【完結】本気だと相手にされないのでビッチを演じることにした

たっこ

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16 目を見られるわけにはいきません ※

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「天音、目開けろよ。俺を見て?」
「…………っ、ぁ……っ……」
 
 冬磨になにも答えられない。
 声を押し殺すだけでいっぱいいっぱいだ。
 
「天音」
 
 冬磨が優しく俺の中を動く。いつもと違うところに当たる。ゆっくりと優しくこすられる感じに、また俺の身体は喜んで震え出す。

「痛い? 気持ちよくない?」

 痛いわけがないし死ぬほど気持ちいい……。
 でも、それを知られるわけにはいかない。できるなら今日限りにしてほしい。
 俺はなにも答えず、目をぎゅっと閉じ続けた。
 冬磨の視線が痛いほど刺さる。なにもかも見透かされる気がして、恐ろしい……。

「天音……目開けろって。お前の顔が見たくて前からやってんのに……」

 ごめん、冬磨。それは無理。
 冬磨と繋がって幸せで死にそうなのに、絶対に開けられないよ……。
 いま目を開ければ、きっと冬磨への想いがあふれ出る。隠しきれるわけがない。

『目を見ればわかる』

 冬磨の言葉を思い出して動悸が激しくなる。
 怖い。目をつぶっていても怖い。
 早く……早く終わって……お願い。
 冬磨に抱かれながら、初めてそんなことを思っていた。

「ぁぁ……っ、…………っ」

 声が出る。もう抑えきれない。どんどん震えが大きくなって、絶頂が近いことを俺の身体が冬磨に教える。

「天音、ちゃんとイきそうじゃん」

 ふいに冬磨の手のひらが俺の頬包み、指が優しくまぶたにふれた。

「そんなぎゅってしてたらつらいだろ。大丈夫だから開けろって」

 なにが大丈夫だと冬磨は言ってるんだろう。
 俺の気持ちなんてわかるはずない。
 冬磨をまっすぐ見つめたいのに見つめられない俺の気持ちは、冬磨には絶対にわからない。
 もう、悲しいのか悔しいのか愛しいのかわからない。心がぐちゃぐちゃだった。
 それでも冬磨に与えられる快楽は波のように押し寄せてきて、俺は枕をぎゅっと握りしめた。

「あ……っ、と……ま……っ!」

 必死で声を抑えて俺は果てた。
 それを追いかけるように冬磨も終わりを迎えた。
 めずらしい……と、俺は脱力感の中で眉を寄せる。
 冬磨はいつも、俺が一回イッたくらいじゃ終わらない。
 冬磨がすぐに果てたのは、初めて抱かれたあの日だけだ。
 なにかが変だと察した。感じたこともない嫌な空気。
 冬磨の苛立ちが伝わってくる気がした。
 
 ……やっぱり……バレたんだ……。

 さっと血の気が引いていく。
 目を見なくても、きっと気持ちがだだ漏れだったんだ。
 やっぱり前からはだめだったんだ……。
 ぐっと喉の奥が熱くなって涙があふれそうになった。
 ここでは泣かない。冬磨の前では絶対泣かない。
 俺はビッチ天音……ビッチ天音。

 終わったあとはいつも脱力した身体を俺に預けるようにして息を整える冬磨が、今日はすぐに俺から離れていく。
 そして、ベッドの背によりかかる気配と、カチッとライターの火を付ける音が響く。
 隣からタバコの煙が漂い出して、俺は覚悟を決めた。

「……お前さ。なんでずっと目つぶってんの?」

 想像と違うことを問われて一瞬理解できなかった。
 あ……そっち?
 それで冬磨、苛立ってるの?
 思わず目を開けて冬磨を見た。
 初めて見る冷たい表情に背筋が凍る。
 でも、ビッチ天音を演じなきゃ。どうしてずっと目をつぶってるのかと問われてる。なにか答えなきゃ……。

「……最中のことなんて知らねぇよ」
「はぁ? それはないだろ。目開けろって何回言ったと思ってんだ」

 初めて浴びる冷たい口調。冬磨が本気で怒ってる。どうしよう……どうしたらいいんだろう。まったくわからない。

「前からは……慣れてないんだ。マジで最中のことは知らねぇ……」

 慣れてないのは本当だ。だって今日初めてやったもん。
 本当にいっぱいいっぱいだったもん……。

「しらけるんだよ。ちゃんと目開けろよ」

 しらける……。
 ガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。
 だから……。だからあんなに……前は嫌だって言ったのに……。

「……しらけるなら……俺なんて切ればいいじゃん。セフレなんて他にいっぱいいるだろ」

 思わず口から出てしまった。
 そんなこと言ってないだろ、と返してほしかったのかもしれない。
 冬磨に引き止めてほしかったのかもしれない。

「ふぅん」

 感情のこもっていない声をタバコの煙と一緒に吐き出して、ついでのように冬磨が続けた。

「じゃあ、切るかな」

 俺はきっと、なにか勘違いをしていた。
 冬磨の優しさは俺にだけじゃないのに、自分だけはずっと優しくしてもらえるとどこかで思っていたのかもしれない。
 血の気が失せて目の前がグラグラする。
 身体中が心臓にでもなったかのように、全身がドクドクと脈打つ。
 絶望で目の前が真っ暗になっていった。
 
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