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35 涙が止まりません
敦司は立ち上がってキッチンに向かいながら、不思議そうに聞いてきた。
「でもさ。天音だけ家に入れて、セフレっぽくないことしようとしたんだろ? そんなのもうセフレ以上になろうとしてんじゃねぇの?」
「……敦司……なんも知らないくせに適当なこと言わないでよ……」
ぐすぐす泣きながら文句を言った。こんなの八つ当たりだ。ごめん、敦司……。
「あー、はいはい。なんだよ、俺の知らないことって。話してみ? ……てか飯なんもねぇわ。レンチンご飯と納豆でいいか?」
俺の八つ当たりにも苦笑いで済ませてくれる。本当に最高の親友。敦司がいてくれてよかった。
俺は鼻をすすりながら身体を起こす。
「……味噌汁は?」
「ぜいたくだな、おい。インスタントならあるけどよ」
「……じゃあそれも。わかめがいい」
「へーいへい」
泣くのに忙しい俺に座ってろっと言って、敦司が二人分の朝食をローテーブルに用意し始める。
「敦司もまだ食べてなかったんだ」
「お前な……。いま何時だと思ってる? まだ六時だぞ。土曜の六時は普通まだ夢ん中だろ」
「……そっか。だよね、ごめん。なんも考えてなかった……」
「いいけどよ。今日は彼女来るから、ちっとは掃除しないとだし」
「えっ、何時に来るの?!」
「決まってない。いつも適当に来る」
「じゃあ俺帰んなきゃじゃんっ。ごめんっ」
「別にいいよ。今はお前の話が優先だろ。あいつはそんなことで怒んねぇから大丈夫。でも、お前のことは詳しく話してねぇから、聞かれて困ることだけ早く話せ」
「……うん。敦司、ありがと」
「てかソファの上ティッシュの山じゃん。お前ちゃんとゴミ箱に捨てろっ」
「……はい」
最後にもう一度ティッシュで鼻をブブーッとかんでから、言われた通りにゴミを捨て、手を洗ってからいただきますをした。
「相変わらずちゃんとしてんな」
「なにが?」
「なんでもない。いただきまーす。んで? 俺の知らないことってなに?」
聞かれたらまた涙がにじんだ。
納豆をかき混ぜながら、俺はボソボソと言葉にする。
「俺が捕まらなかったら、ほかのセフレがいるから気にすんなって言われた」
「……あー。それは……セフレ以上になりたいわけじゃ……ないのかも……?」
「かもじゃなくて、ないの。さっきだって、もっと引き止めてくれるかなって思ったけど、笑顔でまたなって言われたもん……」
納豆ご飯を食べながら冬磨の笑顔を思い出して、愛しいのか悲しいのかわからなくてまた泣けた。
「その冬磨って奴、何がしたいんだろな?」
「どういう意味……?」
「だってどう考えても思わせぶりだろ。この間のキスマークだってやばいぞあれ」
二回目のキスマークはワイシャツに隠れなかった。悩んだけれど絆創膏は逆に目立つ気がしてそのまま出社した。
直接は誰も聞いてこなかったけれど、松島さんだけは眉を寄せてキスマークを見てた。
俺は、夏はいつもジャケットを脱いで腕まくりをする。でも、社食で敦司に「なんだそれっ!」と叫ばれ、腕まくりを解かれた。腕にもキスマークが付いていることをすっかり忘れてた。
全身キスマークだとニマニマして教えると、敦司は理解できないといった顔で固まっていた。
「やってることセフレじゃねぇじゃん。でも言うことはセフレ。意味わかんねぇ」
「……うん。でも、それが冬磨なんだよ。だから、勘違いしちゃだめなの」
「てかさー。どこが好きなんだよほんと。ただのゲス男じゃねぇか」
ゲス男という言葉にカチンときた。
それこそ何もわかってない敦司には絶対に言われたくないっ。
「すっごい優しいんだよっ! すっごいすっごい優しすぎて毎日どんどん好きになるもんっ! もう俺……ずっと冬磨のそばにいたい。毎日会いたい……。うぅー……っ」
「あーもー。泣くなー」
敦司がティッシュを目元に押し付けてくる。
俺はズビズビ言いながら涙と鼻水の処理をした。
「そうだ……敦司。俺しばらくここに出入りしてもいい……?」
「ん? 出入り?」
「会社帰りに来て、二時間くらい置いてほしい。ほっといてくれていいから。時間経ったら勝手に帰るからさっ。お願いっ!」
「なんだそれ……」
セフレの家に出入りしてるように冬磨に見せたいことを説明すると、案の定あきれられた。
「俺が本気じゃないってもっと証明しないと。ね? 助けてよ。何度も出入りしてれば、一、二回くらい冬磨に見られるかもしれないじゃん? そしたらセフレがいるってもっと証明できる! 今よりもっと安心できるんだよ!」
俺が熱弁すると、敦司が盛大なため息を付いて「彼女が来ない日だけだぞ」と言って諦めた顔をした。
「うんっ。うんっ。ありがとうっ、敦司っ。来る日は必ずビール差し入れするからっ!」
「……おお、それいいな」
ちょっと満足そうな顔の敦司にホッとした俺は、ゆっくりご飯を食べた。
食器を片付けてサッと洗い、おわびに部屋の掃除を手伝ってから「じゃあ帰るね」とリュックを背負う。
「さすがに今見られたらやばいんじゃね? まだいていいぞ?」
「え? なんでやばいの?」
「は? だってお前、ゲス男の家出てきてからまだ二時間くらいだぞ?」
「うん。ホテルの休憩は二時間だからちょうどいいよね」
「……セフレの家ハシゴするような奴、って思われてもいいわけ?」
そう言われて俺は笑顔になった。
「それ、すごいビッチっぽい! いいね!」
「……いいならいいけどよ。まぁ、家に入るとこ見られてたらもう手遅れだしな」
冬磨にちょうど見られればいいのにな。
冬磨の家のリビングの窓から、ちょうどこのアパートが見える。
冬磨からは何もメッセージは届いてない。見ればきっと何か言ってくるよね。
何回出入りしたら見られるかな……。
早く……早く見られて安心したい。
「でもさ。天音だけ家に入れて、セフレっぽくないことしようとしたんだろ? そんなのもうセフレ以上になろうとしてんじゃねぇの?」
「……敦司……なんも知らないくせに適当なこと言わないでよ……」
ぐすぐす泣きながら文句を言った。こんなの八つ当たりだ。ごめん、敦司……。
「あー、はいはい。なんだよ、俺の知らないことって。話してみ? ……てか飯なんもねぇわ。レンチンご飯と納豆でいいか?」
俺の八つ当たりにも苦笑いで済ませてくれる。本当に最高の親友。敦司がいてくれてよかった。
俺は鼻をすすりながら身体を起こす。
「……味噌汁は?」
「ぜいたくだな、おい。インスタントならあるけどよ」
「……じゃあそれも。わかめがいい」
「へーいへい」
泣くのに忙しい俺に座ってろっと言って、敦司が二人分の朝食をローテーブルに用意し始める。
「敦司もまだ食べてなかったんだ」
「お前な……。いま何時だと思ってる? まだ六時だぞ。土曜の六時は普通まだ夢ん中だろ」
「……そっか。だよね、ごめん。なんも考えてなかった……」
「いいけどよ。今日は彼女来るから、ちっとは掃除しないとだし」
「えっ、何時に来るの?!」
「決まってない。いつも適当に来る」
「じゃあ俺帰んなきゃじゃんっ。ごめんっ」
「別にいいよ。今はお前の話が優先だろ。あいつはそんなことで怒んねぇから大丈夫。でも、お前のことは詳しく話してねぇから、聞かれて困ることだけ早く話せ」
「……うん。敦司、ありがと」
「てかソファの上ティッシュの山じゃん。お前ちゃんとゴミ箱に捨てろっ」
「……はい」
最後にもう一度ティッシュで鼻をブブーッとかんでから、言われた通りにゴミを捨て、手を洗ってからいただきますをした。
「相変わらずちゃんとしてんな」
「なにが?」
「なんでもない。いただきまーす。んで? 俺の知らないことってなに?」
聞かれたらまた涙がにじんだ。
納豆をかき混ぜながら、俺はボソボソと言葉にする。
「俺が捕まらなかったら、ほかのセフレがいるから気にすんなって言われた」
「……あー。それは……セフレ以上になりたいわけじゃ……ないのかも……?」
「かもじゃなくて、ないの。さっきだって、もっと引き止めてくれるかなって思ったけど、笑顔でまたなって言われたもん……」
納豆ご飯を食べながら冬磨の笑顔を思い出して、愛しいのか悲しいのかわからなくてまた泣けた。
「その冬磨って奴、何がしたいんだろな?」
「どういう意味……?」
「だってどう考えても思わせぶりだろ。この間のキスマークだってやばいぞあれ」
二回目のキスマークはワイシャツに隠れなかった。悩んだけれど絆創膏は逆に目立つ気がしてそのまま出社した。
直接は誰も聞いてこなかったけれど、松島さんだけは眉を寄せてキスマークを見てた。
俺は、夏はいつもジャケットを脱いで腕まくりをする。でも、社食で敦司に「なんだそれっ!」と叫ばれ、腕まくりを解かれた。腕にもキスマークが付いていることをすっかり忘れてた。
全身キスマークだとニマニマして教えると、敦司は理解できないといった顔で固まっていた。
「やってることセフレじゃねぇじゃん。でも言うことはセフレ。意味わかんねぇ」
「……うん。でも、それが冬磨なんだよ。だから、勘違いしちゃだめなの」
「てかさー。どこが好きなんだよほんと。ただのゲス男じゃねぇか」
ゲス男という言葉にカチンときた。
それこそ何もわかってない敦司には絶対に言われたくないっ。
「すっごい優しいんだよっ! すっごいすっごい優しすぎて毎日どんどん好きになるもんっ! もう俺……ずっと冬磨のそばにいたい。毎日会いたい……。うぅー……っ」
「あーもー。泣くなー」
敦司がティッシュを目元に押し付けてくる。
俺はズビズビ言いながら涙と鼻水の処理をした。
「そうだ……敦司。俺しばらくここに出入りしてもいい……?」
「ん? 出入り?」
「会社帰りに来て、二時間くらい置いてほしい。ほっといてくれていいから。時間経ったら勝手に帰るからさっ。お願いっ!」
「なんだそれ……」
セフレの家に出入りしてるように冬磨に見せたいことを説明すると、案の定あきれられた。
「俺が本気じゃないってもっと証明しないと。ね? 助けてよ。何度も出入りしてれば、一、二回くらい冬磨に見られるかもしれないじゃん? そしたらセフレがいるってもっと証明できる! 今よりもっと安心できるんだよ!」
俺が熱弁すると、敦司が盛大なため息を付いて「彼女が来ない日だけだぞ」と言って諦めた顔をした。
「うんっ。うんっ。ありがとうっ、敦司っ。来る日は必ずビール差し入れするからっ!」
「……おお、それいいな」
ちょっと満足そうな顔の敦司にホッとした俺は、ゆっくりご飯を食べた。
食器を片付けてサッと洗い、おわびに部屋の掃除を手伝ってから「じゃあ帰るね」とリュックを背負う。
「さすがに今見られたらやばいんじゃね? まだいていいぞ?」
「え? なんでやばいの?」
「は? だってお前、ゲス男の家出てきてからまだ二時間くらいだぞ?」
「うん。ホテルの休憩は二時間だからちょうどいいよね」
「……セフレの家ハシゴするような奴、って思われてもいいわけ?」
そう言われて俺は笑顔になった。
「それ、すごいビッチっぽい! いいね!」
「……いいならいいけどよ。まぁ、家に入るとこ見られてたらもう手遅れだしな」
冬磨にちょうど見られればいいのにな。
冬磨の家のリビングの窓から、ちょうどこのアパートが見える。
冬磨からは何もメッセージは届いてない。見ればきっと何か言ってくるよね。
何回出入りしたら見られるかな……。
早く……早く見られて安心したい。
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