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塩むすびは友との約束と忘れがたき味ー現代②ー
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「セイに関して一番覚えているのは、やはり神饌として捧げられたおむすびの味だな。これはこの店で出しているおにぎりの味でもある」
「おにぎりの味ですか?」
「元々、自分でおむすびを作ろうと思ったきっかけというのは、セイが生きていた証でもあるおむすびの味を誰かに伝えたいと思ったからだ。好みに口うるさい俺のためにセイは日々おむすびを研究していた。米や水、塩の種類や分量、炊飯時間、握り方を工夫しては、俺の口に合わせようとしていた。特に最後に食べたセイの塩むすびは絶品だった。その味を皆にも知って欲しい。友のために、最期までおむすびを作り続けたセイのことを――」
蓬がおむすび作りを始めるまで、この建物はただの民家だった。住民の切り火たちと慎ましやかに生活しつつ、セイの魂を探し続けていた蓬だったが、セイを探し求める中で時折見かけるお腹を空かせた孤児のあやかしたちが気掛かりとなっていた。また雨降り小僧や金魚の幽霊たちのように、力が弱いために強いあやかしたちから搾取をされ続け、ひもじい思いをしているあやかしたちの存在も知った。そんなあやかしたちのために蓬でも出来ることを考え、セイが作ったおむすびを再現してあやかしたちの空腹を満たしつつ、かつてセイという人間が蓬のために用意してくれた塩おにぎりを彼らに知ってもらうことを思いついたという。
セイは当時本殿が建てられていた場所やセイとの会話を頼りに、人の世からおにぎり作りに必要な材料や道具の一式を取り寄せた。中には時代が変わって入手できないものもあったが、人の世に詳しいあやかしに依頼して、どうにか入手してもらったという。
「だが、どうしてもその味が再現できない。試行錯誤を繰り返して、どうにか近い味にはなったが、それでもセイのおむすびとは何かが違う。セイのおむすびは塩が好きなアイツらしく、多少塩辛いものの、その中に甘さと苦味を感じられた」
「塩辛く、でも甘く、苦い、というおにぎりですか……」
「それも今や遠い記憶だけどな。そんな味が実在するのか確かめる前に俺の味覚は失われてしまった。記憶違いか、もう確かめることすら出来ない」
莉亜は思考する。最近どこかでそんな味を口にしたような気がする。しょっぱい塩味の中に甘さと苦さを含んだおにぎり……。最近食べたものを思い出していく内に、莉亜は「あっ……」と閃く。
(今日、お店に来た時に食べた塩おにぎり。あれもしょっぱくて甘く苦い味がした!)
蓬の味覚騒動で忘れかけていたが、今日莉亜が店に来た時、古風な男子学生の姿をした青年がおにぎりを握ってくれた。あのおにぎりがまさに塩辛さの中に、甘さと苦味が混ざった味をしていた。
それにあの青年も言っていた。「店主はこの味を再現しようとしている」と……。
(まさか、あの男の人が……)
ある種の予感めいたことを考えていると、「何か心当たりがあるのか?」と尋ねられる。確証も無いのに言えるはずもなく、慌てた莉亜は「い、いえっ……」と挙動不審になってしまう。そこで話題を変えることにしたのだった。
「その……帰ったら、セイさんが作っていたという塩おにぎりについて調べてみたいので、持ち帰り用に幾つか作ってくれませんか?」
「分かった。今から飯を温め直すと、少し時間が掛かる。帰り支度をして待っていてくれ」
蓬が席を立つと、莉亜も使用した皿と湯呑みを持って流しに向かう。せめて皿洗いくらいは手伝うべきだろう。食器を洗い始めた莉亜はおむすびの用意をする蓬の姿を盗み見る。
蓬が作る塩おにぎりは至ってシンプルだ。材料は米と塩しか使用しない。セイが用意していたおにぎりがそうだったのか、海苔が巻かれていなければ、鮭や昆布などの具材も一切使用してない。もしこれらが違うというのなら、あとは米を炊く際に使用する水や釜、火力や炊飯時間辺りが原因だろうか。
(でも違うのは食感じゃなくて、味なんだよね。食感が違うというのなら、火力や炊飯時間に答えがありそうだけど)
一人暮らしを始めて自炊をするようになってから気付いたが、炊飯器が違うというだけでも炊き上がった米というものは全く異なる。噛んだ時の食感や米の甘み以外にも、箸で掬った時のほぐれ具合、冷凍した時の匂いや味でさえ違う。炊き上がった米の一粒を見ても、実家から冷凍して持って来た米の形や大きさとわずかに差があった。思えば、一人暮らしを始めることになって家電量販店に炊飯器を買いに行った際、店員から希望する加熱方式や釜の素材を聞かれたような覚えがあった。あの時は予算の都合上、値段が安いものを購入してしまったが、加熱方式や釜の素材にも炊き上がった米に差をつける要因があるのかもしれない。
ただ蓬の話ではセイのおにぎりを再現するために、セイが生きていた時代に使用していた道具を入手したとのことだった。おそらく釜や竈なども同じだろう。それなら火力や炊飯時間を調整していけば、食感はほぼセイが作っていたおにぎりと同じになる。つまり問題は作り方ではないということになる。
(多分、甘いというのはお米の味なんだよね。で、塩辛いというのは塩の分量のこと。となると、問題は苦いかな……。米が苦いということはないだろうし、塩が苦いってあるのかな。それよりも水を疑った方がいい?)
米を炊く際には水を使用するが、その水も住んでいる地域や採水した場所によって異なるので、当然味が異なる。水道を捻ると蛇口から出て来る水と店で売っているペットボトルの水でさえ全く別の味であり、種類も軟水や硬水、天然水、海洋深層水、ミネラルウォーターなど様々である。
おそらくセイが生きていた時代と莉亜たちが生きる今の時代では、水を精製する方法や水を引く水源も違うのかもしれない。
水が異なれば、同じ品種の米や釜、同じ火力や炊飯時間でも、炊き上がった米の食感や味は変わってしまう。水の違いが米の味を変えてしまっているのだろうか。
「おにぎりの味ですか?」
「元々、自分でおむすびを作ろうと思ったきっかけというのは、セイが生きていた証でもあるおむすびの味を誰かに伝えたいと思ったからだ。好みに口うるさい俺のためにセイは日々おむすびを研究していた。米や水、塩の種類や分量、炊飯時間、握り方を工夫しては、俺の口に合わせようとしていた。特に最後に食べたセイの塩むすびは絶品だった。その味を皆にも知って欲しい。友のために、最期までおむすびを作り続けたセイのことを――」
蓬がおむすび作りを始めるまで、この建物はただの民家だった。住民の切り火たちと慎ましやかに生活しつつ、セイの魂を探し続けていた蓬だったが、セイを探し求める中で時折見かけるお腹を空かせた孤児のあやかしたちが気掛かりとなっていた。また雨降り小僧や金魚の幽霊たちのように、力が弱いために強いあやかしたちから搾取をされ続け、ひもじい思いをしているあやかしたちの存在も知った。そんなあやかしたちのために蓬でも出来ることを考え、セイが作ったおむすびを再現してあやかしたちの空腹を満たしつつ、かつてセイという人間が蓬のために用意してくれた塩おにぎりを彼らに知ってもらうことを思いついたという。
セイは当時本殿が建てられていた場所やセイとの会話を頼りに、人の世からおにぎり作りに必要な材料や道具の一式を取り寄せた。中には時代が変わって入手できないものもあったが、人の世に詳しいあやかしに依頼して、どうにか入手してもらったという。
「だが、どうしてもその味が再現できない。試行錯誤を繰り返して、どうにか近い味にはなったが、それでもセイのおむすびとは何かが違う。セイのおむすびは塩が好きなアイツらしく、多少塩辛いものの、その中に甘さと苦味を感じられた」
「塩辛く、でも甘く、苦い、というおにぎりですか……」
「それも今や遠い記憶だけどな。そんな味が実在するのか確かめる前に俺の味覚は失われてしまった。記憶違いか、もう確かめることすら出来ない」
莉亜は思考する。最近どこかでそんな味を口にしたような気がする。しょっぱい塩味の中に甘さと苦さを含んだおにぎり……。最近食べたものを思い出していく内に、莉亜は「あっ……」と閃く。
(今日、お店に来た時に食べた塩おにぎり。あれもしょっぱくて甘く苦い味がした!)
蓬の味覚騒動で忘れかけていたが、今日莉亜が店に来た時、古風な男子学生の姿をした青年がおにぎりを握ってくれた。あのおにぎりがまさに塩辛さの中に、甘さと苦味が混ざった味をしていた。
それにあの青年も言っていた。「店主はこの味を再現しようとしている」と……。
(まさか、あの男の人が……)
ある種の予感めいたことを考えていると、「何か心当たりがあるのか?」と尋ねられる。確証も無いのに言えるはずもなく、慌てた莉亜は「い、いえっ……」と挙動不審になってしまう。そこで話題を変えることにしたのだった。
「その……帰ったら、セイさんが作っていたという塩おにぎりについて調べてみたいので、持ち帰り用に幾つか作ってくれませんか?」
「分かった。今から飯を温め直すと、少し時間が掛かる。帰り支度をして待っていてくれ」
蓬が席を立つと、莉亜も使用した皿と湯呑みを持って流しに向かう。せめて皿洗いくらいは手伝うべきだろう。食器を洗い始めた莉亜はおむすびの用意をする蓬の姿を盗み見る。
蓬が作る塩おにぎりは至ってシンプルだ。材料は米と塩しか使用しない。セイが用意していたおにぎりがそうだったのか、海苔が巻かれていなければ、鮭や昆布などの具材も一切使用してない。もしこれらが違うというのなら、あとは米を炊く際に使用する水や釜、火力や炊飯時間辺りが原因だろうか。
(でも違うのは食感じゃなくて、味なんだよね。食感が違うというのなら、火力や炊飯時間に答えがありそうだけど)
一人暮らしを始めて自炊をするようになってから気付いたが、炊飯器が違うというだけでも炊き上がった米というものは全く異なる。噛んだ時の食感や米の甘み以外にも、箸で掬った時のほぐれ具合、冷凍した時の匂いや味でさえ違う。炊き上がった米の一粒を見ても、実家から冷凍して持って来た米の形や大きさとわずかに差があった。思えば、一人暮らしを始めることになって家電量販店に炊飯器を買いに行った際、店員から希望する加熱方式や釜の素材を聞かれたような覚えがあった。あの時は予算の都合上、値段が安いものを購入してしまったが、加熱方式や釜の素材にも炊き上がった米に差をつける要因があるのかもしれない。
ただ蓬の話ではセイのおにぎりを再現するために、セイが生きていた時代に使用していた道具を入手したとのことだった。おそらく釜や竈なども同じだろう。それなら火力や炊飯時間を調整していけば、食感はほぼセイが作っていたおにぎりと同じになる。つまり問題は作り方ではないということになる。
(多分、甘いというのはお米の味なんだよね。で、塩辛いというのは塩の分量のこと。となると、問題は苦いかな……。米が苦いということはないだろうし、塩が苦いってあるのかな。それよりも水を疑った方がいい?)
米を炊く際には水を使用するが、その水も住んでいる地域や採水した場所によって異なるので、当然味が異なる。水道を捻ると蛇口から出て来る水と店で売っているペットボトルの水でさえ全く別の味であり、種類も軟水や硬水、天然水、海洋深層水、ミネラルウォーターなど様々である。
おそらくセイが生きていた時代と莉亜たちが生きる今の時代では、水を精製する方法や水を引く水源も違うのかもしれない。
水が異なれば、同じ品種の米や釜、同じ火力や炊飯時間でも、炊き上がった米の食感や味は変わってしまう。水の違いが米の味を変えてしまっているのだろうか。
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