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これにておしまい
しおりを挟む氷河竜の引っ越しが終わるとすぐ王宮の使いから「参上するように」との通達があった。
「椿、お前は家で待ってろ。」
「あたしも行くよ。勝手にあれやっちゃったし、一緒に怒られようよ。」
そう言って椿はカラカラ笑う。
こいつのこう言うところに俺は惚れたんだなと椿の笑顔を見て思った。
「おいっ、貴様‼︎一体どういうことだ‼︎」
王宮に着くと顔を真っ赤にしたレオーンが勢い付いてこちらに向かってきた。
「どういうこととは?」
「しらばっくれるなっ‼︎その女が本当の聖女なんだろ‼︎なぜ黙っていた‼︎」
「聞かれなかったから言わなかったまでだ。そっちが勝手に勘違いしたんだろう。」
冷静に返すもレオーンはますますヒートアップして声を荒げてくる。
正直五月蝿い。
この男は聖女から授けられる能力が何かも分からず、高台でそれが発揮されるのをただ突っ立って待っていたらしい。
ウケる。
「レオーンもランゲもそこまでにせい。ランゲよ、氷河竜について状況報告せい。」
ご立派な扉から臣下を連れて現れたのは国王だ。
敬う気持ちなど皆無だが一応礼の姿勢を取る。
「我が団にて氷の塊は退け、氷河竜は北泉湖に移動を完了しました。家屋の一部破損が3軒ほどありましたが、人的被害はありません。」
「国王‼︎こいつは我らを謀ったのですよ⁉︎罰を与えるべきだ‼︎それに本当の聖女を王宮で保護しなければ‼︎聖女は国の財産だ‼︎こんな奴に預けておくわけにはいかない。」
未だ興奮醒めやらぬレオーンがこちらを指差しながら唾を飛ばす。
「……ランゲについては氷河竜を退けたのだ。罰を与える必要はあるまい。だが、聖女の力は我らの国力強化のために今後も利用できるだろう。聖女殿よ、どうだ?王宮に来れば贅沢な暮らしができるぞ?我らに協力してはもらえまいか?」
国王の視線が椿に向かう。上から下へと舐めるような視線に心が急速に冷えていくのが分かった。
誰の嫁に向かって色目使ってんだクソジジイ。
「えっ?嫌ですけど。だってあたしのこと牢屋に入れろって言ってたの王様たちなんですよね?絶対嫌なんだけど。それにあたしアッ、アレクの妻だし。
氷河竜は例外的にしょうがなかったけど、それ以外でアッくん以外となんてあり得ないから。」
国王の視線から逃げるように俺の腕に縋り付く椿の腰を引き寄せる。
不快な視線から隠すように腕に囲う。
「そういうことです。無理に引き立てようとするなら我々はこの国を出る。そうだなぁ……ルクル王国なんてよさそうだ。あそこの王は俺のことを高くかってくれてるから、きっと喜んで受け入れてくれるだろう」
これを聞いて国王の顔はサッと青褪める。
ルクル王国とこの国は昔から仲が悪い。
俺が向こうの国に行けば力の均衡が崩れるため、ルクル国王は嬉々としてこの国の侵略に乗り出すだろう。
「わ、悪かった。さっきのことは取り消す。
そ、そうだ……‼︎報償を出そう。宝物と金貨をどっさりと出すぞ。も、もちろんランゲ騎士団の団員たちにも。あと装備も最新のものを支給する。な?だからその……これからもこの国をどうかよろしく頼む。」
冷や汗を拭いながら、こちらの顔色を伺ってくる国王を冷めた目で見下ろす。
「…………そういうことでしたら、謹んでお受けします。」
そう言うと、国王はあからさまにホッとした様子で表情を緩めた。
「ついでに休みもください。結婚したと言うのに旅行にも行けていないもので。」
「勿論だとも‼︎あの……できれば国内で……りょ、旅費は王宮が負担しよう。」
「考えておきます。
これ以上用がなければこれで失礼します。正式な報告は後日報告書を持って参ります。」
「あ、あぁ……」
未だ歯噛みするレオーン、冷や汗を垂れ流す国王を横目に踵を返し出口へ向かう。
横では「旅行?めっちゃ楽しみ★」とはしゃぐ椿。
ほんとこいつは肝が据わってる。
先ほどの広間から出て廊下を誰もいない廊下を二人で歩く……
「ねぇねぇ、旅行行けるの?どこ行く?すっごい楽しみ。温泉とかいいよね‼︎」
椿は今にもスキップし出しそうな勢いだ。
「……王都から西に1時間ほど行ったところに氷の教会がある。デカい氷を彫って作った教会でこの国の若い女たちはそこで結婚式を挙げるのに憧れてると聞いた……。」
「……アッくん、もしかしてそこで結婚式しない?って誘ってる?」
「…………嫌ならいい。」
くそっ‼︎なんで俺がこんな小っ恥ずかしいこと……。
だが、なぁなぁで書面上だけの結婚をして、右も左も分からない異世界で文句も言わず俺を支えてくれた椿にどうしても何かしてやりたかった。
結婚式は女の夢が詰まっていると副官のアスランから聞いてからずっと考えていたことだ。
何も返事をしない椿の様子が気になって横目で伺うと、花をふわふわさせたような顔が全力で「幸せです」と物語っていた。
「する。するするする‼︎絶対する‼︎アッくんと結婚式絶対するーーー‼︎」
とうとうスキップしだして、飛び跳ねる椿に思わず笑ってしまった。
そのうち転けるだろう可愛い嫁の首根っこ捕まえて、横を歩かせる。
「それじゃあ明日、宝石を取りに行くついでにドレスも見に行くか」
「宝石……?」
「お前気にしてただろ?『アッくんがあの子に宝石プレゼントしたぁ~えーん』って」
「そ、そんな声出してないしっ。えーんとか言ってない。」
「ふっ、出してた。笑
俺が一言でもあの女にプレゼントするなんて言ってたか?」
「えっ?うーん、確かに言ってはなかったかも?」
「全部お前にやるよ。」
「えっ!?あたしにくれるためにエメラルドの宝石全部買ったの?」
「あの女がエメラルドの宝飾品身につけてたら、お前疑ってやきもち妬きそうだからな。」
「…………否めない。」
椿が歩みを止めたため、俺も足を止めた。
椿に向き合うと、まぁ……そういう顔してた。
「アッくん……」
「ん?」
「大好き。愛してる。」
「俺も……椿愛してる。」
潤んだ黒曜の瞳を見つめながら顔を近づけるとゆっくりと目を閉じる。
柔らかい柔らかい熟れた果実のような唇を思う存分味わう。
薄く目を開けると、椿も薄ら瞳を覗かせて嬉しそうに目尻が下がった。
「続きは家に帰ってからな。」
「アッくんは最後までエッチだなぁ。」
「嫌いじゃねぇだろ?」
「大好き。」
指を絡ませて、愛すべき我が家に向かって歩き始めた………………。
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