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第42話 シスとサーシャさんの勝負勃発
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サーシャさんが、シスに声を掛ける。
「そこのずっと背中を向けてる吸血鬼くん、貴方は知りたくないの?」
ピク、とシスが反応を示した。
「……何をだ」
ボソッと素っ気なく答えはしてるけど、私からは見える金色の目は結構激しく泳いでいる。
「何を、じゃないでしょうが」
シスの青い髪の上に軽くチョップを入れると、シスの唇が尖った。
「私の血とかをやたらと美味しいって思っちゃうことに理由があるって、さっきサーシャさんが言ってたでしょ」
「ふん、他の亜人の言うことなんてアテになるかよ」
シスは身体を起こすと、クッションの上に座っていた私に手を伸ばす。また私を確保するつもりかと思ったその直後、白い翼が私とシスの間にヌッと入り込んだ。
勿論サーシャさんだ。
サーシャさんの顔のこめかみに、ぎょっとするほどの筋が浮き出ている。あ、キレてるな、とひと目で分かった。
「あんたねえ……! 可愛い小町ちゃんの相手だと思ってこっちが優しく対応してりゃあ、つけ上がって……!」
気持ちは凄くよく分かる。さっきからのシスの態度は、親切な他人に対する態度じゃない。どう考えたって失礼そのものだ。
なのにシスは、サーシャさんの翼を掴むと、思い切り睨みを利かせて凄み始めたのだ。どういうメンタルをしてるとそういう態度が取れるんだろう。私には分からない。もういや、この亜人。
そして、またとんでもないことをのたまい始めた。
「小町は俺のもんだ! 可愛いって言っていいのは俺だけだぞー!」
突っかかるポイントが間違ってる気がする。それに私はあんたのものじゃないってば。主従の主は私だって散々言ってるのにこれだからな。やっぱりシスはアホなのかもしれない。いや、アホか。アホ確定。
そんなシスの態度に、サーシャさんも負けてなかった。
「相手の匂いが気になって仕方ない理由を親切に教えてあげようって言ってんじゃないの!」
「教えてくれなんて頼んでねえし!」
私はサッと手を挙げる。
「私が頼んだよ!」
事ある毎にくんすかぺろぺろされ続けたくはないから、理由があるならはっきりと理解しておきたかった。とりあえず、脱デザートはしたい。とにかくいつも何となく狙われてる感があって、心休まる時がないんだから。
シスが、味方だと思っていた私にあっさりと裏切られ、胸の前で拳を握り締めた。
「ぐ……っ!」
シスの悔しそうな顔に、ちょっとスカッとする。どうやらサーシャさんは一枚も二枚もシスより上手らしいから、このままちょっとお姉さまに教育し直されてもらいたい。もうじゃんじゃんやってほしい。
シスは暫く何かを考え込む様に唸っていたけど、唐突にパッと顔を上げると、馬鹿の極みみたいなことを言い始めた。
「じゃあ仕方ねえ! 小町の顔を立てて、お前と勝負してやる!」
「――はあ?」
サーシャさんの、鼻に通った呆れ声。分かる。その気持ち、激しく同意する!
何故か偉そうに踏ん反り返ったシスは、ビシッと人差し指をサーシャさんの顔に向けた。結構失礼だよね。
「俺と勝負して、俺が勝ったら俺と小町はもう帰る! お前が勝ったら、潔くお前の話を聞いてやる!」
何たる勝手な言い分だろう。あまりのアホな内容にぽかんとしてシスを見上げると、何故かシスは私の頭に手を置き、ヨシヨシと撫でた。……駄目、ニヤつくな小町。私は必死で表情筋に力を込めた。
「小町、ここから離れるんじゃねえぞー?」
「はあ……」
そしてすっくと立ち上がると、柵に足を乗せたシス。ちょっと、まさかそこから飛び降りるつもり?
サーシャさんをキッと睨むと、煽り続ける。
「それとも何か! 怖気づいたのかー!?」
うわあ。サーシャさんが、拳を握り締めてプルプル震えてるじゃないの。あれは完全に怒ってる。
その横で、タロウさんがお腹を抱えてヒーヒー笑っているのが対照的だった。止める気はないらしい。
「……ほんっと失礼な吸血鬼ね!」
サーシャさんが、勢いよく立ち上がる。え、嘘、喧嘩買っちゃうの。
サーシャさんも、シスと同じ様にシスをビシッと指差し返した。
「こうなったら、絶対この鈍感でデリカシーゼロのお子ちゃま吸血鬼に自覚させてやるっ!」
「させるか! 勝負だ!」
「臨むところっ!」
翼をバサッとはためかせると、サーシャさんは室内に突風を巻き起こしながら窓から飛び出した。シスはシスで、どこかに跳躍していっている。
ぽかんとして誰もいなくなった窓を眺めていると、タロウさんがクツクツと笑いながら私に尋ねた。
「あーおかしい! ……でも丁度いいか。小町ちゃんに聞きたかったんだ」
「え? 何をですか?」
料理の上に羽根が落ちていたので、それをひょいと避けつつ答える。
タロウさんが、器用に片眉を上げた。
「そもそもさ、何で町の外に出てきたんだい?」
そうだった。その話も聞きたいんだった。クッションの中心に座り直すと、タロウさんの方を向く。
「それなんです。私、実はネクロポリスにあると言われている『神の庭』に行きたくて町を出てきたんです」
「『神の庭』? 都市伝説みたいなやつだろ? またどうしてそんなのを探すことになったの?」
タロウさんの面白がっていた笑みが、少しずつ収まっていった。
この人は、私の話を聞いてくれそうだ。
どっちにしろこの街で情報を聞き出すつもりでいたから、ヒトのタロウさんがどこまで知っているか分からないけど、聞いて損はないだろう。
居住まいを正すと、これまでシスに一度も聞かれなかったから言わなかった旅のそもそもの動機を語り始めた。
「そこのずっと背中を向けてる吸血鬼くん、貴方は知りたくないの?」
ピク、とシスが反応を示した。
「……何をだ」
ボソッと素っ気なく答えはしてるけど、私からは見える金色の目は結構激しく泳いでいる。
「何を、じゃないでしょうが」
シスの青い髪の上に軽くチョップを入れると、シスの唇が尖った。
「私の血とかをやたらと美味しいって思っちゃうことに理由があるって、さっきサーシャさんが言ってたでしょ」
「ふん、他の亜人の言うことなんてアテになるかよ」
シスは身体を起こすと、クッションの上に座っていた私に手を伸ばす。また私を確保するつもりかと思ったその直後、白い翼が私とシスの間にヌッと入り込んだ。
勿論サーシャさんだ。
サーシャさんの顔のこめかみに、ぎょっとするほどの筋が浮き出ている。あ、キレてるな、とひと目で分かった。
「あんたねえ……! 可愛い小町ちゃんの相手だと思ってこっちが優しく対応してりゃあ、つけ上がって……!」
気持ちは凄くよく分かる。さっきからのシスの態度は、親切な他人に対する態度じゃない。どう考えたって失礼そのものだ。
なのにシスは、サーシャさんの翼を掴むと、思い切り睨みを利かせて凄み始めたのだ。どういうメンタルをしてるとそういう態度が取れるんだろう。私には分からない。もういや、この亜人。
そして、またとんでもないことをのたまい始めた。
「小町は俺のもんだ! 可愛いって言っていいのは俺だけだぞー!」
突っかかるポイントが間違ってる気がする。それに私はあんたのものじゃないってば。主従の主は私だって散々言ってるのにこれだからな。やっぱりシスはアホなのかもしれない。いや、アホか。アホ確定。
そんなシスの態度に、サーシャさんも負けてなかった。
「相手の匂いが気になって仕方ない理由を親切に教えてあげようって言ってんじゃないの!」
「教えてくれなんて頼んでねえし!」
私はサッと手を挙げる。
「私が頼んだよ!」
事ある毎にくんすかぺろぺろされ続けたくはないから、理由があるならはっきりと理解しておきたかった。とりあえず、脱デザートはしたい。とにかくいつも何となく狙われてる感があって、心休まる時がないんだから。
シスが、味方だと思っていた私にあっさりと裏切られ、胸の前で拳を握り締めた。
「ぐ……っ!」
シスの悔しそうな顔に、ちょっとスカッとする。どうやらサーシャさんは一枚も二枚もシスより上手らしいから、このままちょっとお姉さまに教育し直されてもらいたい。もうじゃんじゃんやってほしい。
シスは暫く何かを考え込む様に唸っていたけど、唐突にパッと顔を上げると、馬鹿の極みみたいなことを言い始めた。
「じゃあ仕方ねえ! 小町の顔を立てて、お前と勝負してやる!」
「――はあ?」
サーシャさんの、鼻に通った呆れ声。分かる。その気持ち、激しく同意する!
何故か偉そうに踏ん反り返ったシスは、ビシッと人差し指をサーシャさんの顔に向けた。結構失礼だよね。
「俺と勝負して、俺が勝ったら俺と小町はもう帰る! お前が勝ったら、潔くお前の話を聞いてやる!」
何たる勝手な言い分だろう。あまりのアホな内容にぽかんとしてシスを見上げると、何故かシスは私の頭に手を置き、ヨシヨシと撫でた。……駄目、ニヤつくな小町。私は必死で表情筋に力を込めた。
「小町、ここから離れるんじゃねえぞー?」
「はあ……」
そしてすっくと立ち上がると、柵に足を乗せたシス。ちょっと、まさかそこから飛び降りるつもり?
サーシャさんをキッと睨むと、煽り続ける。
「それとも何か! 怖気づいたのかー!?」
うわあ。サーシャさんが、拳を握り締めてプルプル震えてるじゃないの。あれは完全に怒ってる。
その横で、タロウさんがお腹を抱えてヒーヒー笑っているのが対照的だった。止める気はないらしい。
「……ほんっと失礼な吸血鬼ね!」
サーシャさんが、勢いよく立ち上がる。え、嘘、喧嘩買っちゃうの。
サーシャさんも、シスと同じ様にシスをビシッと指差し返した。
「こうなったら、絶対この鈍感でデリカシーゼロのお子ちゃま吸血鬼に自覚させてやるっ!」
「させるか! 勝負だ!」
「臨むところっ!」
翼をバサッとはためかせると、サーシャさんは室内に突風を巻き起こしながら窓から飛び出した。シスはシスで、どこかに跳躍していっている。
ぽかんとして誰もいなくなった窓を眺めていると、タロウさんがクツクツと笑いながら私に尋ねた。
「あーおかしい! ……でも丁度いいか。小町ちゃんに聞きたかったんだ」
「え? 何をですか?」
料理の上に羽根が落ちていたので、それをひょいと避けつつ答える。
タロウさんが、器用に片眉を上げた。
「そもそもさ、何で町の外に出てきたんだい?」
そうだった。その話も聞きたいんだった。クッションの中心に座り直すと、タロウさんの方を向く。
「それなんです。私、実はネクロポリスにあると言われている『神の庭』に行きたくて町を出てきたんです」
「『神の庭』? 都市伝説みたいなやつだろ? またどうしてそんなのを探すことになったの?」
タロウさんの面白がっていた笑みが、少しずつ収まっていった。
この人は、私の話を聞いてくれそうだ。
どっちにしろこの街で情報を聞き出すつもりでいたから、ヒトのタロウさんがどこまで知っているか分からないけど、聞いて損はないだろう。
居住まいを正すと、これまでシスに一度も聞かれなかったから言わなかった旅のそもそもの動機を語り始めた。
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