遊んであげたことはないから、ショックよりもむしろ尊敬した。

「お疲れ様、秋さん」
「蓮ー。雫ちゃん可愛いなぁ……。はぁ、癒やされた……。つぎはいつ会えるかなぁ」
「また会いに来ようね」
「ん、絶対来る」

 秋さんはソファにくつろぎながらも、寝ている雫をずっと眺めてる。一緒にいるのに俺を見ない秋さんなんて初めてだ。

「お前たち何時ごろ帰る? 今日はもう泊まって行ったらどうだ?」

 父さんが余計なことを言い出したから俺は断固拒否をした。

「やだ。泊まらない。絶対帰る」 
「え、どうした蓮」

 そんな俺に驚いたように目を見開く秋さんに俺は言った。

「だって。泊まったら明日またきっと雫に秋さん取られるもん」

 すると秋さんがぶはっと吹き出した。

「なんだそれ。雫ちゃんに嫉妬してんの?」
「するよっ。初めてライバルが現れたと思ったよっ」

 俺の言葉に秋さんだけじゃなく、みんなも声に出して笑った。
 だって本当に強力なライバルだよっ。
 
「蓮くん、秋人くん、ちょっといいかな」

 守義兄さんは立ち上がると、バッグから封筒を取り出して食卓テーブルに置いた。

「守? なにそれ?」

 姉さんもきょとんとして義兄さんを見て立ち上がる。
 義兄さんがニコニコ顔で手招きするから、秋さんと顔を見合わせながら食卓テーブルに移動した。
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