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5 俺はこうして捕まりました。
しおりを挟む「こいつ、いい加減にしろっ!死にたいのか!」
手枷で動きを封じられ、休みなく体に痛みを刻みこまれる。
もうここに来て何日経っただろうか・・・・
俺の生まれたリンゼン王国とここセイラ王国は今まさに戦争中だ。
リンゼン王国の鉱山を狙い、セイラの奴らが侵略戦争を仕掛けてきた。
奴らの狙っている鉱山はちょうどリンゼンとセイラの国境付近。
リンゼンも警戒はしていたが、第二王子がちょうど視察に訪れたところを狙われ、開戦してしまった。
殿下も視察と言いつつ婚約者に贈る宝石を掘りに行ったのが開戦のきっかけなんて、さぞ決まりが悪いだろう。
自分の手で掘ったサファイアを贈りたいとかロマンチックも大概にして欲しい。
悪い奴ではないが王族にしては少し短絡的すぎる。
俺は殿下を逃す時間を稼ぐために囮となり、セイラの奴らに捕まった。
本当は時間だけ稼いで逃れるつもりだったのに、「ルシエルだけ置いて逃げることなどできない!」などとぬかして、殿下が途中で戻ってきたせいだ。
あれは、今思い出してもイライラする。
宝石ごときのために俺は今死にかけているのかと思うと呆れてモノも言えない。
あー、今日の拷問はバレット将軍か。
セイラで唯一手強い将軍だ。
あの時もこいつさえいなければ退避は容易だった。
こいつの拷問は容赦ないからな。死んだらどうしよ。
ぼんやりとそんなことを考えていたが、与えられる痛みに思考は四散していく。
こういう時のために訓練は受けているが痛いものは痛い。
何度も意識を失い、その度に強制的に起こされ、また同じ質問をされる。
「第二王子はどこに隠れている!!」
あのまま鉱山はセイラ王国に占拠され、敵の手に掛かる前にある場所に殿下と部下を隠した。
この質問をされるってことは、リンゼンはまだ鉱山を奪還できていないらしい。
セイラの奴らは山中駆けずり回って第二王子を探していることだろう。
あと少し・・・・あと少し耐えれば、軍総司令が鉱山を奪還し、この宮殿に軍を送り込んでくるはず。
俺はそれまで耐えればいい・・・・
夕刻になり、奴は漸く武器を仕舞った。
クソなことにバレット将軍は本当に拷問がお上手らしい。
相手が死ぬ一歩手前をしっかり見極めている。
牢に戻され、朦朧とする意識の中、何とか呼吸を繰り返す。
息さえしていれば死ぬことはない。
腹は減っているのに、手も足も動かない。
霞む視界の中、床に転がるびしょ濡れのパンを眺めていると、自分が起きているか眠っているのかさえ分からなくなる。
夢現(ゆめうつつ)の中、誰かの手に頬を包まれた気がした。口を柔らかいもので覆われ、何かを喉奥へと流し込まれる。抗う気力もなくされるがまま飲み込んでいく。
次に意識が浮上したのは、牢の外の怒鳴り声を聞いた時だ。
「いないっ!?どこに行きやがった!!」
叫びにも近いその怒鳴り声で、ここがどこだか思い出す。何だかいい夢でも見てた気分だ。
足音が遠ざかると、体の左側に感じていた重みと熱がスッと離れた。
それから牢屋の扉が消えて、見えたころにはまたガチャリと鍵が閉まっている。
誰もいないのにパタパタという足音だけが遠ざかっていった。
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