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第二章 事件発生
16 二人暮らしが開始され
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ゴラくんの言葉の吸収力には、目を瞠るものがあった。
その言葉がどれのことを指すのかは知らずとも、元々その言葉の存在自体は知っていたんじゃないか。ゴラくんを横から見ていると、実際にその目で見て、言葉との答え合わせをしている様に思えた。
「美空、これはどうすればいい?」
「あ、それは不燃ゴミだから、とりあえず裏に置いてもらおうかな」
「分かった。裏のどこ?」
「一緒に行くよ」
初雪がちらつく中、家の裏手にあるゴミ置き場へとゴラくんを案内する。この辺りは、田舎過ぎる所為でゴミ収集車が来ない。だから、ある程度溜まると自分で自転車を漕ぎ、もう少し人がいる所には存在するゴミ集積所に出しにいかないといけないのだ。
これがかなりの重労働で、正直馬力が不足気味の私にとっては、ゴミ捨ては相当きつい修行の一つだった。
なので、なるべく目を向けない様にして過ごしていた。でも、ゴラくん用の部屋を用意していた時に、これは一体いつからあるんだろうと思われる古いゴミが次から次へと出てきたのだ。
生ゴミは土を掘って埋めれば済むけど、不燃ゴミは埋める訳にもいかない。プラスチック類は畳んで小さくした上で町に出る時にこまめに捨てていたけど、壊れた傘の山や無駄にでかいお菓子の空き缶などは、なかなか私一人では運べない。ということで、その時はそれらが透明になって見えなくなったふりをすることでやり過ごした。
だけど、ここに来て男手が増えた。当然ながら、ゴラくんのことだ。彼はどんな手伝いでも興味津々でにこにことやってくれるし、植物なのに身体を動かすのが億劫でないらしい。何かやることない? とキラキラとした目で尋ねられて、ああそういえばあそこに見えるけど見えない存在にされたゴミがあると私に思い出させた、という訳だ。
どうせ掃除するなら、出来れば年越し前に綺麗さっぱりとしたい。既にこたつは出していたけど小さいので、ゴラくんと入るには狭かった。ならばいっそ、部屋を思い切り片付けて、大きいのを買おうか。するとまたゴミが出る。もうゴミすら置く場所がないという結論に達し、年末に向けての大掃除が開始された。
エプロンをして腕まくりをしたゴラくんが、爽やかな笑顔を浮かべる。
「美空は休んでて」
「いやいや、人に働かせて自分が休む訳にはいかないよ」
それに、私は片付けが嫌いな訳じゃない。ただ町まで運ぶ気力がなかっただけの話だ。だけど、ゴラくんは引かなかった。
「美空は大事な身体なんだから、優しくしなきゃ駄目」
ゴラくんが、片手に外れかけているお玉を握りながら、ひんやりとする反対の手で私の頬を包んだ。
「だ、大事って……」
ゴラくんが僅かな間に普通に喋られる様になったのは非常にありがたいけど、その言葉の選択にはまだまだ難がある。今のが正にいい例で、私はゴラくんがマンドラゴラで普通の人間じゃないと知っているからいいものの、その辺の事情を知らない女子が聞いたら真っ赤になってひっくり返りそうな歯の浮く台詞をバンバン吐くのだ。
「あのね、ゴミの仕分けくらいやらないと、身体がなまっちゃうから。ね?」
「だってほら、美空、冷えてる」
ゴラくんは、今度は私の手を掴んで自分の固い頬にくっつける。それをスリスリちゅっとされる私の心境は、勿論穏やかではなかった。でも、そこで即座に反応出来ないのが私だ。ああ、甘い。堪らなく甘くて、背筋がゾワゾワする。
「こんなに手が冷たい。こたつに入って」
「いや、ゴラくんこそ冷えてるし」
私の手を掴むゴラくんの手も、私に負けず劣らず冷たい。植物だった頃は雨も風も何てことなさそうだったけど、根っこから切り離されて心臓だけで動く様になったから、自家発熱の力が衰えたのかもしれない。
尚、この家は遥か昔に建築された木造の一軒家なので、通気性は抜群に良く、壁に断熱材なんていう素晴らしい物も入っていない。
ちなみに天井は低く、高身長のゴラくんは部屋に入る時に屈んでいる。それをうはあと思いながら眺めているのは、ゴラくんには内緒だ。それにきっと話したところで、ゴラくんにこの萌えポイントは理解出来まい。
話を戻す。この家は途中でリフォームされたこともなく、昭和な雰囲気を味わえる所謂昭和感満載の家屋だ。部屋を区切る障子の向こう、外との境界線である縁側の外側には、ぺらぺらの硝子窓と木板の雨戸しか付いていない。隙間風は多いし、兎にも角にも寒い。灯油販売も勿論来ないので、私の頼みの綱はこのこたつと古びたエアコンのみだった。
「私はほら、半纏があるし!」
そう言って、補修跡だらけの、着古して赤が薄れた半纏を見せる。
「そういえば、そろそろゴラくんの半纏も届く頃かな?」
部屋は温かく出来るけど、一歩廊下に出ると極寒だ。果たして植物が風邪を引くかは未知数だけど、心臓があり赤い血が流れている以上、いつ何時人間の流行り病をもらってしまうか分からない。なんせ予防接種は一切していないのだ。これまで浴衣と下駄で過ごさせていたけど、さすがにもう見ているだけで寒そうだった。
そんな訳で、あちこちの通販サイトを見て唸っていたら、先日非常にいいサイトを見つけた。所謂現場の作業服サイトで、長靴から分厚い靴下、長ズボンやら暖かそうな上着までが、笑ってしまうくらいの安価で販売されていた。しかもサイズは豊富。これはここで揃えるしかない。
まずは試しに第一弾を購入しゴラくんのサイズ感を掴むと、二回目の購入と共にかつて浴衣を買ったサイトで半纏をポチった、という訳だった。
その言葉がどれのことを指すのかは知らずとも、元々その言葉の存在自体は知っていたんじゃないか。ゴラくんを横から見ていると、実際にその目で見て、言葉との答え合わせをしている様に思えた。
「美空、これはどうすればいい?」
「あ、それは不燃ゴミだから、とりあえず裏に置いてもらおうかな」
「分かった。裏のどこ?」
「一緒に行くよ」
初雪がちらつく中、家の裏手にあるゴミ置き場へとゴラくんを案内する。この辺りは、田舎過ぎる所為でゴミ収集車が来ない。だから、ある程度溜まると自分で自転車を漕ぎ、もう少し人がいる所には存在するゴミ集積所に出しにいかないといけないのだ。
これがかなりの重労働で、正直馬力が不足気味の私にとっては、ゴミ捨ては相当きつい修行の一つだった。
なので、なるべく目を向けない様にして過ごしていた。でも、ゴラくん用の部屋を用意していた時に、これは一体いつからあるんだろうと思われる古いゴミが次から次へと出てきたのだ。
生ゴミは土を掘って埋めれば済むけど、不燃ゴミは埋める訳にもいかない。プラスチック類は畳んで小さくした上で町に出る時にこまめに捨てていたけど、壊れた傘の山や無駄にでかいお菓子の空き缶などは、なかなか私一人では運べない。ということで、その時はそれらが透明になって見えなくなったふりをすることでやり過ごした。
だけど、ここに来て男手が増えた。当然ながら、ゴラくんのことだ。彼はどんな手伝いでも興味津々でにこにことやってくれるし、植物なのに身体を動かすのが億劫でないらしい。何かやることない? とキラキラとした目で尋ねられて、ああそういえばあそこに見えるけど見えない存在にされたゴミがあると私に思い出させた、という訳だ。
どうせ掃除するなら、出来れば年越し前に綺麗さっぱりとしたい。既にこたつは出していたけど小さいので、ゴラくんと入るには狭かった。ならばいっそ、部屋を思い切り片付けて、大きいのを買おうか。するとまたゴミが出る。もうゴミすら置く場所がないという結論に達し、年末に向けての大掃除が開始された。
エプロンをして腕まくりをしたゴラくんが、爽やかな笑顔を浮かべる。
「美空は休んでて」
「いやいや、人に働かせて自分が休む訳にはいかないよ」
それに、私は片付けが嫌いな訳じゃない。ただ町まで運ぶ気力がなかっただけの話だ。だけど、ゴラくんは引かなかった。
「美空は大事な身体なんだから、優しくしなきゃ駄目」
ゴラくんが、片手に外れかけているお玉を握りながら、ひんやりとする反対の手で私の頬を包んだ。
「だ、大事って……」
ゴラくんが僅かな間に普通に喋られる様になったのは非常にありがたいけど、その言葉の選択にはまだまだ難がある。今のが正にいい例で、私はゴラくんがマンドラゴラで普通の人間じゃないと知っているからいいものの、その辺の事情を知らない女子が聞いたら真っ赤になってひっくり返りそうな歯の浮く台詞をバンバン吐くのだ。
「あのね、ゴミの仕分けくらいやらないと、身体がなまっちゃうから。ね?」
「だってほら、美空、冷えてる」
ゴラくんは、今度は私の手を掴んで自分の固い頬にくっつける。それをスリスリちゅっとされる私の心境は、勿論穏やかではなかった。でも、そこで即座に反応出来ないのが私だ。ああ、甘い。堪らなく甘くて、背筋がゾワゾワする。
「こんなに手が冷たい。こたつに入って」
「いや、ゴラくんこそ冷えてるし」
私の手を掴むゴラくんの手も、私に負けず劣らず冷たい。植物だった頃は雨も風も何てことなさそうだったけど、根っこから切り離されて心臓だけで動く様になったから、自家発熱の力が衰えたのかもしれない。
尚、この家は遥か昔に建築された木造の一軒家なので、通気性は抜群に良く、壁に断熱材なんていう素晴らしい物も入っていない。
ちなみに天井は低く、高身長のゴラくんは部屋に入る時に屈んでいる。それをうはあと思いながら眺めているのは、ゴラくんには内緒だ。それにきっと話したところで、ゴラくんにこの萌えポイントは理解出来まい。
話を戻す。この家は途中でリフォームされたこともなく、昭和な雰囲気を味わえる所謂昭和感満載の家屋だ。部屋を区切る障子の向こう、外との境界線である縁側の外側には、ぺらぺらの硝子窓と木板の雨戸しか付いていない。隙間風は多いし、兎にも角にも寒い。灯油販売も勿論来ないので、私の頼みの綱はこのこたつと古びたエアコンのみだった。
「私はほら、半纏があるし!」
そう言って、補修跡だらけの、着古して赤が薄れた半纏を見せる。
「そういえば、そろそろゴラくんの半纏も届く頃かな?」
部屋は温かく出来るけど、一歩廊下に出ると極寒だ。果たして植物が風邪を引くかは未知数だけど、心臓があり赤い血が流れている以上、いつ何時人間の流行り病をもらってしまうか分からない。なんせ予防接種は一切していないのだ。これまで浴衣と下駄で過ごさせていたけど、さすがにもう見ているだけで寒そうだった。
そんな訳で、あちこちの通販サイトを見て唸っていたら、先日非常にいいサイトを見つけた。所謂現場の作業服サイトで、長靴から分厚い靴下、長ズボンやら暖かそうな上着までが、笑ってしまうくらいの安価で販売されていた。しかもサイズは豊富。これはここで揃えるしかない。
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