仁獣

黒羽猛尊

文字の大きさ
1 / 4

第1話

しおりを挟む
[本日のご来場誠にありがとうございました。またのご来場を心よりお待ちしております。]
 場内アナウンスと共に選手が撤収をしていったベンチの清掃を僕は始める。といってもスパイクに付いたグラウンドの土が残っているだけなので楽である。
 僕の名前は御幸みゆきサクラ。国立魔法高専に通うこの春から2年生になった男子生徒だ。魔法高専ってマジックの専門学校だと思うかい?
 それが本当の魔法である。僕自身は魔法を扱うのは得意ではないけど人によっては火を出したり水を出したり様々だ。
 どうして魔法が扱えるかと問われると昔昔にニコラ・フラメルという人が賢者の石とかいう物を作っているときに人間の体に魔力という器官があることを発見した。
 さらにそこからアイザック・ニュートンが誰でも魔法が使えるように応用の研究をして魔法は誰もが使える科学と同じように発展を遂げていった。
 まぁ、科学と違うところは魔法の研究や軍で働こうと思ったら命の危険がある魔法も覚えないといけないしそれから身を守らないといけない。
 その術を習うためには幾つもの学校なんて用意も教師も居ないと言うことになりだいたい世界でも各国1校しか魔法学校は存在しない。そのうちの1つが国立魔法高専なわけだ。
 国立魔法高専の敷地内は東京ドーム10個分の広さを誇り、円形状に東西南北の地区で分けられている。一応は魔法を専門職としない一般の人も居るが、審査はかなり厳しい。
 僕が今アルバイトをしているこのバトルドームと呼ばれる施設は、魔法を扱った戦闘等で学校が使用するが、プロアマ問わずスポーツの利用に貸し出ししている。
 今日はプロ野球の試合で貸し出しされていたが、サッカーやラグビーといった様々な球技も行われる。
ここ数年は東京ドームをホームにする球団がドーム老朽化に伴い新球場が完成するまで貸してほしいとの事なので相当な収益があると思われる。
「御幸くん。ベンチの掃除が終わったら上がりで良いからね。」
「はい。ありがとうございます。」
「どう?御幸くん。野球のルールそろそろ覚えた?」
 様子を見に来たリーダーが悪そうな笑みを浮かべて僕をからかう。あれは忘れもしない去年の話だ。僕はスポーツにあまり関心がなく野球のルールも全く知らない。
 そして、その日はファールボールの球を拾いに行くのが仕事だったが、ラインを越えると全て回収しないといけないと思った僕はプレー中の球を拾い試合を中断させた。
 試合はオープン戦でリーグとは関係のないものだったから幸いにもSNSでは晒されなかったけど、観客からのブーイングと責任者から大目玉をくらったのは言うまでもない。
「いや、もうこの仕事は1年近くしてますから大丈夫ですよ。」
 僕はそう答えながら水魔法でベンチの床に水を撒き、炎魔法で小型で熱すぎない火の玉を宙に浮かべて動かし床を乾かす。
「相変わらず魔法高専の人は凄いね。俺なんか魔法は中学で終わったからさ。」
 リーダーは感心そうに僕の使っている魔法を眺める。魔法学校は1つしか存在しないが実は基礎は中学で習うのだ。理由は簡単。魔法を使った犯罪に遭遇しても身を守るため。
 魔法とは様々な攻撃がある。僕が使っている炎や水なんかは時には人を簡単に仕留められる武器にもなる。それから身を守る魔法を中学では必須として習うのだ。
 そのお陰か、基礎を必須とした事により科学による武器の犯罪、拳銃やナイフなんかでの攻撃は簡単に防げるからそういった殺傷事件は年々減っているらしい。
「まぁ、魔法で学校に入ってますからね。これくらいは。」
「球場整備をする人なんかも凄いよね。機械なんか使わずに簡単に芝生やグランドの手入れを終わらせて選手が怪我なく万全にできるようにするんだから。」
 バトルドームは球場として試合を観戦に来るお客だけでなく利用する選手達からも人気なスタジアムになっている。それは、魔法を使った整備が非常に優秀だからである。
 バイトを終えて自転車を漕ぐ。このバトルドームがあるのは西地区だ。
 僕の寮は東地区と南地区の境にしかも奥の方にあるから遠いのがネックだが、学校の管理する敷地内でバイトをできるのだから文句は言えない。
 ちなみに西地区はバトルドームを筆頭に他の娯楽施設等や買い物が1回で済むほどの大型スーパーがメインで置かれている。東地区は学生寮がメインで南は一般人の住宅街。
 そして、北地区はどこの地区からも見えるほど大きな僕の校舎がある魔法高専のキャンパスになっている。
 エリア全体で緊急車両とエリアを常に回る自動運転のバスを除いた車の走行は禁止されている。
だから、自転車と歩行者で道が分けられて広いし自転車レーンも早い自転車用があり案外スピードが出せて快適な運転は可能になっている。
 そして僕は昨日、白川しらかわなぎさ教授に言われたことを思い出す。
「御幸。この論文じゃあこのままだと来年の特待生は剥奪されるぞ。」
 僕は自慢じゃないけど魔法高専で全学年で現在10人しか居ない特待生だ。特待生になると学費は全額免除でさらに敷地内での買い物・外食はすべて学校負担と言う太っ腹ぶりなのである。
「えっ?ダメなんですか?そこそこ考えたつもりなんですけど。」
 白川教授は女性でありながら歴代最年少で教授に就任した凄い人だ。僕の特待生入学にも1枚噛んでくださっている人でもある。
「そこそこ考えたつもりか。そうかそうか。」
 そう言いながら教授は論文の束をクルクルと丸めて僕の頭に思い切り振り下ろしてきた。
「このコピペを良いように修正してきたのがどこがそこそこ考えたのか私に分かるように教えてくれないか?」
「やっぱりバレてた!」
 さらにもう1発振り下ろされる。
「1年生の間は特に何も無いが今年から2年生になったお前には毎年、論文の提出か学外で何かしらの実績が必要になるぞ。それは分かっているのか?」
「分かってますよ。特待生になる時に説明してくれたのは教授じゃないですか。」
「まるで喧嘩を売られているような気分になるのは気のせいかな?」
 僕は胸ぐらを掴まれて教授の愛用する魔法拳銃[ララバイ]を額に突き付けられる。
「教授。ララバイの名前が洒落になっていません。」
「お前には発砲音が良い子守歌になるだろう。」
「スイマセン!深く深く反省しておりますので銃口を額から離していただけませんか?」
「全く。お前は論文を書くタイプじゃないだろう。早く実績を残したいなら夏にある校内大会に参加したらどうだ?」
「教授も知っているでしょ。僕は別に目立ちたくないんですよ。この高専に入学して特待生になったのも学費が無料タダになるからという理由ですよ。
本当に魔法で将来計画してる人に失礼ですよ。」
 僕は教授に渡していた論文を手にとって、論文の紙だけを炭が残らないように燃やして消した。
「それほどの魔力をコントロールできるのは4年生以上の上級生でもなかなか居ないぞ。」
「普通に卒業できたらそれで良いんです。」
 教授はため息を吐き、「もったいない。」と言いながら自分のデスクの棚から1枚の小さな名刺を僕に渡す。
「氷室何でも相談所?所長の氷室ひむろ椿つばき?何ですかこれは?」
「ソイツはお前と同様に私が懇意にしている生徒でな、今は学校の敷地内で寮とは別に部屋を借りてその様な何でも相談所と言うのを開いている。
が、しかしだ。依頼は少ないは、なかなか解決はできないはで、事務所の家賃が滞っているのが現実で家賃の督促が保証人の私の元に届いている。」
 更に教授は督促状を出すと、1年間の家賃の延滞料金60万円請求されている書類を出して僕に見せてくる。
「大変ですね。でもまぁ魔法高専の教授になると、60万なんて簡単に返済できるでしょ。」
「そういう問題ではないだろう。何で関係のないお前に見せたかよく考えてみろ。」
「もしかしてこの話の脈絡からして実績のない相談所でタダで働けと言う事ですか?」
「実績はないは余計だがまぁ、タダで働けと言うのは事実だな。」
「ちょっと勘弁して下さいよ。僕は週末バトルドームでもバイトしてるんですよ。そんな訳の分からない万屋よろずやもどきの所でタダで働くなんてまっぴらです。」
「ここで実績を挙げたら特待生は継続される。有能な論文を出してその論文の金は本人には入らず学校に入るようになっている。それに比べたら十分考慮していると思うが?
 そういえば去年5年生で魔法大会に出て優勝した奴は賞金を丸々全額学校に納めさせられたそうだな。」
 何が言いたいのかはっきり分かった。実績を挙げれば特待生は維持できてかつ所長次第では金が入る可能性があると言うことを。
全く教職に就くべき人なのか考えたくなる。
「分かりましたよ。そこの何でも相談所を立て直せばいいんでしょ?でも、しばらくはバイトのシフトが入ってますからバイトを優先させてもらいますよ?」
「もちろんだ。最初から働いていたところにこちらの都合で迷惑をかけるわけにはいけないからな。住所はここだ。本格的に働く前に一度訪ねたらいい。」
 教授との会話を思い返しながら、渡された地図の場所に到着した。小さなビルの2階で窓には一応、氷室何でも相談所と書かれているから、確かに存在するのだろう。
 ビルの廊下は常にお掃除ロボットが掃除をしてくれているから清潔さが保たれている。そこを歩いているとついに目的地の部屋の前に到着した。
 勝手に入るのは失礼だと思い、ドアを2回ほど叩いてみたが反応が無い。聞こえていないのか?と思い、少し強めに叩いてみたがそれも反応が無い。
「あの~!白川教授から働くように言われた御幸サクラですけど誰か居ませんか?」
 すると人の気配が一瞬したため、ドアを開けてくれるのだろうと油断したら、勢いよく開かれてそこから出てきた人影と僕の額が衝突する。
 ゴチンという鈍く廊下に響きそうな音が僕の耳に入ったが、僕は痛みでその場で倒れて悶絶する。相手も声にもならないような声を上げているので、倒れているのだろう。
 声の高さから女性ということがわかる。まあ、名前が女性っぽかったからそうだとは思っていたが。
「イテテテ。はっ!大丈夫?私達、入れ替わってない?」
 女性はすでに立ち上がって自分の体をパタパタと叩いている。それが僕も確認できているから入れ替わってはいないのだろう。
「そんな非科学的で魔法でもできないことは起こりませんよ。」
 僕がそう答えると彼女は僕に気が付いて手を差し出した。
「君が白川教授の言っていた優秀な助手だね!私は氷室椿。魔法高専4年生で一応は君の先輩だぞ。」
 部屋に案内されると中は少々散らかっており掃除から始めないといけないみたいだ。こんなだと仮に依頼人が来てもかえれ右をして帰ってしまう。
「いやはや、最近事務所ここを家みたいにしてるから少し散らかってるけど楽にしてくれたまえ。」
 ソファーで机を挟んでいるが片方のソファーには荷物等が置かれており人1人しか座れないのともう片方はそこで寝ているのか毛布が置かれているが、2人は座れる。
 僕は今日、客人として来ているからもちろん広い方に座らせてもらう。ちなみに机の上には食事はデリバリーで済ませているのかピザや弁当等といった残骸が置かれてる。
「ちょっと掃除しようと思ってたんだけど最近忙しくてね。そんな暇なかったんだ。」
「教授からは仕事がないから家賃の督促が届いてると聞きましたけど。」
 グサリと僕の言葉が矢のように氷室さんに刺さっているように見えた。
「いや、無い訳じゃないんだよ。ただ、犬猫の捜索が多くてしかもこういった捜索って依頼を受けてから48時間以内に見つけないと依頼料は受け取らないのが相場でしょ。
 でも私は千里眼を使うのが苦手で。だから必死に見つけられても依頼料を貰えないの。」
 氷室さんは両手の人差し指でトントンさせながら答える。
「いやそれは犬猫探しのプロがそれを専門にしてるから、そういった2日以内に見つけないと依頼料無料って謳ってるんですよ。
 しかも、最近は千里眼魔法を使う人が多いそうですし。氷室さん苦手なんですよね?それじゃあ尚更厳しいでしょ。」
「そうなんだよ!だから、氷室何でも相談所私の所に違う噂が一人歩きしてるんだよ!タダで犬猫の捜索をしてくれるって!
 だから毎日毎日朝昼夜と必死に捜索しても依頼料は受け取れないジレンマに陥っているんだよ。」
 氷室さんは机に頭を突っ伏してオイオイと泣きながら現状の説明をする。
「分かりました。今その犬猫の捜索依頼ってありますか?」
「今日の夜の9時までが1件と明日のお昼の1時と夕方の5時が1件ずつ。」
 今日の9時?もうあと2時間しかない。急いでやるしかないけど急いだら不鮮明になるんだよな。
「取りあえずはその3件の犬猫捜索を終わらせて依頼料を貰いましょう。どうせ、最初にノックした時に出なかったのも家賃の督促だと思って居留守を使ってたんでしょ。」
 氷室さんは僕の視線から目を逸らして顔を赤くして汗を流している。図星だったか。
「犬猫の写真を出してください。僕の千里眼魔法で見てみるので。」
 しかし、いくら依頼料が無料になるからってそんなに犬猫の捜索を頼まれたりするものなのかな?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...