鬼ごっこと夏休み

ミドリ

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アフター鬼ごっこ その2

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 水着を購入した翌日、私たちは電車で一時間ほどの場所にあるビーチへと来ていた。

 真っ青な空。白い入道雲。青緑の海に、白く泡立つ波。

 砂浜には海の家ほどではないけど寛げる木造のポーチみたいなのがあって、そこにビーチベッドが並び、パラソルだって完備してある。

 砂浜とか海とかそんな呼び方をしちゃいけない。これは紛うことなきビーチだった。

「ビーチだ……」

 どこかの南国かの様に煌めく海を見つめながら私が呟くと、同じ様に口をぽかんと開けていた沙羅が尋ねる。

「ちょ、これ、本当にプライベートビーチ?」

 苦笑しながらも、ちょっと誇らしげな矢島が頷いた。

「うん。爺ちゃんがこの辺りの地主でさ。母さんは嫁に行って相続権放棄してるから俺はあんまり関係ないんだけど、ここだけは最高だから結構使わせてもらってるんだ」
「使用条件はゴミ拾いだよな」

 柿本が大きなゴミ袋と軍手、火ばさみをリュックから取り出すと、私たちに配り始めた。

「結構流れ着くからね」

 矢島と柿本は、中学の頃からの付き合いらしい。だから柿本は何度もここを訪れたことがあるらしく、到着してすぐに挨拶をしに行った古くて立派な門がある日本家屋にも勝手知ったる感じで上がっていた。

 矢島のお母さんのお姉さんだという女性とも仲良さげに会話していたから、さすがたらしだ。

 緩い雰囲気が、人を警戒させずに近寄らせる。私にはない能力だ。

 私なんて、辿々しく挨拶して、噛んでしまった。この雲泥の差。

 ――そんな柿本が、なんで私なんかを。

 ゴミ拾いを始めた柿本をちらりと見ると、横から矢島が至近距離で顔を覗かせる。

「わあっ!」

 あまりの近さに後ずさると、矢島がチャラいイケメン顔で目を細めた。今日は泳ぐから、とスポーツ用の眼鏡を掛けている。後ろに落下防止の紐が付いているタイプのものだ。

 一歩間違えばださい黒縁のその眼鏡も、矢島が掛けるとオシャレに見えるこの不思議。

「愛理、どお? 俺の眼鏡、似合ってる?」
「う、うん。さすが矢島だよなって思ってた」

 私が答えると、普段はクールビューティーと言ってもいい矢島の相好が崩れた。

「……愛理って、そういうところなんだよなあ」
「え? どういうところ?」
「打算がないところ。まあ、俺に対してはあってくれた方が本当は嬉しいんだけど」

 ちょっと言っている意味が分からない。

 私が首を傾げると、矢島は更にくしゃりと笑った。

 笑うと、日頃は少し大人っぽい笑顔が途端に子供みたいになる。元彼との別れが近付いてきているのを察し始めた頃、この笑顔に何度も助けられた。

 優しい、思いやりのある友人。そう思っていた。

 ――なのに、まさか矢島まで私を。

「愛理?」
「あ、ご、ゴミ拾いだよねっ!」

 パッと距離を取ると、多分真っ赤になっているだろう顔を矢島から隠すべく、くるっと背中を向けた。

 すると、今度は柿本と目が合う。ふにゃりと笑いかけられて、もうどうしていいか分からず沙羅のところに逃げる。

 沙羅が、ジト目で私を見上げた。

「……あざとくないから腹立つ」
「沙羅、怒らないでよ……」
「別にあんたには怒ってないよ」

 ふん、と可愛らしく口を尖らせる沙羅。

「あいつらが愛理をいいなって思っちゃう理由が分かっても自分には真似できないのが腹立つだけ」

 見た目にそぐわず、凛々しい意見を述べた。

「……私、女子には嫌われてるしさ。こんなに口悪いのに側にいてくれるの、愛理くらいだし」

 確かに、はっきりものを言う沙羅の周りに女子は集わない。

 沙羅はきっと、頭がいいんだろう。勉強とかそういうことではなく、よく周りが見えている。

 周りが自分に対しどう思っているのかを察してしまうから、うわべだけの付き合いを馬鹿馬鹿しいと思って突き放す。

 沙羅は私に対しても遠慮ないけど、私はちゃんと沙羅に向き合ってるのかな。

 考え込んでしまった私に、沙羅が脇腹を肘で小突く。

「あんたはクソ真面目過ぎんのよ。余計なこと考えないで今日は楽しもう」
「――うん!」

 背はでかいのにこのウジウジした性格が、自分では好きになれない。

 はっきりし過ぎの沙羅に、はっきりしなさ過ぎの私。

 沙羅が隣にいてよかった、そう思えた。



 矢島と柿本が持参した水鉄砲で、グーパーでチーム分けして戦うことになった。

 顔面に当たったら負け。そんな大雑把なルールを決めて、大きな水鉄砲を構える。

 私は柿本とチームになった。

「顔は絶対いや! メイク落ちちゃう!」
「仕方ないなー。俺の後ろに隠れてろよ」
「矢島、頼りになるね! これなら愛理を任せられるかも!」
「え? まじ?」

 矢島・沙羅チームは、人をネタに盛り上がっている。

「塚田、俺たちは矢島を狙おう」
「うん、それから沙羅だね!」

 実質2対1。この後のかき氷の削り担当が掛かっているから、私たちは必死だった。

「――戦闘開始!」

 水鉄砲の打撃が飛び交い、私と柿本は背中合わせになる。

「塚田、俺の影から飛び出して狙うんだ!」
「了解!」

 今だ! という柿本の号令と共に飛び出す。矢島が私に水鉄砲を発射すると、柿本の腕がスッと伸びて視界を遮った。

 水は柿本の腕に当たり、矢島の水鉄砲は弾切れを起こす。

「いけ愛理!」
「うん……う、え!?」

 いつもは名字で呼ぶ柿本の名前呼びに動揺し、思わず柿本を見た。耳が赤くなってるのは、日焼けの所為――だろうか?

「隙ありいいい!」

 この一瞬の間を見逃さなかったのは、メイクを死守したい沙羅だ。

「ぎゃーっ!」
「ぶへっ!」

 水鉄砲は見事に私たち二人の顔面に命中し、沙羅が勝利を収めたのだった。
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