賽の河原の拾い物

ミドリ

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13 体調不良

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 電車の中で、えっちゃんに昨日の龍との話をする。その後は、今朝春彦と話をした内容をさも自分の考えのように伝えた。

「要は、恋に恋してた感じ? お子ちゃまねえ」

 えっちゃんは呆れ顔だったけど、「よく考えたな、えらいえらい」と褒めて頭を撫でてくれたので、私はご満悦だ。

 だけど、そんなえっちゃんの顔が何だか疲れている。眼鏡の外のオーラも、どんよりした灰色だ。

「えっちゃんどうしたの? 顔色が良くないよ」
「いや、それがさあ」

 えっちゃんには、溺愛している妹がいる。その六歳離れた小学四年生の妹が、昨日下校後に熱を出してぶっ倒れたんだそうだ。慌てて自転車に乗せて小児科に連れていくと。

「検査したら、プール熱でさ」

 働いている親の代わりに妹の看病をしたり晩ごはんに病人食を追加して作ったりと、昨日はかなりの活躍をみせていたらしい。さすがはしっかり者のえっちゃんだ。

「まじ? えっちゃんは大丈夫なの?」
「ありゃ子供がかかる夏風邪だから大丈夫だよ」

 疲れた顔に笑みを浮かべるえっちゃんは、何だか格好よく見えた。眼鏡の外に見える灰色に青が混じっているので、今日も休んでいる妹のことが心配なんだろう。

 ひとりっ子の私には、ちょっと羨ましい。

「大変だねえ……」
「こんなのはたまにだし。大丈夫、大丈夫」

 聞けば、今日もさっさと帰って仕事に行く母親と交代で面倒をみることになっているそうだ。毎日龍の相談に乗ってもらっているのに、こういう時に親友として何もしてあげられないのが心苦しい。

「まあでも、最近ちょっと生意気になってたあいつが弱って甘えてくるのが可愛くて、ヒッヒッヒ」

 ……案外楽しんでいるみたいだ。なら、助けはいらないのかもしれない。

「困ったら呼んでよ」

 そう言って肩を叩くと、えっちゃんが呆れたように言い返してきた。

「何言ってんの。困ってるのはあんたの方でしょ。いい? どんなに誘われても、やっぱり家には行っちゃ駄目だからね!」

 春彦と同じことを言われる。

 ああ、私は友人にとても恵まれているな、とじんわり心が暖かくなった。



 午後から、空がどんよりと曇り始めた。季節は梅雨に差し掛かろうとしているところ。いつ雨が降ってもおかしくはない。

 放課後の掃除も終わりこれから部活に顔を出す予定だったけど、どうも頭がくらくらしている。それに、何だか身体が重い気がする。

「小春どうした?」

 えっちゃんが、ぼーっとしている私に気が付いた。私の顔を見てハッとする。

 慌てて駆け寄ってくると、手のひらを私の額に当てた。

「……気持ちいー……」

 ひんやりしていて気持ちいい。これに頬ずりをしたら怒られるかな。少し変態なことを考えていると、えっちゃんの手がパッと離れていってしまった。残念。

 何をしているんだろうとぼうっと眺めていると、えっちゃんが慌てて私の鞄を持って戻ってきた。

「悪い小春、プール熱をうつしちゃったみたい! 送っていくから、今すぐ帰ろう!」
「……え?」

 えっちゃんの説明によると、プール熱の潜伏期間は二日から二週間と長さはまちまちらしく、普通は子供しかかからないそうだ。だけど、疲れ切っていたりすると稀に大人も疾患するらしい。

 症状としては、結膜炎と三十九度前後の発熱が数日続くとのこと。

 えっちゃんに腕を抱えられながら、フラフラと校舎の外に向かう。

「あんた最近寝られてなかったんじゃないの?」
「……あー、まあ……」

 龍のことばかり考えていたら、寝付きが悪くなっていたのは事実だ。ちょっとした風の音でも起きてしまい、全体的に眠りが浅かった。

 半泣きな顔のえっちゃんが、私を引っ張っていく。

「私はうつらなかったけど、多分菌を保有してたんだな。毎日あんたにベタベタくっついてたから、それでうつっちゃったんだ」

 毎日ベタベタくっついていたのは確かだ。えっちゃんのボリューミーな胸と突き刺さる肘は、今週すでに何度も経験している。

「何で分かるの」
「あんたの目、赤いよ」

 慌ててスマホのカメラで自分を映すと、白目が赤い。確かにこれは結膜炎の症状だ。

「荷物も持つから。ほら、帰ろう」
「でも、龍くんが」

 龍はこの後、部活の終了時間までに来ることになっている。なのに先に帰ったら拙いんじゃないか。

 そんな私に、えっちゃんは一喝した。

「馬鹿! メッセージのひとつでも送ればいいでしょ!」

 眼鏡の外のオーラは、黄色と赤と青とごちゃ混ぜになっている。えっちゃんがかなり混乱しているのが、それで分かった。

「うつすから暫く会えないって言っときなよ! それでごちゃごちゃ言ってくるようなら、ふっちゃえばいいのよ!」

 目から鱗だった。

「そっか、そうか……うつしちゃ駄目、だもんね」
「そうだよ!」

 暫く会えない。その響きに、驚くほど安堵する自分がいた。

「分かった……」

 自分の薄情さに嫌気が差しつつも、即座にえっちゃんの提案に乗り、龍にメッセージを打ち始める。

 毎日毎日、さすがに疲れていた。

 正直、もう限界だった。
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