【完結】本気だと相手にされないのでビッチを演じることにした

たっこ

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14 吹雪の子

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 冬磨が気だるげに身体を起こし、ベッドの背に寄りかかってタバコに火をつけた。
 俺はいつもそんな冬磨の横で、力の入らない身体を休めることに集中する。
 二度目に抱かれた日、冬磨は余韻にひたる俺に「天音はタバコ吸う人?」と聞いてきた。吸わないと答えると「そっか」と言って身体を起こし、シャワーに行こうとする。

「冬磨は……? 吸うの?」
「やめたいんだけどな。なかなかやめられなくて」
「じゃあ……吸っていいよ」
「いいよ。外に出てからで」
「いいって。吸いたいんだろ? 慣れてるからいいよ」

 周りに吸う人はいないけど、俺はそう言った。

「でも、身体に悪いだろ」
「いいっつってんだろ……」
「……そ? ん、じゃあ……お言葉に甘えるかな」

 サンキュ、と頭をくしゃっと撫でられた。
 よかった。冬磨には何も我慢してほしくない。そのままの冬磨で俺の横にいてほしい。冬磨が吸うタバコなら嫌じゃない。

 あの日から冬磨は、終わったあとは俺の横で必ずタバコを吸う。
 その姿に、俺は毎回ときめいている。
 タバコを吸う冬磨……カッコイイ……。
 本当に神レベルだな……なんて思いながら冬磨を見つめた。
 どうして俺なんかが相手にしてもらえるんだろう。もうずっと気になっている。

「……なぁ。なんで……俺だったんだ?」
「ん? なにが?」
「だから……なんで俺をセフレにしたのかって聞いてんの。忙しいくらいセフレいんのに、なんで……?」

 新しい子はいらないと言っていたのに、冬磨のほうから俺を誘ってきた。何度考えてもその理由がわからない。

『新しいセフレは作らないって言っといてコイツは作ったじゃんっ。なんでっ?!』

 先日、バーで言われたあの言葉が頭から離れない。
 俺の本気じゃない演技がよかったんだろうか。
 でも、いままで冬磨に断られてきた人たちだって、みんながみんな本気の目をしていたわけじゃないだろうと思う。
 他の人と俺との違いはなんだったんだろう。

「なんで……か」

 冬磨はそう言葉をこぼし、どこか遠くを見つめてふわっと微笑んだ。

「お前見てたら思い出しちゃってさ」
「なにを?」
「吹雪の子」
「吹雪の子……?」
「うーん、半年前くらいかな? ああ、そうそう去年の年末だ。すげぇ吹雪の日にさ。すっげぇおっちょこちょいの可愛い奴に会ったんだよ」
「……へぇ」
「酒は派手にこぼすし、吹雪なのにマフラーは店に忘れるし、マジでおっちょこちょいでさ」

 話しながら、クスクスと冬磨が笑っている。
 酒に……マフラー…………?
 え……まさか……俺のこと……?
 去年の年末って時期も合ってる。
 俺は信じられない思いで冬磨を見上げた。手が震えだして、ぎゅっと布団を握りしめた。

「そんなのずっと忘れてたんだけど、お前の笑った顔見たら急に思い出して」

 ドクドクと心臓が暴れ出す。
 もしかして最初から全部バレてた……?
 冬磨の言う『可愛い奴』が俺だとわかっているなら、いまの俺は偽った姿だときっとバレてる……。

「なんかすげぇ綺麗な子だったんだよな。顔がっつーか、全部が。俺が手出しちゃ絶対だめって感じの子でさ。なんかいろいろ一生懸命で。一瞬見せた笑顔がすげぇキラキラしてて……。うん、とにかくすげぇ新鮮でさ」

 鼻の奥がツンとしてくる。
 まさか冬磨がそんな風に俺を見てたなんて……嘘みたいだ……。
 冬磨の目に、俺が綺麗な子として映っていたんだと知って、頬が火照って胸が熱くなる。

「顔とか全然覚えてねぇんだけど、雰囲気がお前に似てんのかな。思い出したらなんか懐かしくなって。あの子にはふれちゃだめだったけど、天音はいいかなって。……つってもただのきっかけだけどな?」

 俺だってバレてるわけじゃないんだ、とホッとしながら、胸が張り裂けそうになって息が詰まる。
 だめだ。このままだと気持ちがだだ漏れる。
 俺は慌てて冬磨に背中を向けた。

「天音?」

 そんな俺に、冬磨は「あ……」と声を上げ、うろたえるように謝ってきた。

「ご、ごめん、天音。ただのきっかけのつもりで話したけど、これすげぇ失礼な話だよな? 悪い! ごめんっ!」
「…………ほんと、失礼だな」

 きっとここは怒る場面。それなのに涙が出そうで声が震えた。どうしよう。冬磨に変に思われる。
 ビッチ天音ならなんて言うだろう。ビッチ天音なら……。

「……しらけた。先シャワー入るわ」

 重い身体をなんとか起こし、冬磨に背を向けたままベッドから降りる。冬磨から離れると、一気に気がゆるんで涙があふれ出した。
 やばい。早く行かなきゃ。

「天音ごめんっ。ほんと……っ」
「別に……どうでもいい。興味ねぇ」

 床に落ちてるバスローブを拾って羽織り、バスルームに向かう。
 涙がこらえきれずに頬をつたって流れ落ちた。
 冬磨への思いがあふれ出て、もう胸が張り裂けそう……。

「天音……」

 気遣うような冬磨の声色に、胸がぎゅぅっと苦しくなった。
 冬磨は俺が傷ついたと思って心を痛めてる。
 本当は真逆なのに。気が遠くなりそうなほど幸せで胸がいっぱいなのに。
 伝えたいけど伝えられない……。ごめんね、冬磨。

「しらけたってのは嘘。とりあえず理由がわかって満足した。あとはどうでもいい。そもそも俺たち、そういうの気にしない関係だろ」
「……天音」

 冬磨がこれ以上気にしないでくれたらいいなと願う。

 最高に嬉しい理由をありがとう、冬磨……。

 
 
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