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黒犬とかき氷と
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(そういえば、タオルって……)
縁側を見渡すが、タオルらしきものはどこにも無かった。雨が降り出すなら、どのみちタオルがあった方がいいだろう。水分補給に飲み物もあるといいかもしれない。
(タオルは洗面所か湯殿にあったかな? 飲み物は台所にあるよね)
ゆっくり腰を上げると縁側を歩き出す。これまで畑がある裏庭辺りは来たことが無かったので、物珍しそうに辺りを見ながら壁伝いに歩く。すると、とある部屋の前を通った時、暗がりで何かが光ったように見えたのだった。
「何だろう……」
華蓮は部屋の入り口から顔だけ出して暗闇に目を凝らす。そもそもここは何の部屋なのだろうか。
日当たりによるものなのか、室内は薄暗く、書き物机や衣料を入れている行李以外は何も置かれていなかった。
殺風景で、どこか寂しい部屋だった。
「気のせいかな。外からの明かりが反射しただけとか?」
そう思った矢先に、また部屋の暗闇から白い光が見えたかと思うと、今度は微かに声が聞こえてきたのだった。
『もう無理しちゃ駄目だよ……ただでさえ昔の傷が痛むんだから……』
『はいはい。分かってるよ。全く、口うるさい息子だね……』
「この声はあの光から聞こえてくるの……?」
華蓮は瞬きをすると、そっと室内に足を踏み入れる。勝手に入るのは良くないと思いつつも、引かれるように光に近づいて行ったのだった。
暗闇に目が慣れていくにつれて、光は割れた鏡から放たれていることに気付く。光の前に辿り着くと、その場に膝をついて、ところどころ欠けた鏡を覗き込む。
割れた鏡の中には杖をつきながら歩く年老いた女性と、老婆に手を貸す年配の男性が映っていた。
いかにも親子といった二人は、どちらも共に春雷と顔立ちがよく似ていたのだった。
(どうして春雷と似ているんだろう……)
そのままじっと鏡を見ていた華蓮だったが、何気なく鏡に触れようとしたところで、後ろから慌てた様子の春雷が駆け寄ってきたのであった。
「睡蓮!」
「春雷!?」
そのまま春雷に手を引かれると、触れたところから青い電流が走る。
「きゃあ!」
「す、すまない……」
衝撃に驚いて悲鳴を上げると、春雷は謝罪と共にすぐに手を離してくれる。掴まれたところを押さえながら鏡を見ると、そこには今の華蓮と春雷が写っているだけだった。
「大丈夫。少し静電気に驚いただけだから」
「あれは静電気ではなく、君が『犬神使い』だという証なんだ。『犬神使い』は自分が使役している犬神や心を許しているあやかし以外に触れられると、ああやって身を守るために相手の妖力を弾こうとする」
「そうなんだ……。じゃあ今流れた電流が春雷の妖力なんだね」
「そうだ。最初に会った時も俺が腕を掴んだ途端に電流が流れただろう。あれも同じだ。あれがあったから、君が『犬神使い』だと気付けた訳だが……」
思えば、ここに連れて来られた時、雨の中、外に出ようとした華蓮を春雷が引き止めた際にも同じように青い電流が発生した。あの時も無意識のうちに春雷の妖力を弾き返そうとしたのだろう。さっき杖の代わりに掴まれと言われた時に何も無かったのは、春雷に気を許したからかもしれない。
「ごめん。『犬神使い』のことを何も知らなくて……」
「それはいいんだが……。それよりもあの鏡の中に何を見たんだ?」
「年老いた女性と年配の男性の親子だと思う。春雷によく似てた。知り合い?」
「睡蓮も見たのか……」
春雷は顔を歪めると、痛みを堪えるように自分の身体を押さえて黙ってしまう。やがて息を吐き出すと教えてくれたのだった。
「あの二人は俺の母親と父親違いの弟だ。どちらも人間だ……」
春雷の気持ちを表すかのように、外では雨が降り出したのだった。
縁側を見渡すが、タオルらしきものはどこにも無かった。雨が降り出すなら、どのみちタオルがあった方がいいだろう。水分補給に飲み物もあるといいかもしれない。
(タオルは洗面所か湯殿にあったかな? 飲み物は台所にあるよね)
ゆっくり腰を上げると縁側を歩き出す。これまで畑がある裏庭辺りは来たことが無かったので、物珍しそうに辺りを見ながら壁伝いに歩く。すると、とある部屋の前を通った時、暗がりで何かが光ったように見えたのだった。
「何だろう……」
華蓮は部屋の入り口から顔だけ出して暗闇に目を凝らす。そもそもここは何の部屋なのだろうか。
日当たりによるものなのか、室内は薄暗く、書き物机や衣料を入れている行李以外は何も置かれていなかった。
殺風景で、どこか寂しい部屋だった。
「気のせいかな。外からの明かりが反射しただけとか?」
そう思った矢先に、また部屋の暗闇から白い光が見えたかと思うと、今度は微かに声が聞こえてきたのだった。
『もう無理しちゃ駄目だよ……ただでさえ昔の傷が痛むんだから……』
『はいはい。分かってるよ。全く、口うるさい息子だね……』
「この声はあの光から聞こえてくるの……?」
華蓮は瞬きをすると、そっと室内に足を踏み入れる。勝手に入るのは良くないと思いつつも、引かれるように光に近づいて行ったのだった。
暗闇に目が慣れていくにつれて、光は割れた鏡から放たれていることに気付く。光の前に辿り着くと、その場に膝をついて、ところどころ欠けた鏡を覗き込む。
割れた鏡の中には杖をつきながら歩く年老いた女性と、老婆に手を貸す年配の男性が映っていた。
いかにも親子といった二人は、どちらも共に春雷と顔立ちがよく似ていたのだった。
(どうして春雷と似ているんだろう……)
そのままじっと鏡を見ていた華蓮だったが、何気なく鏡に触れようとしたところで、後ろから慌てた様子の春雷が駆け寄ってきたのであった。
「睡蓮!」
「春雷!?」
そのまま春雷に手を引かれると、触れたところから青い電流が走る。
「きゃあ!」
「す、すまない……」
衝撃に驚いて悲鳴を上げると、春雷は謝罪と共にすぐに手を離してくれる。掴まれたところを押さえながら鏡を見ると、そこには今の華蓮と春雷が写っているだけだった。
「大丈夫。少し静電気に驚いただけだから」
「あれは静電気ではなく、君が『犬神使い』だという証なんだ。『犬神使い』は自分が使役している犬神や心を許しているあやかし以外に触れられると、ああやって身を守るために相手の妖力を弾こうとする」
「そうなんだ……。じゃあ今流れた電流が春雷の妖力なんだね」
「そうだ。最初に会った時も俺が腕を掴んだ途端に電流が流れただろう。あれも同じだ。あれがあったから、君が『犬神使い』だと気付けた訳だが……」
思えば、ここに連れて来られた時、雨の中、外に出ようとした華蓮を春雷が引き止めた際にも同じように青い電流が発生した。あの時も無意識のうちに春雷の妖力を弾き返そうとしたのだろう。さっき杖の代わりに掴まれと言われた時に何も無かったのは、春雷に気を許したからかもしれない。
「ごめん。『犬神使い』のことを何も知らなくて……」
「それはいいんだが……。それよりもあの鏡の中に何を見たんだ?」
「年老いた女性と年配の男性の親子だと思う。春雷によく似てた。知り合い?」
「睡蓮も見たのか……」
春雷は顔を歪めると、痛みを堪えるように自分の身体を押さえて黙ってしまう。やがて息を吐き出すと教えてくれたのだった。
「あの二人は俺の母親と父親違いの弟だ。どちらも人間だ……」
春雷の気持ちを表すかのように、外では雨が降り出したのだった。
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