ふれていたい、永遠に

たっこ

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番外編

わがままドッキリ✦side秋人✦終

 もし怒らなくても、これでやめにしよう。絶対やめる。
 もうわがままなんて言いたくない。
 優しくて思いやりの塊でしかない蓮を、これ以上振り回したくない……。
 
「秋さん」

 ビクッとした。悪いことをしたあとの子供みたいに怖くなった。
 いつの間にかうつむいていた顔をゆっくりと上げて蓮を見る。
 蓮は、靴を脱いで鍵を棚に戻し、落ち着いた表情で俺に向き直る。

「れ……蓮」
「部屋、戻るよ」

 と、蓮は突然俺を姫抱っこで抱き上げると、スタスタとリビングに向かって歩き出した。

「ちょ……おい?」
「なに?」
「なに……って……」

 俺に向ける蓮の顔がいつも通りで困惑する。
 さっきのはさすがに本当にやばいくらいのわがままだったはず。
 本当に……何やっても怒らないんだな……。

 蓮はソファに俺を下ろし、隣に腰かける。

「秋さん」
「うん」

 蓮のことだから、きっと優しく俺を正してくれるんだろう。
 ちゃんとお叱りを受けよう。そしてちゃんと謝って、それからドッキリだったと打ち明けよう。
 そう考えていたら、不意に蓮の顔が近づいてきて、まぶたにチュッとキスが落とされた。

「ん……」
「愛してるよ、俺の秋さん」
「……れ、蓮」

 反対のまぶたにもキスが落ちる。

「世界で一番大好き」

 次は額にキス。

「秋さんしかいらないくらい、愛してる」

 頬にキス。
 すき、大好き、愛してる、次々とキスをしながら、蓮は俺をとろけさせた。
 蓮はどれだけ俺がわがままを言っても、怒らないどころか心配してくれている。
 俺が弱って情緒不安定にでもなってると思ってんのかな……。
 でも、今ここで好き好き攻撃……すごいホッとする。蓮が俺を、少しも疎ましく思っていないことに安心する。

「蓮……愛してる……」
「うん。愛してるよ、秋さん」

 蓮は最後に唇に優しくキスをして、俺をぎゅうっと抱きしめてくれた。

「秋さん、もっとわがまま言っていいよ? 次はなに?」

 それはひたすらに優しい声色だった。
 わがまま言ってるって気づいてたんだ。そりゃ気づくか。

「…………もう、いい」
「なんで? すごい可愛いのに。あ、パルノ買ってこようか?」
「……食べたい」
「うん、買ってくるよ」

 チュッと唇にまたキスをして、ニコニコと笑いかける蓮の手を握る。

「一緒に散歩行く」
「ほんと? じゃあ行こ」
「ん。着替えてくる」
「あれ? ジャージだからいいんじゃないの?」
「……着替えるから待ってて」
「ふふ、うん、わかった」

 私服に着替えて蓮とコンビニまで散歩した。
 少し遠回りして、公園のブランコに座って二人でアイスを食べた。
 さっきのガリガリちゃんソーダは冷凍庫に二人分入ってる。
 今は二人でパルノをかじってる。
 自分が食いたいアイス買えよ、と言うと「秋さんと同じがいい」なんて可愛いことを言ってパルノを買った。そういえば、蓮の好きなアイスを知らないことに気づく。だっていつも俺と同じものを食べるから。
 ブランコをゆらしながらアイスをかじる。
 遠くからパシャパシャ写真を撮られているけれど、俺たちは気にせずいつも通りに振る舞った。どうせ、仲良いねって言われるだけだから。
 男同士って楽だな。
 ここは公園だから、聞かれてもいい話は普通に、やばそうなところは耳打ちで会話をする。外ではいつもの習慣だ。

「蓮、ごめんな」
「なんで謝るの? すごい楽しかった」

 耳に口を寄せて「すごい可愛かった」とささやいて破顔する。

「なんで怒んねぇんだよ……ちょっとは怒れよ」
「え? なんで怒るの? 怒るとこあった?」

 心底不思議そうな顔をするから、さすがの俺も吹き出した。
 謝んなきゃだめなのに、おかしくて笑いが止まらない。
 さすが蓮だな。

「で、なにがあったの? 絶対なにかあったよね? 秋さん、大丈夫?」

 心配そうに俺を見つめる蓮の優しい瞳。
 この瞳がいつまでも俺に向けられていてほしいと願う。
 俺だけの、蓮の瞳。

「これ、やってた」
「これ?」

 スマホで動画アプリを開き、わがままドッキリの検索画面を蓮に見せた。

「わがままドッキリ? え、ドッキリだったの?」
「どこで蓮が怒るのかの検証してた」
「えー? なんでそんなこと?」
「京のリクエスト」
「へ?」

 簡単に説明をして、もし本気で怒ったらドッキリ大成功の紙を持って駆けつけてくれる約束だったと話すと、蓮がクスクスと笑い出す。

「それ面白いね。なーんだ、怒ればよかった」
「……やっぱ怒りたいとこあった?」
「ううん。全然?」

 と笑ってまた耳元に唇を近づける。
 
「すっごい可愛く甘えてくるから、なんのご褒美かと思った」
「ご褒美……って」
 
 やっぱり蓮にわがまま言うと喜ぶだけだった。
 そんな気はしたけど、まさか本当にそうだとは……。蓮、まるで菩薩ぼさつだな。
 
「蓮が怒らないのって、誰でも? 俺だけ?」
「うーん?」

 蓮はしばし考えて、ああ、と思い出したように話し出す。

「父さんとは、たまに意見が食い違って言い合いになるよ」
「……ああ、正月を思い出すな」

 行って早々に険悪なムードで怖気づいたっけ。
 でも、そう言うってことはきっと身内だけかな。
 他は、ほぼ誰にでも怒らないんだろう。
 …………なんか妬けるじゃん。

「蓮、帰ろ」
「うん、帰ろっか」

 食べ終わったあとのゴミを、蓮は自然と俺の手からスッと取り上げる。
 汚れないようにアイスの袋に棒を戻しエコバッグに入れた。

「ほんといい男だな?」
「ん?」

 なにが? という顔を向けてくるからほんと可愛い。

「手繋ぎてぇ……」
「き、聞こえるよっ」
「聞こえねぇよ、大丈夫だって。なぁ。わがまま言ってばっかでさっきの全然満足できなかった」 
 
 続きを耳元でささやく。
 
「早く帰ってもっかいしよ?」
「……秋さん、外ではもうちょっと気をつけようか」
「……ごめん。なんか反発心がさ」

 立ち上がって蓮の肩に手を乗せ、かがんで蓮の耳元に小さく小さくささやいた。

「俺の夫、最高だろって……自慢したくてさ」
「……うん。俺も同じ気持ちだよ」

 ふわっと笑って蓮が立ち上がる。

「帰ろ?」
「ん、帰ろ」

 俺たちは家に帰り、ドアがしまった瞬間に唇を合わせた。
 コアラ抱きでキスをしながらベッドに運ばれ、たっぷり蓮に愛された。
 わがままドッキリは失敗に終わったし、蓮の優しさは俺にだけじゃないかもしれないと判明した。
 蓮が最高の男だということは誰の目にも明らかだ。
 夫夫ふうふになったからって気をゆるめたらだめだな。
 蓮を誰にも取られないように、さらに気を引き締めよう。
 蓮にずっと愛してもらえるように、もっと努力しよう。
 俺はそう心に誓った。

          ◇   

「なんだそれは。わがままドッキリ?」
「そうそう。動画検索するといっぱい出てくるんですよ」

 送迎の車の中、榊さんとドッキリの話になった。
 なったというより、俺が勝手に榊さんが京から聞いて知っていると思い込んで話し出したのが原因だ。

「で? 蓮くんは予想通り怒らなかったんだろ?」
「え? 予想通り?」
「俺の予想だ」
「榊さんの予想もそうなんだ。そうなんですよ。全然怒らなくて。もーまったく。一ミリも」
「だろうな」

 あのあと京に報告したら「マジかーっ! 蓮くんすげぇなっ! さすがだなっ!」と大興奮だった。

「それで反省後の公園アイスに繋がったと?」
「う……っ。ごめんなさい」

 予想はしていたけれど、SNSの写真や動画がすごかった。
 俺たちの耳打ち動画であふれ返り、尊い、仲良し、イチャイチャ、あやしい、予想以上の反響だった。
 あれだけ堂々としていたら、逆にあやしいとはならないと思ったのに甘かった。

「しばらくデート禁止だぞ」
「…………はい」
「まあ、堂々としすぎてるから、ふざけてるんだろうって空気になりつつあるし大丈夫だろ」
「だといいけど……」
「それより、わがままドッキリってどうやるんだ?」
「え?」
「俺もやってみるかな。楽しそうだ」
「マジで?! 榊さんが?!」

 榊さんは京が絡むと本当に人が変わるからびっくりする。
 動画をいくつか榊さんに送って、検索すればいっぱい出てくることを説明した。

「結果、教えてくださいね?」
「動画は撮らなくていいのか?」
「撮ってもいいけど、流出怖いでしょ?」
「……たしかにそうだな」

 京のやつ、まさか自分に返ってくるとは思ってもいないだろうな。
 俺は後部座席で笑いが止まらなかった。




 end.
 
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