【完結】本気だと相手にされないのでビッチを演じることにした

たっこ

文字の大きさ
35 / 154

35 涙が止まりません

 敦司は立ち上がってキッチンに向かいながら、不思議そうに聞いてきた。

「でもさ。天音だけ家に入れて、セフレっぽくないことしようとしたんだろ? そんなのもうセフレ以上になろうとしてんじゃねぇの?」
「……敦司……なんも知らないくせに適当なこと言わないでよ……」

 ぐすぐす泣きながら文句を言った。こんなの八つ当たりだ。ごめん、敦司……。

「あー、はいはい。なんだよ、俺の知らないことって。話してみ? ……てか飯なんもねぇわ。レンチンご飯と納豆でいいか?」

 俺の八つ当たりにも苦笑いで済ませてくれる。本当に最高の親友。敦司がいてくれてよかった。
 俺は鼻をすすりながら身体を起こす。

「……味噌汁は?」
「ぜいたくだな、おい。インスタントならあるけどよ」
「……じゃあそれも。わかめがいい」
「へーいへい」

 泣くのに忙しい俺に座ってろっと言って、敦司が二人分の朝食をローテーブルに用意し始める。

「敦司もまだ食べてなかったんだ」
「お前な……。いま何時だと思ってる? まだ六時だぞ。土曜の六時は普通まだ夢ん中だろ」
「……そっか。だよね、ごめん。なんも考えてなかった……」
「いいけどよ。今日は彼女来るから、ちっとは掃除しないとだし」
「えっ、何時に来るの?!」
「決まってない。いつも適当に来る」
「じゃあ俺帰んなきゃじゃんっ。ごめんっ」
「別にいいよ。今はお前の話が優先だろ。あいつはそんなことで怒んねぇから大丈夫。でも、お前のことは詳しく話してねぇから、聞かれて困ることだけ早く話せ」
「……うん。敦司、ありがと」
「てかソファの上ティッシュの山じゃん。お前ちゃんとゴミ箱に捨てろっ」
「……はい」

 最後にもう一度ティッシュで鼻をブブーッとかんでから、言われた通りにゴミを捨て、手を洗ってからいただきますをした。

「相変わらずちゃんとしてんな」
「なにが?」
「なんでもない。いただきまーす。んで? 俺の知らないことってなに?」

 聞かれたらまた涙がにじんだ。
 納豆をかき混ぜながら、俺はボソボソと言葉にする。

「俺が捕まらなかったら、ほかのセフレがいるから気にすんなって言われた」
「……あー。それは……セフレ以上になりたいわけじゃ……ないのかも……?」
「かもじゃなくて、ないの。さっきだって、もっと引き止めてくれるかなって思ったけど、笑顔でまたなって言われたもん……」

 納豆ご飯を食べながら冬磨の笑顔を思い出して、愛しいのか悲しいのかわからなくてまた泣けた。

「その冬磨って奴、何がしたいんだろな?」
「どういう意味……?」
「だってどう考えても思わせぶりだろ。この間のキスマークだってやばいぞあれ」

 二回目のキスマークはワイシャツに隠れなかった。悩んだけれど絆創膏は逆に目立つ気がしてそのまま出社した。
 直接は誰も聞いてこなかったけれど、松島さんだけは眉を寄せてキスマークを見てた。
 俺は、夏はいつもジャケットを脱いで腕まくりをする。でも、社食で敦司に「なんだそれっ!」と叫ばれ、腕まくりを解かれた。腕にもキスマークが付いていることをすっかり忘れてた。
 全身キスマークだとニマニマして教えると、敦司は理解できないといった顔で固まっていた。

「やってることセフレじゃねぇじゃん。でも言うことはセフレ。意味わかんねぇ」
「……うん。でも、それが冬磨なんだよ。だから、勘違いしちゃだめなの」
「てかさー。どこが好きなんだよほんと。ただのゲス男じゃねぇか」

 ゲス男という言葉にカチンときた。
 それこそ何もわかってない敦司には絶対に言われたくないっ。

「すっごい優しいんだよっ! すっごいすっごい優しすぎて毎日どんどん好きになるもんっ! もう俺……ずっと冬磨のそばにいたい。毎日会いたい……。うぅー……っ」
「あーもー。泣くなー」

 敦司がティッシュを目元に押し付けてくる。
 俺はズビズビ言いながら涙と鼻水の処理をした。

「そうだ……敦司。俺しばらくここに出入りしてもいい……?」
「ん? 出入り?」
「会社帰りに来て、二時間くらい置いてほしい。ほっといてくれていいから。時間経ったら勝手に帰るからさっ。お願いっ!」
「なんだそれ……」

 セフレの家に出入りしてるように冬磨に見せたいことを説明すると、案の定あきれられた。

「俺が本気じゃないってもっと証明しないと。ね? 助けてよ。何度も出入りしてれば、一、二回くらい冬磨に見られるかもしれないじゃん? そしたらセフレがいるってもっと証明できる! 今よりもっと安心できるんだよ!」

 俺が熱弁すると、敦司が盛大なため息を付いて「彼女が来ない日だけだぞ」と言って諦めた顔をした。

「うんっ。うんっ。ありがとうっ、敦司っ。来る日は必ずビール差し入れするからっ!」
「……おお、それいいな」

 ちょっと満足そうな顔の敦司にホッとした俺は、ゆっくりご飯を食べた。
 食器を片付けてサッと洗い、おわびに部屋の掃除を手伝ってから「じゃあ帰るね」とリュックを背負う。

「さすがに今見られたらやばいんじゃね? まだいていいぞ?」
「え? なんでやばいの?」
「は? だってお前、ゲス男の家出てきてからまだ二時間くらいだぞ?」
「うん。ホテルの休憩は二時間だからちょうどいいよね」
「……セフレの家ハシゴするような奴、って思われてもいいわけ?」

 そう言われて俺は笑顔になった。

「それ、すごいビッチっぽい! いいね!」
「……いいならいいけどよ。まぁ、家に入るとこ見られてたらもう手遅れだしな」

 冬磨にちょうど見られればいいのにな。
 冬磨の家のリビングの窓から、ちょうどこのアパートが見える。
 冬磨からは何もメッセージは届いてない。見ればきっと何か言ってくるよね。
 何回出入りしたら見られるかな……。
 早く……早く見られて安心したい。

 
感想 172

あなたにおすすめの小説

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。