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氷河竜大作戦
しおりを挟む氷河竜が飛び立った衝撃で地面がグラグラと揺れる。
部下たちと共に飛馬である相棒のボスに乗って飛び立ち、計画していた場所に待機する。
念のため魔力が不足したときのことも考えて椿を後ろに乗せているが、特に緊張した様子もなくいつもの調子で「空暗っ」などと呟いている。
「来たぞ。」
まだ真昼間だと言うのに、雲に覆われた空は薄暗く、嫌でも異常な事態を認識させられる。
まだ山の上を飛んでいる氷河竜はぼたぼたとでかい氷の塊を落としながらこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
市街地に入ってくるときが勝負だ。
段々大きくなる氷河竜の影に意識を集中させると、より一層雲が厚くなり、ゴロゴロと時折雲の合間から稲光りが走る。
「総員、迎撃準備!」
副官のアスランが声を張り上げるといよいよ目の前まで氷河竜が迫る。
一気に頭上が氷河竜の影に覆われ、辺り一面が暗闇に飲まれた。
事前に聞いていたとは言えあまりの大きさに周りの団員たちは呆然と空を見上げている。
氷河竜に目を奪われ、目前に氷の塊が迫ってくるまで動けない団員までいた。
空に振り上げた腕を思いっきり引き、幾重もの稲妻を放つ。
バリバリというけたたましい音をそこら中でかき鳴らし、10mほどの氷の塊を団員の鼻先で細かい粒へと粉砕した。
「ローアン、気抜いてんじゃねぇ。砕ききれなかった氷はお前らがしっかり燃やせ。」
迫り来る幾重もの氷の塊から目を離すことなく、そう告げると、ハッとしたように部下の一人であるローアンが漸く動き出す。
こいつは言われた命令は忠実にこなす真面目さが売りだが、不足の事態には頭の中で静かにパニクってることが多い。
今回もその悪い癖が出た。
これが終わったら鍛え直しだな。
一つも取りこぼすことなく氷を砕き、氷河竜の飛行速度に合わせながら移動をしていく。
あまりにも遅かったりついていけないほど速かったらどうしようかと思ったが、飛馬の飛行速度で十分追える。
落とす氷の数も思っていたより少ないし、1時間ほどすると団員たちの動きもかなり良くなっていた。
この調子で行けば、あと2時間半ほどで北泉湖山に到着するだろう。
心配していた魔力切れも大丈夫そうだ。
背中に引っ付いている椿から続々と魔力が送られてくるし、ぽかぽかと体温が伝わってきて温かい。
この温もりを感じているだけで、絶対失敗しないという自信と勇気が湧いてくる。
また1時間ほどすると王都の上まで来た。
高台の上に立っていたレオーンをチラ見するとアホ面で口をポカンと開けてこちらを見ていた。
この作戦は奴らには伝えてなかったので、統制の取れた動きとありえない魔力量で氷の塊を処理していく俺らを見てさぞや驚いていることだろう。
だが、構ってやってる暇もないのでバリバリゴロゴロと空から雷をひっきりなしに落としながら、早々に王都も抜けた。
「王都抜けたっ‼︎あと半分くらいだよ‼︎頑張って‼︎ボスも頑張れー‼︎」
「おう‼︎」
後ろから椿が檄を飛ばす。ぎゅっと腕に力を入れて抱きついてくるのに応えるように、より一層魔力を稲妻に込めた。
相棒のボスも答えるかのように「ヒヒーン」と嘶き、速度を上げる。
最後の村の上を通過し終わると、団員たちから一斉に歓声が上がる。
氷河竜は無事北泉湖山の霧の中に消え、引っ越しを完了した。
団員たちが騒ぐ中で、椿も興奮したように背中をバシバシ叩いてくる。
「アッくんめっちゃかっこよかった!!ほんと大好き♡」
「「……アッくん?」」
野太い野郎どもの声の中にあっても想像以上に響いた椿の声に他の団員たちがすかさず反応する。
椿はしまったという顔をしてそっぽ向いて誤魔化していた。
「…………おい。」
「あーやば。今のなし。」
ザワザワとそこら中から「アッくん……」「アッくん?」と言う声が聞こえた。
「……椿、」
「……あい。」
「帰ったらお仕置きな?」
「………………あい。」
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