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番外編
答え合わせをしました 後編
「あとは? なに聞きたい?」
「……あのね」
「うん?」
「なんで……バー出禁になったの……? あの日なにがあったの……?」
「あー、あれな」
冬磨は少し言いづらそうに、でもポツポツと話してくれた。整理したセフレの逆上、何本もの酒瓶が割れたお店の惨状。
もしかして……とは思っていたけど、そこまでひどかったなんて……。
「でも悪いのは俺だし、相手もちゃんと落ち着いてくれたから」
冬磨は心配する俺を安心させるように頭を撫でた。
「ごめんな、セフレの話なんて聞きたくなかったよな」
冬磨が申し訳なさそうに目を伏せる。
「そんなことない、教えてくれてありがとう、冬磨」
冬磨が無事でよかった。本当によかった……。
でも俺は、その人のことを責める気持ちにはなれない。
きっと俺と同じように、冬磨への想いを必死で隠していたんだ。
俺だって冬磨に切られたとき、プリンを投げつけた。もしそれがリュックで場所がバーだったとしたら、俺も同じだったかもしれない……。
そのあとも、俺たちは色々と答え合わせをした。
ビッチ天音で初めて会った日のこと、初めて前からして『切るかな』と言われた日のこと、他にもたくさん、お互いに見えなかった気持ちをたくさん話した。
その中でも嬉しかったのは、冬磨が抱きながら手を繋いだのは俺が初めてだったこと。他のセフレにもしてると思って嫉妬で頭が沸騰しそうだったのに、それも俺だけだった。
冬磨に最初からこんなに大切にされてたなんて何も知らなかった。
本当に……幸せすぎる……。
「とぉま……愛してる……」
「俺のほうがもっと愛してるよ、天音」
「と……ま……」
唇に優しいキスが落ちる。
何度もついばむようなキスをして、それから深く舌を絡めた。
冬磨……冬磨……愛してる……。
「それでさ、天音」
「……うん?」
キスの余韻がまだ残る中、冬磨は真剣な表情で俺を見つめる。
「ちゃんとするって話だけどさ……」
「あ、うん」
俺もそろそろ、どちらにするか決めたかった。
「俺さ。もし天音に何かあった時、一番に連絡をもらえる立場ってのにこだわってたんだけどさ」
「うん」
「天音の両親ともちゃんと繋がったし、もしもの時はすぐに俺にも伝わると思うんだよ。だからさ。やっぱりパートナーシップ制度でいいかなって――――」
「だ、だめっ!」
冬磨の言葉をさえぎって俺は叫ぶ。
「え、天音?」
驚いて目を丸くする冬磨に俺は訴えた。
「冬磨になにかあった時はっ?」
「え?」
「冬磨になにかあった時、俺に連絡がこないかもしれないもんっ。そんなのやだ……っ」
「あ、天音……」
「それに、手術の同意とかも家族じゃないとできないし、面会だってできなかったりするでしょ? 俺たちが結婚したつもりでも、もしもの時に何もできないんじゃ意味ないもん……だから養子縁組にしよう?」
「……いや、でもそれだとお前、名字が変わるんだぞ? 会社で困るだろ?」
「なにも困らないよ。俺ただの事務職だし、名字が変わったって大丈夫。……というか、名字が変わるほうが……結婚って感じがして嬉しい」
父さんたちとは、『ちゃんとする』の方法をずっと話し合ってきた。
でも、冬磨のおじいさんおばあさんは遠い田舎に住んでいて、まだ会うこともできていない。電話で挨拶はしたけれど、連絡を取り合えるほど知り合えてもいない。
考えれば考えるほど、パートナーシップ制度じゃ不安すぎた。
冬磨になにかあった時を想像しては怖くなった。
俺が懇願するように見つめると、冬磨は言葉を口にするのをためらうかのように口ごもる。
「……天音が……それでいい、なら…………」
「じゃあ、そうしよう?」
「……本当にいいのか?」
「うん、絶対に養子縁組がいい」
冬磨がどこかホッとしたように息をつく。
「ありがと……天音」
冬磨がそっと唇に口付けをして、ぎゅっと俺を腕の中に閉じ込める。
「あー……すげぇホッとした。まじで嬉しい……」
「冬磨、ありがとう。たくさん色々考えてくれて、本当に嬉しかった」
「……本当はさ、パートナーシップのほうは妥協点だったんだ。養子縁組じゃないとどうしても不安が残るから……。でも、お前を星川家の戸籍から抜くってのはどうなんだって思うと、さ……」
「うん、わかってた。そうやって色々考えてくれたことがすごく嬉しかった。ありがとう、冬磨」
繋がれた手をぎゅっと握って、反対の手で冬磨と俺の指輪を同時に撫でる。
「俺もいっぱい調べたんだよ? 戸籍から抜けても、優先順位が冬磨に変わるだけで、親子関係が切れるわけじゃないんだって。メリットとデメリットとをちゃんと調べて考えた。それに父さんも母さんも、冬磨になら安心して養子に出せるって言ってくれたでしょ?」
ね? と笑いかけると、冬磨が今にも泣きそうな瞳で俺を見つめ、言葉を詰まらせる。
「冬磨?」
「あ……まね……」
「う、ん?」
「あまね……」
「うん」
「あまね……っ」
「ん」
冬磨は俺の名前を何度も繰り返し、きつく抱きしめるだけだった。
だから俺も冬磨の胸に顔をうずめてぎゅっと抱きつく。
俺の名前を呼ぶ声がどんどん震えて鼻をすする音が聞こえ始め、俺も一緒に涙した。
後日、書類を完璧に用意して、俺たちは役所を訪れた。
入口の前で立ち止まり、二人で深呼吸をして繋いだ手に力を込める。
「行くぞ」
「うん」
父さんも母さんも、喜んで証人になってくれた。
冬磨のおじいさんおばあさんにも、あらためて挨拶をした。
何も問題なく、俺たちは今日という日を迎えた。
冬磨が外回りのついでに寄ってくれると言ったけど、どうしても一緒に来たくて仕事を少しだけ早退した。ごめんなさい……。
手を繋いだまま順番を待ち、番号が呼ばれて受付に向かう。
養子縁組の手続きだけれど、俺たちにとっては婚姻届の手続き。
俺も冬磨も、頬が緩みっぱなしだ。
「お願いします」
窓口に立ち、俺たちは一緒に書類を差し出した。
受付の女性が、一度書類を見てから俺たちに視線を戻す。
「もしかして、ご結婚ですか?」
「あ、はい、結婚です」
冬磨が答えると、その女性が「おめでとうございます」と優しく微笑んでくれた。
俺たちは一瞬目を見合わせ、同時に破顔した。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
終
「……あのね」
「うん?」
「なんで……バー出禁になったの……? あの日なにがあったの……?」
「あー、あれな」
冬磨は少し言いづらそうに、でもポツポツと話してくれた。整理したセフレの逆上、何本もの酒瓶が割れたお店の惨状。
もしかして……とは思っていたけど、そこまでひどかったなんて……。
「でも悪いのは俺だし、相手もちゃんと落ち着いてくれたから」
冬磨は心配する俺を安心させるように頭を撫でた。
「ごめんな、セフレの話なんて聞きたくなかったよな」
冬磨が申し訳なさそうに目を伏せる。
「そんなことない、教えてくれてありがとう、冬磨」
冬磨が無事でよかった。本当によかった……。
でも俺は、その人のことを責める気持ちにはなれない。
きっと俺と同じように、冬磨への想いを必死で隠していたんだ。
俺だって冬磨に切られたとき、プリンを投げつけた。もしそれがリュックで場所がバーだったとしたら、俺も同じだったかもしれない……。
そのあとも、俺たちは色々と答え合わせをした。
ビッチ天音で初めて会った日のこと、初めて前からして『切るかな』と言われた日のこと、他にもたくさん、お互いに見えなかった気持ちをたくさん話した。
その中でも嬉しかったのは、冬磨が抱きながら手を繋いだのは俺が初めてだったこと。他のセフレにもしてると思って嫉妬で頭が沸騰しそうだったのに、それも俺だけだった。
冬磨に最初からこんなに大切にされてたなんて何も知らなかった。
本当に……幸せすぎる……。
「とぉま……愛してる……」
「俺のほうがもっと愛してるよ、天音」
「と……ま……」
唇に優しいキスが落ちる。
何度もついばむようなキスをして、それから深く舌を絡めた。
冬磨……冬磨……愛してる……。
「それでさ、天音」
「……うん?」
キスの余韻がまだ残る中、冬磨は真剣な表情で俺を見つめる。
「ちゃんとするって話だけどさ……」
「あ、うん」
俺もそろそろ、どちらにするか決めたかった。
「俺さ。もし天音に何かあった時、一番に連絡をもらえる立場ってのにこだわってたんだけどさ」
「うん」
「天音の両親ともちゃんと繋がったし、もしもの時はすぐに俺にも伝わると思うんだよ。だからさ。やっぱりパートナーシップ制度でいいかなって――――」
「だ、だめっ!」
冬磨の言葉をさえぎって俺は叫ぶ。
「え、天音?」
驚いて目を丸くする冬磨に俺は訴えた。
「冬磨になにかあった時はっ?」
「え?」
「冬磨になにかあった時、俺に連絡がこないかもしれないもんっ。そんなのやだ……っ」
「あ、天音……」
「それに、手術の同意とかも家族じゃないとできないし、面会だってできなかったりするでしょ? 俺たちが結婚したつもりでも、もしもの時に何もできないんじゃ意味ないもん……だから養子縁組にしよう?」
「……いや、でもそれだとお前、名字が変わるんだぞ? 会社で困るだろ?」
「なにも困らないよ。俺ただの事務職だし、名字が変わったって大丈夫。……というか、名字が変わるほうが……結婚って感じがして嬉しい」
父さんたちとは、『ちゃんとする』の方法をずっと話し合ってきた。
でも、冬磨のおじいさんおばあさんは遠い田舎に住んでいて、まだ会うこともできていない。電話で挨拶はしたけれど、連絡を取り合えるほど知り合えてもいない。
考えれば考えるほど、パートナーシップ制度じゃ不安すぎた。
冬磨になにかあった時を想像しては怖くなった。
俺が懇願するように見つめると、冬磨は言葉を口にするのをためらうかのように口ごもる。
「……天音が……それでいい、なら…………」
「じゃあ、そうしよう?」
「……本当にいいのか?」
「うん、絶対に養子縁組がいい」
冬磨がどこかホッとしたように息をつく。
「ありがと……天音」
冬磨がそっと唇に口付けをして、ぎゅっと俺を腕の中に閉じ込める。
「あー……すげぇホッとした。まじで嬉しい……」
「冬磨、ありがとう。たくさん色々考えてくれて、本当に嬉しかった」
「……本当はさ、パートナーシップのほうは妥協点だったんだ。養子縁組じゃないとどうしても不安が残るから……。でも、お前を星川家の戸籍から抜くってのはどうなんだって思うと、さ……」
「うん、わかってた。そうやって色々考えてくれたことがすごく嬉しかった。ありがとう、冬磨」
繋がれた手をぎゅっと握って、反対の手で冬磨と俺の指輪を同時に撫でる。
「俺もいっぱい調べたんだよ? 戸籍から抜けても、優先順位が冬磨に変わるだけで、親子関係が切れるわけじゃないんだって。メリットとデメリットとをちゃんと調べて考えた。それに父さんも母さんも、冬磨になら安心して養子に出せるって言ってくれたでしょ?」
ね? と笑いかけると、冬磨が今にも泣きそうな瞳で俺を見つめ、言葉を詰まらせる。
「冬磨?」
「あ……まね……」
「う、ん?」
「あまね……」
「うん」
「あまね……っ」
「ん」
冬磨は俺の名前を何度も繰り返し、きつく抱きしめるだけだった。
だから俺も冬磨の胸に顔をうずめてぎゅっと抱きつく。
俺の名前を呼ぶ声がどんどん震えて鼻をすする音が聞こえ始め、俺も一緒に涙した。
後日、書類を完璧に用意して、俺たちは役所を訪れた。
入口の前で立ち止まり、二人で深呼吸をして繋いだ手に力を込める。
「行くぞ」
「うん」
父さんも母さんも、喜んで証人になってくれた。
冬磨のおじいさんおばあさんにも、あらためて挨拶をした。
何も問題なく、俺たちは今日という日を迎えた。
冬磨が外回りのついでに寄ってくれると言ったけど、どうしても一緒に来たくて仕事を少しだけ早退した。ごめんなさい……。
手を繋いだまま順番を待ち、番号が呼ばれて受付に向かう。
養子縁組の手続きだけれど、俺たちにとっては婚姻届の手続き。
俺も冬磨も、頬が緩みっぱなしだ。
「お願いします」
窓口に立ち、俺たちは一緒に書類を差し出した。
受付の女性が、一度書類を見てから俺たちに視線を戻す。
「もしかして、ご結婚ですか?」
「あ、はい、結婚です」
冬磨が答えると、その女性が「おめでとうございます」と優しく微笑んでくれた。
俺たちは一瞬目を見合わせ、同時に破顔した。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
終
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