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第八章 とうとう四人目の居候
49. 三人も四人ももう一緒
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今夜の晩御飯は唐揚げにした。刻みにんにくに刻み生姜、酒と醤油に漬け込んで汁を切った後天麩羅粉で衣を作る。油はやや高温でサクッと揚げ、余熱で火を通すのが亮太流だ。
下北沢の駅前を軽く彷徨いた程度だったが、コウは実に楽しそうだった。始めは随分愛想の悪い奴だと思っていたが、アキラに比べたら遥かに表情も豊かで分かり易い。
ビレッジに入った時に初めて見せた無邪気な笑顔を見て、蛟が亮太とコウは気が合う筈だと言っていた意味が分かった。恐らく、興味の対象が似通っているのだろう。本多劇場の前に並ぶ人の列にも目を輝かせていた。その内連れて行ってみようか、ついそう思ってしまう程度には、コウは見るからにはしゃいでいた。
亮太からしてみれば十七も年下だ、いくら本人が十分大人とはいえ、気がつけばすっかり面倒をみる気になってしまっている自分につい内心笑ってしまった。こうやって次から次へと居候が増えていくのだ。確かにお人好し以外の何者でもないに違いない。
お金は、まだ二枚目の小判には手を付けないで何とか持ち堪えている。狗神が買い物上手なので、エンゲル係数が思っていたよりも上がらないのだ。さすが年季が違うだけあった。あちこちのスーパーのチラシを見比べては丸を付けている狗神を見て微笑ましく思っているのは、もしかしたらこの世で亮太ただ一人かもしれない。それに亮太がタバコを止めたのも大きいのかもしれない。あれも月に二万円はかかっていた計算になる。正に無駄遣いだった。
サラダはマカロニサラダを用意した。中身はきゅうりとハムだけだが、ここにおろしにんにくを入れてコンソメを振りかけた後マヨネーズを混ぜると旨いのだ。
更には今日は冷えたので大根の味噌汁に、旬の秋刀魚の塩焼き。おろし大根も付け、完璧だ。あとはもう一品で味つきこんにゃく、切って温めるだけである。
「いいかコウ、始めに食べたいだけ取り皿に取るんだ。絶対だぞ」
「ああ、アキラ対策か?」
亮太は深く頷いた。あれから散々アキラに言い聞かせ、他の人間が全て取った後に取る様にと教育してきた。これはこの家のルールだ、でないとたくあんを毎回出すぞと言ったらようやく守る様になった。
「恐ろしく食う。さっきマックで見たものの比じゃねえ」
ハンバーガー三個にポテトのLにナゲット、更にコウのポテトも殆ど食べていた。コウがごくりと唾を呑む。
「あ、あれで?」
「あれで、だ」
コウは細い。服で隠れてはいるが、今日ちらっと見てしまった腰はかなり細かった。昼の食事量から見ても、あまりエンゲル係数に影響はなさそうなのは正直助かる。
タケルがシュウヘイと食事をする様になったので狗神も犬の姿で食事が取れる。結果オーライというやつだった。ここにタケルも加わっていたら、もう亮太の家には入り切らなかっただろうから。
「コウ、何飲む?」
「じゃあビールで」
「了解」
アキラは未成年、狗神は元が犬だからか酒は飲まない。だからこの家の中でこれまで飲酒をするのは亮太だけだったのだが、今日尋ねてみたところ、コウはいける口らしい。一人で晩酌も悪くはなかったが、たまには人と一緒に酒を楽しみたかったのが本音だ。
皆が席に着くと、まずはそれぞれが取皿におかずを取る。その間、アキラはジッと残りの個数を数えている様に見えた。正直非常に取りにくいが、だからといって亮太も腹は減っている。後一つ取ろうかな、どうしようかな、という時だけは、気持ち遠慮する様にはしていたが。
アキラ以外、準備は整った。亮太が代表して言う。
「じゃあ、いただきまー……」
「っす!」
アキラが言い終えた途端大皿を全て持っていった。その様子を、コウが呆れた顔をして眺めている。まあそうなるだろう。いくら知り合いとはいえ一緒に食事をする程の仲でもなかったようなので、であればアキラの食べっぷりはこんな間近では見たことがないに違いない。
コウのグラスにビールをコポコポと注ぎ、亮太は自分のグラスにも同じ様に注ぐとグラスを持ち上げた。
「乾杯」
「乾杯」
コウはそう応えると、ビールをくいっと一気に半分飲んだ。実に旨そうに飲むものだ。グラスを一旦置くと、裏表のない笑顔になった。中性的で恐ろしく整った顔にそんな笑顔を向けられた亮太は、相手が男だと分かっていても少しドキッとしてしまう。気付かれない様、目を逸し食事を始めた。
「私のコウが門を開けてから、急いで光が導く方へと旅を続けていて気が気じゃなくて、ずっと飲んでなかったんだ」
その蛟は、今も亮太のポケットの中でぬくぬくしている。顔をひょっこりと出すと、コウに向かって言った。
「コウ様は普段飲み過ぎなのー」
「そんなに飲むのか?」
急にエンゲル係数が心配になってきた亮太は、恐る恐る尋ねた。
「あれはやけ酒だ」
コウが吐き捨てる様に言った。笑顔が曇ってしまった、残念。会話をする亮太達の正面では、アキラが恐ろしい勢いで食事をかっこんでいる。あれだけ揚げた唐揚げがもう半分も残っていなかった。
「あいつは人の顔を見る度に結婚しろ結婚しろと寄ってきて、私は絶対あんなのとは結婚しない!」
おぞましいとまで言っていた結婚相手のことだろう。亮太の頭の中では、完全にゴリラがスカートを履いている姿になってしまっていた。
「家が決めた相手とか?」
ビールをちびちびと飲みながら聞く。コウが嫌そうに頷いた。
「生まれた時から決められていたが、私は古い伝説に従うのなんて真っ平御免だ」
「あー、須佐之男命と櫛名田比売が結婚する、とかそういうことか」
「そうだ」
「冗談でもやめて」
唐揚げを頬張りながら、アキラが冷たい視線を寄越した。
「すみません」
話を聞く限り、須佐之男命はとんでもない奴だ。アキラがそう言いたくなる気持ちはよく分かった。
しかしあまり神話に詳しくはないので、他にはイザナミとイザナギ位しか夫婦関係にある神様は知らなかった。
「結婚願望はないのか?」
これだけの美貌だったら引く手あまただろうに。しかも見た感じいいところの坊っちゃんの様だ。
「あそこにいる限り、あいつと結婚させられる以外の道は残されてなかったからな……」
コウが遠い目をした。なかなか苦労していたのだろう、亮太はそんなコウが少し憐れに思えた。
「まあ望まない結婚はしたくないよなあ」
うんうんと頷く。するとコウが聞いてきた。
「亮太は結婚は?」
「してるように見えるか?」
「いや。じゃあお付き合いされている方とか」
「いたらこいつらと毎日食事してると思うか?」
「……成程」
コウは何かを考え込み始めた。食事は一切進んでいないがビールはあっという間に空になった。亮太はコウのグラスにビールを注いでやった。腐ってもバーテンダーである。
「亮太」
「おお、何だ」
「私をこの家に置いてくれないか」
「え?」
コウの眼差しは真剣そのものだった。
「生活費は渡す。頼む、私は帰りたくないんだ」
「結婚させられるからか?」
コウが頷く。
「私のコウが門を開いた時、これはチャンスだと思った。だから周りがとやかく言うのを振り切って、飛び出してきたんだ」
「そうか……」
やはり良家の出なのだろう、がんじがらめとは可哀想に。亮太は目の前のコウが助けを求める子供に見えてきてしまい、こくこくと頷いた。
「分かった分かった、嫌なもんは嫌なんだもんなあ。コウが居たいだけ居ればいい」
「本当か!?」
亮太の言葉に、コウがぱあっと笑顔になった。亮太もつられて笑う。
「遠慮すんな、二人も三人も一緒だ」
それにエンゲル係数はそれ程上がらなさそうである。蛟のこともあるし、どちらにしろ当面は居てもらう気だった。それが生活費も払ってもらえるなら亮太にしてみればラッキーである。
「ありがとう、亮太」
「どういたしまして。あ、ただ、狭いのだけは文句言うなよ」
「文句なんて言わない! それに」
コウが亮太を見つめながら続けた。
「亮太にとても興味があるし」
コウがそう言った途端、アキラがブッと音を立てた。口の中に唐揚げを詰め込んだまま吹き出したらしい。それでも口は開けないところはさすがの執念というか。鼻に逆流したのか、咳をしながら涙目になっている。
亮太は慌てて立ち上がると、ティッシュを持ってきてやった。
「ほれ、鼻かめ。そんな一気に口の中に放り込むからむせるんだよ」
ポンポン、とアキラの背中を叩く。アキラがティッシュで鼻をチン、とかんだ。亮太がアキラを覗き込んだ。
「もう大丈夫か?」
「み、水……」
「はいはい」
さっと立ち上がってコップに水を入れてすぐに戻ってアキラに手渡した。その様子をじっと見つめるコウの姿をアキラは驚愕の表情で見ていたが、甲斐甲斐しく世話をする亮太はアキラのその表情には気付いていなかった。
下北沢の駅前を軽く彷徨いた程度だったが、コウは実に楽しそうだった。始めは随分愛想の悪い奴だと思っていたが、アキラに比べたら遥かに表情も豊かで分かり易い。
ビレッジに入った時に初めて見せた無邪気な笑顔を見て、蛟が亮太とコウは気が合う筈だと言っていた意味が分かった。恐らく、興味の対象が似通っているのだろう。本多劇場の前に並ぶ人の列にも目を輝かせていた。その内連れて行ってみようか、ついそう思ってしまう程度には、コウは見るからにはしゃいでいた。
亮太からしてみれば十七も年下だ、いくら本人が十分大人とはいえ、気がつけばすっかり面倒をみる気になってしまっている自分につい内心笑ってしまった。こうやって次から次へと居候が増えていくのだ。確かにお人好し以外の何者でもないに違いない。
お金は、まだ二枚目の小判には手を付けないで何とか持ち堪えている。狗神が買い物上手なので、エンゲル係数が思っていたよりも上がらないのだ。さすが年季が違うだけあった。あちこちのスーパーのチラシを見比べては丸を付けている狗神を見て微笑ましく思っているのは、もしかしたらこの世で亮太ただ一人かもしれない。それに亮太がタバコを止めたのも大きいのかもしれない。あれも月に二万円はかかっていた計算になる。正に無駄遣いだった。
サラダはマカロニサラダを用意した。中身はきゅうりとハムだけだが、ここにおろしにんにくを入れてコンソメを振りかけた後マヨネーズを混ぜると旨いのだ。
更には今日は冷えたので大根の味噌汁に、旬の秋刀魚の塩焼き。おろし大根も付け、完璧だ。あとはもう一品で味つきこんにゃく、切って温めるだけである。
「いいかコウ、始めに食べたいだけ取り皿に取るんだ。絶対だぞ」
「ああ、アキラ対策か?」
亮太は深く頷いた。あれから散々アキラに言い聞かせ、他の人間が全て取った後に取る様にと教育してきた。これはこの家のルールだ、でないとたくあんを毎回出すぞと言ったらようやく守る様になった。
「恐ろしく食う。さっきマックで見たものの比じゃねえ」
ハンバーガー三個にポテトのLにナゲット、更にコウのポテトも殆ど食べていた。コウがごくりと唾を呑む。
「あ、あれで?」
「あれで、だ」
コウは細い。服で隠れてはいるが、今日ちらっと見てしまった腰はかなり細かった。昼の食事量から見ても、あまりエンゲル係数に影響はなさそうなのは正直助かる。
タケルがシュウヘイと食事をする様になったので狗神も犬の姿で食事が取れる。結果オーライというやつだった。ここにタケルも加わっていたら、もう亮太の家には入り切らなかっただろうから。
「コウ、何飲む?」
「じゃあビールで」
「了解」
アキラは未成年、狗神は元が犬だからか酒は飲まない。だからこの家の中でこれまで飲酒をするのは亮太だけだったのだが、今日尋ねてみたところ、コウはいける口らしい。一人で晩酌も悪くはなかったが、たまには人と一緒に酒を楽しみたかったのが本音だ。
皆が席に着くと、まずはそれぞれが取皿におかずを取る。その間、アキラはジッと残りの個数を数えている様に見えた。正直非常に取りにくいが、だからといって亮太も腹は減っている。後一つ取ろうかな、どうしようかな、という時だけは、気持ち遠慮する様にはしていたが。
アキラ以外、準備は整った。亮太が代表して言う。
「じゃあ、いただきまー……」
「っす!」
アキラが言い終えた途端大皿を全て持っていった。その様子を、コウが呆れた顔をして眺めている。まあそうなるだろう。いくら知り合いとはいえ一緒に食事をする程の仲でもなかったようなので、であればアキラの食べっぷりはこんな間近では見たことがないに違いない。
コウのグラスにビールをコポコポと注ぎ、亮太は自分のグラスにも同じ様に注ぐとグラスを持ち上げた。
「乾杯」
「乾杯」
コウはそう応えると、ビールをくいっと一気に半分飲んだ。実に旨そうに飲むものだ。グラスを一旦置くと、裏表のない笑顔になった。中性的で恐ろしく整った顔にそんな笑顔を向けられた亮太は、相手が男だと分かっていても少しドキッとしてしまう。気付かれない様、目を逸し食事を始めた。
「私のコウが門を開けてから、急いで光が導く方へと旅を続けていて気が気じゃなくて、ずっと飲んでなかったんだ」
その蛟は、今も亮太のポケットの中でぬくぬくしている。顔をひょっこりと出すと、コウに向かって言った。
「コウ様は普段飲み過ぎなのー」
「そんなに飲むのか?」
急にエンゲル係数が心配になってきた亮太は、恐る恐る尋ねた。
「あれはやけ酒だ」
コウが吐き捨てる様に言った。笑顔が曇ってしまった、残念。会話をする亮太達の正面では、アキラが恐ろしい勢いで食事をかっこんでいる。あれだけ揚げた唐揚げがもう半分も残っていなかった。
「あいつは人の顔を見る度に結婚しろ結婚しろと寄ってきて、私は絶対あんなのとは結婚しない!」
おぞましいとまで言っていた結婚相手のことだろう。亮太の頭の中では、完全にゴリラがスカートを履いている姿になってしまっていた。
「家が決めた相手とか?」
ビールをちびちびと飲みながら聞く。コウが嫌そうに頷いた。
「生まれた時から決められていたが、私は古い伝説に従うのなんて真っ平御免だ」
「あー、須佐之男命と櫛名田比売が結婚する、とかそういうことか」
「そうだ」
「冗談でもやめて」
唐揚げを頬張りながら、アキラが冷たい視線を寄越した。
「すみません」
話を聞く限り、須佐之男命はとんでもない奴だ。アキラがそう言いたくなる気持ちはよく分かった。
しかしあまり神話に詳しくはないので、他にはイザナミとイザナギ位しか夫婦関係にある神様は知らなかった。
「結婚願望はないのか?」
これだけの美貌だったら引く手あまただろうに。しかも見た感じいいところの坊っちゃんの様だ。
「あそこにいる限り、あいつと結婚させられる以外の道は残されてなかったからな……」
コウが遠い目をした。なかなか苦労していたのだろう、亮太はそんなコウが少し憐れに思えた。
「まあ望まない結婚はしたくないよなあ」
うんうんと頷く。するとコウが聞いてきた。
「亮太は結婚は?」
「してるように見えるか?」
「いや。じゃあお付き合いされている方とか」
「いたらこいつらと毎日食事してると思うか?」
「……成程」
コウは何かを考え込み始めた。食事は一切進んでいないがビールはあっという間に空になった。亮太はコウのグラスにビールを注いでやった。腐ってもバーテンダーである。
「亮太」
「おお、何だ」
「私をこの家に置いてくれないか」
「え?」
コウの眼差しは真剣そのものだった。
「生活費は渡す。頼む、私は帰りたくないんだ」
「結婚させられるからか?」
コウが頷く。
「私のコウが門を開いた時、これはチャンスだと思った。だから周りがとやかく言うのを振り切って、飛び出してきたんだ」
「そうか……」
やはり良家の出なのだろう、がんじがらめとは可哀想に。亮太は目の前のコウが助けを求める子供に見えてきてしまい、こくこくと頷いた。
「分かった分かった、嫌なもんは嫌なんだもんなあ。コウが居たいだけ居ればいい」
「本当か!?」
亮太の言葉に、コウがぱあっと笑顔になった。亮太もつられて笑う。
「遠慮すんな、二人も三人も一緒だ」
それにエンゲル係数はそれ程上がらなさそうである。蛟のこともあるし、どちらにしろ当面は居てもらう気だった。それが生活費も払ってもらえるなら亮太にしてみればラッキーである。
「ありがとう、亮太」
「どういたしまして。あ、ただ、狭いのだけは文句言うなよ」
「文句なんて言わない! それに」
コウが亮太を見つめながら続けた。
「亮太にとても興味があるし」
コウがそう言った途端、アキラがブッと音を立てた。口の中に唐揚げを詰め込んだまま吹き出したらしい。それでも口は開けないところはさすがの執念というか。鼻に逆流したのか、咳をしながら涙目になっている。
亮太は慌てて立ち上がると、ティッシュを持ってきてやった。
「ほれ、鼻かめ。そんな一気に口の中に放り込むからむせるんだよ」
ポンポン、とアキラの背中を叩く。アキラがティッシュで鼻をチン、とかんだ。亮太がアキラを覗き込んだ。
「もう大丈夫か?」
「み、水……」
「はいはい」
さっと立ち上がってコップに水を入れてすぐに戻ってアキラに手渡した。その様子をじっと見つめるコウの姿をアキラは驚愕の表情で見ていたが、甲斐甲斐しく世話をする亮太はアキラのその表情には気付いていなかった。
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