我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ

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第十一章 陰る光

68.探し人は何処へ

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 亮太はコウを凝視した。すると、コウが頬をぽっと赤らめた。

「亮太、そんなに見つめられると照れる」

 心臓鷲掴みな言葉を口にし、熱い目で見られてみろ。それなりに大人としての分別があると自認している亮太ですら、一瞬指がピクリと動いてしまった。

 目の前に座るアキラの冷め切った視線がなければ、正直危なかったかもしれない。

「あ、あははは」

 こういう時は笑って誤魔化すに限る。

「そ、それで須佐之男命スサノオノミコトがコウのお兄さんって、本当なのか?」

 無理矢理話を戻した。アキラは食事を再開したが、こちらの話に集中し耳を傾けている様だ。

 ああでもようやく狗神とコウの距離の近さに納得した。狗神はアキラが生まれる迄は須佐之男命スサノオノミコトの元に居たと言っていた。それはつまり、幼い頃のコウとも居たということだ。

「力、と書いてリキと読むが、それが須佐之男命スサノオノミコトの名前だ。私の一つ上の兄だけどどうも気弱でな」

 コウはかなりはっきりとした性格だが、兄はどうもコウとは似ていない様だ。逆に気弱な兄を見て育ったからこういう性格に育ったのかもしれない。であれば、コウの性格はとても亮太の好みなので須佐之男命スサノオノミコト様様なのかもしれない。いや、よくないか。結果としてアキラは大迷惑を被っている。いやでもコウはいい。

 亮太は先日コウに教えてもらった苗字を当てはめてみた。

「吉永力さんか」

 狗神が返答した。食べ終わったらしい。

「そうです。一応吉永家の次期当主なのですが、現在は逃げ出して行方不明でコウ様もこうやって飛び出してしまわれたので、今頃あちらは大騒ぎになっているでしょうね」
「ふん、どうせ騒いでいるのは 猿田毘古神サルタビコノカミ辺りだろう。リキが居ないなら俺が当主にとかどうせ言ってるんだろう」

 コウが吐き捨てる様に言った。成程、 猿田毘古神サルタビコノカミとはそういう人間な様だ。なかなかに権力に対する執着が強そうである。すると、コウが握り拳を作って言った。

「だが私は亮太と一緒になりたい!」

 ブフォッと亮太は米を吹いた。いかん、鼻に入った。絶対このタイミングで言うことじゃない。いやでも確かにコウは恋人を作って結婚するのを目標とはしているからそりゃそうなるのだが、いやでも。

「こ、コウ、いや嬉しいんだけど、そういうのは皆の前で宣言する前にな、俺が」
「俺が?」

 コウが亮太を真っ直ぐ見つめた。アキラは目を伏せ、狗神は顔を逸らした。こいつら、逃げやがった。

 もう少し落ち着いて、コウの家の話とかをじっくり話してからきちんと準備をして言おうと思っていたのに、まさかの公開処刑の様な展開になるとは亮太は思ってもみなかった。

 でもここで誤魔化せる様な相手ではない。亮太は鼻に米が入ってムズムズする状態のまま、覚悟を決めて言った。

「俺が、ちゃんとプロポーズする予定だから」

 言ってしまった。ああ、想いが通じてまだほんの僅かしか経ってないのに、いやちゃんとするつもりではあったけど、まさかのこんなタイミングでしかも他の奴らの前で言う羽目になるとは。

「亮太……!」

 コウが亮太の首に物凄い勢いで飛びついてきた。怪我をさせたら拙いと思い亮太はコウをしっかりと受けとめると、そのまま後ろにひっくり返った。マットレスの角に背中が当たったが、コウはどこも当たらなかった様だ。

 そして、テーブルの向こう側に座るアキラの、あの冷めた目。普通こういうのはもっとキラキラした目で見てもいいと思うが、どうも片方がおっさんの亮太だからか視線が毎度毎度厳しかった。もう少しおっさんにも優しさを振り分けてもらいたいものである。
 亮太が身体を起こすがコウは亮太の上に乗ったままだ。

「だから、こ、コウ、話を戻そう、な?」
「……仕方ないな」

 コウが渋々と自分の席に戻っていった。アキラの冷たい目が、一瞬だが亮太の背後を見た。これはもしや、曾祖母ちゃんがまた何かやってるのか? それでアキラの視線がこんなに冷たいのだろうか。

「では話を戻すが、探そうと思えば狗神が神気で追える。それにあれがいる場所は大体想像がつく。亮太が案内してくれれば比較的すぐに見つかると思う」
「レンは連れていっちゃ駄目!」

 アキラが口の端に米粒を付けながら怒鳴った。珍しいこともあるものだが、そんなに嫌がる理由とは何なのか。そもそも首を絞められたりと危害を加えられたのはアキラの方だ。

「アキラ、私が居るから大丈夫だ。不安ならお前は家に居ればいい」
「一緒に行く!」
「ですがアキラ様、危険ではありませんか」
「駄目! 絶対!」

 犯罪防止ポスターの様な台詞を吐いたアキラは、ちゃかちゃかと残りのご飯をかっこむと残りのおかずも面白い程の勢いで食べ尽くし、パン! と手を合わせてご馳走様のポーズを取った。

「勝手に行ったら勝手に断食して水浴びして首を出してやる」

 壮絶な宣言だった。亮太の頬がひく、と引き攣る。アキラの目は真剣だった。

「分かった?」
「わ、分かった」

 コウが頷いた。蓮の姿で食器を片付けようとしてた蓮の表情は相変わらずの静かなものだったが、ほんのり目元が笑っていたのは亮太の気の所為ではないだろう。それはアキラの覚悟が嬉しかったのか、それとも。

 だがどうせ聞いても蓮は答えないだろう。亮太も食事を終えて食器を片付けると、ようやく鼻をかんで中に居座っていた米粒を取った。

 時計を見ると、もういい時間だ。歯磨きをして行かねばならない。

「コウ、そうしたら今夜は宜しくな」
「任せて」

 まだもぐもぐと食べているコウが請負う様が可愛くも頼もしく、亮太はにっこりと笑うと支度を始めた。



 次の亮太の休日は平日だった。空は秋晴れ、風は冷たい。車窓の外に移る樹木は紅葉が始まっていた。

「私が最後に聞いたのは、執事カフェに行きたいというものだった」
「し、執事カフェ?」

 くそ真面目な顔でコウが頷いた。亮太達は今新宿行きの各駅停車に乗っているが、まあ目立つ目立つ。亮太は周りの目線が気になり、というかコウに向けられている男性の視線に腹が立ち、わざとらしくコウの腰に手を回した。すると、コウが嬉しそうに亮太に身体を寄せた。ち、という男達の心の声が聞こえた気がする。

 よし、今日はこれでいこう、そうしよう。コウの身の安全及び亮太の嫉妬心を抑え込む為には必要だ。

 アキラは迷子防止の為蓮にしっかりと手を繋がれていた。アキラが幼いからか、ここは兄妹の様に見えるのだろう、周りの目も優しかった。

「だがろくに金も持たずに飛び出していったから、働いている可能性も高い。となると、前にやりたいと言っていた女装カフェか」
「や、やりたい? 女装を?」

 再びコウが頷いた。

「新宿二丁目も行ってはみたいが怖いと言っていたし、ホストは女性相手だからないと言っていたし」
「すまん、何言ってるか分かんねえ」
「リキの行きたがっていた場所だ」
「いや、それは分かるんだけど、だって、え? スサノオさんだろ?」
「その通りだ」

 亮太の頬に触れるコウの頭からはいい香りがした。絶対同じシャンプーではない気がする。

「見た目はそうだな、私に似ているかな。体つきはがっしりとしているから、男版私だな」
「いや、そういうことを聞いてるんじゃなくて」
「まあ、会えば分かる」

 コウが亮太を見上げてにっこりと笑った。この感じ、コウは兄であるリキを好いている様に思えた。となると、アキラが毛嫌いする程悪い奴ではないのかもしれない。ただパニックになって馬鹿力で暴れてしまっただけなのだろうか。

 まあ、それも会えば分かる。若干、いや大分世の中の人間が想像している須佐之男命スサノオノミコトとは違う雰囲気がぷんぷんしてきたが、このままコウと結婚出来たら亮太の義理の兄となるのだ。あまり実物を見る前から構えるのも悪いかな、と思ったので、とりあえず亮太は今のところはそれ以上聞くことをやめた。

 その代わり、車窓の外に見える景色をコウに説明してやることにしたのだった。
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