悪役令嬢ですが私のことは放っておいて下さい、私が欲しいのはマヨネーズどっぷりの料理なんですから

ミドリ

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(47)王国騎士団

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 食事が終わり、私とシュタインは門の前までレオンを見送りに行った。

「毎日、有難う御座います」

 シュタインが深々とレオンに向かってお辞儀する。レオンは笑顔で軽く手を上げると、暗闇の中に消えて行った。

 門番が、ガラガラと門を閉じる。

 いよいよ明日には、今作れる中で恐らくは最高のマヨネーズが完成する。こちらに来てからほぼひと月。長い様で短かったが、ひと月の間に体重はほぼ元通りになり、大分残念だった胸も、まあ少しはあるかな、位まで回復してきていた。

 レオンではないが、同志とわいわい食べる食事が楽しく、毎日が夢の様だった。

 私は、レオンが去った辺りをまだ見ていた。

 あの人がいなければ、私は未だに取り乱していたかもしれない。私の不安が去るまで一緒にいてくれて、レオンには感謝しかない。

 ホルガーが隣にいないことが、私にとってここまで恐怖だったなんて、離れるまで分からなかったのだ。王都で元気にしているのならばまだよかったが、まさかホルガーまでも王城に留め置かれるとは。

 国王が完全に元気になって国政に戻れば今の異常事態も解消させるとは思うが、とにかくアルフレッドが何を考えているのかが分からない。それが不気味だった。

「……ナタ様、冷えますから、そろそろ戻りましょう」

 シュタインが、静かに言う。

「そうね、戻りましょうか」
「温かいお飲み物でも用意致しましょう」
「ありがとう、シュタイン」

 私達がきびすを返すと、門番がシュタインに声を掛けた。

「そういえばシュタインさん!」

 シュタインが、風の様な動きで門番を振り返る。

「どうしました?」
「いや、さっきお通しした方達は、いつ頃お帰りになられるのかなあと思いまして」
「……どういうことですか」
「え? もう時刻も遅いですし」
「……そういうことではありません」

 シュタインの表情が厳しいものになった。門番の男は、大して知らないレオンを見知ったからと言って通してしまう様な、少し警戒心の薄いところがある。こんな田舎の屋敷で警戒もなにもないのが常だったので、気が緩むのは、まあ仕方のないことだとは私ですら思う。

 それ程、この一帯は平和なのだ。平民が比較的豊かというのも理由のひとつにある。それだけ、グレゴリーの領主としての質が優れている証拠ともなっている。

 だが、非常時にはそれが裏目に出る場合もあるのだ。

「フレデリック、お通しした方の特徴を教えて下さい」
「へ? だってあの人達、中に入ったんじゃないんですか?」

 フレデリックと呼ばれた門番の男は、急に不安そうな表情に変わった。シュタインの表情は変わらないが、だがほんの少しだけ焦りが見えた気がした。

「少なくとも、私はお会いしてません」
「えっ」

 途端、フレデリックがアワアワと慌て出してしまった。門番、しっかりしろ。なんと、あのシュタインが溜息をついているではないか。やっぱり人間だったのだと、こういう時なのに思ってしまった。

「何と名乗り、何名がどういった理由を述べていつ頃入っていきましたか」
「えっあっはい! 王国騎士団と名乗る方々が五名、ナタ様が国王からの招集に応じない為書簡が届いているのかを確認されに来たと、ナタ様達が出てこられる半刻ほど前に!」

 シュタインが、静かな表情に怒りを浮かべたのが分かった。だけど、私は怒りではなく、ひんやりとする薄気味の悪さを感じていた。シュタインが私達に付いている間に、他の使用人が客間へ案内している可能性もあるにはある。あるのだが、シュタインに知らせないのもおかしな話なのだ。通常は王都の本邸にいるシュタインではあるが、避暑地の屋敷の使用人たちの総監督者も兼任しているので、基本全ての事柄はシュタインに報告される筈なのに。

「……王国騎士団ですか、証となる物は持っていましたか」

 フレデリックはびっくびくだ。余程シュタインが恐ろしいに違いない。

「あ、は、はい! 王国騎士団の証の指輪を見せていただきました!」
「……では、仕方ないですね。今回は不問にしておきましょう」

 シュタインが抑揚のない声でそう言うと、フレデリックはあからさまにほっと肩を撫で下ろした。

「引き続き警戒を続けて下さい。ただし、自分の命が危ないと判断した場合は、自分の命を優先して下さい」

 シュタインが、実に物騒なことを言った。

「あ、あのシュタインさん」

 おずおずと、フレデリックがシュタインに声を掛ける。

「なんでしょう」
「僕、レオンさんを呼んで来ましょうか? あの方ってナタ様の護衛なんですよね? だったら僕、レオンさんに今度の非番の時に飲みに行こうって誘われてるんで家の場所も聞いて分かってますし」
「はあっ!?」

 レオンが自分のことを私の護衛だなんて言ってたことも知らなかったし、何かよく喋っているとは思っていたが、まさか飲みに行く約束をする程仲良くなっていたとは。恐るべし、レオンの対人能力。お喋りではないのに、何故か惹き寄せられるものがレオンにはある。もしかして、これがカリスマ性というものなのか。

 だが、今はレオンのカリスマ性について感心している場合ではない。

 シュタインが、私を振り返る。

「ナタ様、この者の提案は、いい案かと思われます。ホルガー様もおりませんし、相手に敵意があるかどうかは分かりませんが、今のこの状況です。もし屋敷内に通されずどこかに潜んでいるとしたら、このまま中へ戻るのは危険です」

 私はシュタインの言葉に頷いた。何故私まで狙われているのか分からないが、これまで接触してこなかった王国騎士団が急に近付いてきたのは、もしかしたらホルガーが王都に向かったからなのではないか、という気が私にはしていた。

 嫌な予感がした。

「そ、そうね。フレデリックだったかしら? ちょっと行って呼んできてもらえるかしら? 急がないと、あの人ってばすぐにお酒を飲んじゃうから、早めにお願い」
かしこまりました!」

 フレデリックが、ビシッと敬礼をする。

 シュタインが私に言った。

「ナタ様は、こちらでお待ちを。私が中の様子をうかがって参りますので」
「えっ」

 門の前でひとり待つのか? 正直、ちょっと怖い。篝火かがりびは焚かれているが、屋敷の敷地内とはいえ、辺りはすでに真っ暗闇だ。灯りなんてろくにないこの世界の、夜の闇は本当に深かった。

「ナタ様、ご不安でしょうが、こちらの詰め所の中でなるべく目立たぬようにされていて下さいませ」

 シュタインが、門番ひとりが座れる小さな詰め所を指差した。

 背に腹は代えられない。私は頷いた。
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