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夫婦生活初日
しおりを挟む家に置いてきた女のことが気にかかり、その日は定刻で家に帰ることにする。
俺が着替えるため更衣室に向かっていると、帰ることが分かったのか後ろの部下どもが小躍りを始めた。
バレてないと思ってるバカどもに向かって背中越しに、腕立て100回を命じる。
確か家には食い物がなかったはずだ。
早く帰らねば腹を空かしていることだろう。
帰り道に少し遠回りして、出店の連なる道を歩く。
ステーキ串をいくつかとパンを買って帰ることにした。
「おっかえりー」
「…………掃除したのか。」
「そう!めっちゃ綺麗になったっしょ?
お風呂も沸かしたから入れるよ!」
床や椅子に散乱していた服は綺麗さっぱりなくなっており、シンクに山積みにされていた食器はきれいに棚に収まっていた。
まともに見えるようになった床は綺麗に磨かれており、塵の一つも落ちていない。
「…………そうか。助かる。」
どうしても物言いが素気なくなってしまうため、女たちには見た目と相まって嫌厭される。
が、なぜかこの女は俺が礼とも言えないような礼をした途端、目を輝かせた。
「~っ‼︎うちのダー、めっちゃキャワワなんだけど★」
「おい、分かる言葉で話せ。」
「あたしの旦那様は素直で可愛いってこと★
そんなことよりこの家食べるもの全然なかったんだけど、お夕飯どする⁇」
「…………はぁ、真剣に聞くだけ無駄だな。
夕飯は買ってきた。」
パンと肉串の入った袋を渡すと、「お肉大好きー❤️」
と嬉しそうにキッチンに向かった。
部族の紋様のせいで表情が読めないため、声音で嬉しそうと判断しただけなのだが。
女が温め直した肉串とオーブンで表面だけ少し焼いたパン、それにどこから見つけたのかオリーブオイルも小鉢にいれてテーブルにセットされた。
「いっただきまーす!」
机の真ん中にドンと置かれたパンの籠に手を伸ばす女の腕を咄嗟に掴んだ。
「おいっ、あの凶悪な爪はどうした⁉︎剥がされたのかっ⁉︎」
ギラギラと目立つ爪がなくなっていることに驚いて急いで確認すると、そこには小ぶりだが形のいい爪が問題なくついていた。
「っ‼︎びっくりしたな、もう~。
掃除の邪魔だったからネイルチップ取ったの‼︎
あたしの行ってる専門学校ネイル禁止だし、バイトも居酒屋だったから休みの日だけネイルチップつけてんの。」
女は「ほら、何ともないでしょ」
と言って、両手を広げて爪をひらひらを見せてくる。
ほとんど何を言ってるかは分からなかったが、取り敢えず怪我をしたわけではないらしい。
「ヤバっ、このパンめっちゃ美味しいんだけど。
パリふわじゃん。
あっ、あとさー名前なんていうの?
あたしなんて呼べばいい??
ちな、あたしは山辺椿(やまべつばき)て言うの。
ツバっちゃんとかでいーよ。」
パンをパリパリ言わせながら、女は矢継ぎ早に話しかけてくる。
「……アレクシス•ランゲだ。」
「オケ丸◎アッくんね。」
「その呼び方で呼んだら殺すぞ。」
全然オッケーではない珍妙な呼び方を採用され、地響きのような低い声が出る。
「もー、アッくん怖いから~w。
あっ、このお肉も激ウマっ★
この世界って食べ物当たり系?」
「…………ところで、お前は聖女と同じ世界から来たのか?見た目がだいぶ異なるが部族が違うのか?」
少しキョトンとしたあと、真っ黒に染まった目の周りが歪に歪み、口から白い歯が顔を覗かせる。
なんだこの表情は……もしや笑ってるのか?
「同じ場所から来たし!まぁ、多分向こうはハーフだけど、あたしは生粋の日本人だから部族(笑)が違うっちゃ違うのかな。あたしのこれはメイクだけどね。」
「……お前の言葉はよく分からん。
お前は急に異世界から連れてこられたというのになぜそんな冷静で居られる。」
「えー?だってパニクったところで変わらんし。
まぁ、でも檻に入れられてたら?さすがにぴえん通り越してぱおんだったかもw。
なぜ冷静かって聞かれたらアッくんがいてくれるから……かな?
アッくんあたしのこと助けてくれたし、今も家に連れて帰ってくれたし。まぢありがとね★」
「……別にお前だから助けたわけではない。
俺は俺の騎士道に背くような行動はしないというだけだ。」
何やら話がむず痒い方向に向かってきたので、早々に食事を終わらせる。
これ以上はダメだ。良くも悪くもこの女は感情を素直に表現しすぎる。
「風呂に入って寝る。」と言い放ち早々に風呂場に向かうと、まだ肉串を齧っていた女の「ちゃんとあったまってねぇ」という呑気な声が後ろから追いかけてきた。
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