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4 代理人案
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私の好きな人がどこの誰なのか、セイは聞きたがった。とても嫌そうな表情で。
そんな嫌な顔しなくでいいじゃないかと思ったが、考えてみれば幼馴染みの私の恋バナなど、家族の恋バナを聞く感じで違和感満載なのだろう。急に知らない人の様に思えてしまうあれだ。
「ほら、さっさと吐け。相手がどんなに無謀な相手でも、俺がなんとかして連れてきてやるから」
「…………」
「キョウ?」
私は黙りこくっていた。
言える訳がない。そもそもそんな勇気があったら、こんな迷信の面倒な手続きを踏まなくても告白出来ている。
好きを好きだと言えないお年頃、それが今の私なのだ。
とりあえず、言えることを言うことにした。
「いや、無理」
「なんで無理なんだよ」
セイはしつこい。そんなに嫌そうな顔をしながら聞くくらいだったら、聞かなきゃいいじゃないか。
「つ、連れてくるのは物理的に無理だから」
無理だ。セイにはそもそも無理なのだ。だがそんな大ヒントをセイに言うなんて出来やしない。
セイは、譲らなかった。物的証拠を差し出さないと納得しない男だからだろう。
「なんで物理的に無理なんだよ! お前この先、この耳と尻尾でどうやって過ごすつもりだよ!」
「……可愛いよ」
精一杯の抵抗を示してみた。とりあえず、耳はコスプレみたいで可愛いのは確かだ。尻尾がやることはなかなかにえぐいが。
セイが、正論を述べた。
「可愛いとかいう問題じゃないだろ! 拙いと思わないのかよ!」
「うっ」
確かにこれは拙い。大いに拙い。だけど、この状態になってからまだそう大して時間は経っていない。私は必死に言い訳を考えた。
「寝たら治るかもしれないじゃん!」
「寝て治らなかったらどうするんだよ!」
「だ、だって……!」
私が頑なに拒否すると、セイは腕組みをして考え込み始めてしまった。
「髪の毛を入手出来たってことは、割と身近にいる奴だってことだろ……」
ブツブツと、論理的思考で独り言を喋っている。その内容がドンピシャだったので、私は当然の如く黙り込んだ。
「結べるくらい長い髪ってことは、野球部は違うな……おい、そいつの部活くらい教えろよ」
「言えません」
私は黙秘権を行使することにした。
「何でだよ!」
セイが噛み付く様に言ったが、そんなの恥ずかしいからに決まってるじゃないか。素直になれるのなら、私だってなってみたい。だけど、どうしても素直になれないのだから仕方がない。
セイはあれこれぶつくさ言っていたが、やがてゆっくりと顔を上げると、とある提案を口にした。
「待てよ……別にお稲荷さんに報告をすれば済むんだったら、代理でもいけるんじゃねえか……?」
まさかの代理人を立てるという案に、さすが頭のいい人は考えることが一般人とは違うなと関心する。紙一重ってやつだ。
「――キョウ」
「……へ」
セイの眼差しがあまりにも真剣そのもので、この目に弱い私は間抜けな返事しか出来なかった。へ、てなんだ、へ、て。
「お前がどうしても言いたくないみたいだから、仕方ないから俺が代理人になってやる」
そう告げるセイの目の下が、あからさまにピンク色に染まっている。どうして照れているんだろう、そう思って、そうだ、最後にキスしないといけないからだと気付いた。
「代理人……」
「おっ……俺とはキ、キスしたことあるから平気だろっ」
確かにしたことはある。小さな時に、そりゃもうチュッチュチュッチュとセイの方から。
そんな苦い記憶を持つセイが、された側の私を睨みつける様に見る。何故睨まれるのか、意味が分からない。
「それとも何か? お前、俺を意識しちゃってんの?」
「――すっ! する訳ないじゃん!」
これは睨んでいた訳じゃなかったらしい。セイだって照れてるのだ。その証拠に、頬を染めた顔に付いている優しそうな目が泳ぎまくっているじゃないか。もてる割には、案外初心なのかもしれなかった。
「じゃあ決まりだな」
「おっ……おう!」
売り言葉に買い言葉で、私は勇ましく返答をしてしまった。
そんな嫌な顔しなくでいいじゃないかと思ったが、考えてみれば幼馴染みの私の恋バナなど、家族の恋バナを聞く感じで違和感満載なのだろう。急に知らない人の様に思えてしまうあれだ。
「ほら、さっさと吐け。相手がどんなに無謀な相手でも、俺がなんとかして連れてきてやるから」
「…………」
「キョウ?」
私は黙りこくっていた。
言える訳がない。そもそもそんな勇気があったら、こんな迷信の面倒な手続きを踏まなくても告白出来ている。
好きを好きだと言えないお年頃、それが今の私なのだ。
とりあえず、言えることを言うことにした。
「いや、無理」
「なんで無理なんだよ」
セイはしつこい。そんなに嫌そうな顔をしながら聞くくらいだったら、聞かなきゃいいじゃないか。
「つ、連れてくるのは物理的に無理だから」
無理だ。セイにはそもそも無理なのだ。だがそんな大ヒントをセイに言うなんて出来やしない。
セイは、譲らなかった。物的証拠を差し出さないと納得しない男だからだろう。
「なんで物理的に無理なんだよ! お前この先、この耳と尻尾でどうやって過ごすつもりだよ!」
「……可愛いよ」
精一杯の抵抗を示してみた。とりあえず、耳はコスプレみたいで可愛いのは確かだ。尻尾がやることはなかなかにえぐいが。
セイが、正論を述べた。
「可愛いとかいう問題じゃないだろ! 拙いと思わないのかよ!」
「うっ」
確かにこれは拙い。大いに拙い。だけど、この状態になってからまだそう大して時間は経っていない。私は必死に言い訳を考えた。
「寝たら治るかもしれないじゃん!」
「寝て治らなかったらどうするんだよ!」
「だ、だって……!」
私が頑なに拒否すると、セイは腕組みをして考え込み始めてしまった。
「髪の毛を入手出来たってことは、割と身近にいる奴だってことだろ……」
ブツブツと、論理的思考で独り言を喋っている。その内容がドンピシャだったので、私は当然の如く黙り込んだ。
「結べるくらい長い髪ってことは、野球部は違うな……おい、そいつの部活くらい教えろよ」
「言えません」
私は黙秘権を行使することにした。
「何でだよ!」
セイが噛み付く様に言ったが、そんなの恥ずかしいからに決まってるじゃないか。素直になれるのなら、私だってなってみたい。だけど、どうしても素直になれないのだから仕方がない。
セイはあれこれぶつくさ言っていたが、やがてゆっくりと顔を上げると、とある提案を口にした。
「待てよ……別にお稲荷さんに報告をすれば済むんだったら、代理でもいけるんじゃねえか……?」
まさかの代理人を立てるという案に、さすが頭のいい人は考えることが一般人とは違うなと関心する。紙一重ってやつだ。
「――キョウ」
「……へ」
セイの眼差しがあまりにも真剣そのもので、この目に弱い私は間抜けな返事しか出来なかった。へ、てなんだ、へ、て。
「お前がどうしても言いたくないみたいだから、仕方ないから俺が代理人になってやる」
そう告げるセイの目の下が、あからさまにピンク色に染まっている。どうして照れているんだろう、そう思って、そうだ、最後にキスしないといけないからだと気付いた。
「代理人……」
「おっ……俺とはキ、キスしたことあるから平気だろっ」
確かにしたことはある。小さな時に、そりゃもうチュッチュチュッチュとセイの方から。
そんな苦い記憶を持つセイが、された側の私を睨みつける様に見る。何故睨まれるのか、意味が分からない。
「それとも何か? お前、俺を意識しちゃってんの?」
「――すっ! する訳ないじゃん!」
これは睨んでいた訳じゃなかったらしい。セイだって照れてるのだ。その証拠に、頬を染めた顔に付いている優しそうな目が泳ぎまくっているじゃないか。もてる割には、案外初心なのかもしれなかった。
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売り言葉に買い言葉で、私は勇ましく返答をしてしまった。
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