使い魔を召喚したら魔王がきた

まよちん

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 ミチカは目の前でくり広げられる痴態に驚き、言葉を失った。

「んっ、んちゅ、んむぅ‪……‬っ」

 巻毛のショートヘアの女が、小ぶりな尻をこちらに突き出してせっせと男に奉仕していた。
 その男とは、ミチカの婚約者である。
 大きな窓から差し込む陽光が、ふたりのあられもない裸体をすみずみまで暴くように照らし、淫靡な性の気配にむせ返りそうになる。

 淫らな奉仕を受けるブロンドの甘やかな美形——ミチカの婚約者レダラスは、彼女の突然の訪問に驚いたように顔を上げた。

「おや、ミチカじゃないか。どうしたんだい? 今日来るなんて‬知らなかったよ」

 驚いたといっても、焦ったり慌てているわけではない。知っていればお茶でも用意して待っていたのに、といった程度の驚きである。右手はしっかりと自らの怒張に添えられていた。

「取り込んでいて悪いね。今すぐに終わらせるから‪、そのへんに座って待っていてくれ‪……‬ッはぁ、ヤエル‪……‬‬あぁ、そう、口を開けて、そうだ、奥まで‪だ……‬」
「んぐぅっ!? んぐ、ぅんンン~ッ!」
「ふっ‪……‬! ハァッ‪……‬」

 まるで性交するかのような動きで女の口を犯す婚約者を見ながら、ミチカはそばにあったソファに崩れ落ちるように座った。
 ヤエルと呼ばれた女は喉を突かれ、苦しそうに喘ぎながらも時折漏らす声には紛れもない悦びが滲んでいる。表情まではよく見えないが、淫らにとろけた顔が容易に想像できた。

「んっんぅ、えぐっ、んちゅ‪……‬えぅ……ぇろ」

 時折見える赤黒いペニスに見入っていたミチカは、はっと思い出したように問うてみる。

「レダラスさま‪。これは、浮気‪……‬というものではないのでしょうか?」
「んくっ、ちゅぅっ、んじゅるるっ」
「浮気? 浮気なわけがないだろう、ミチカ‪。きみがいるのにッ。あぁっ、なぜならこれはね‪……‬はぁ、イイッ、あぁ、ヤエル、出そうだ‪……‬ッ出すぞッ」

 くっ、と低い呻きとともにレダラスは押さえつけたヤエルの喉奥で射精した。
 んくっんくっと、けなげに一滴もこぼさず飲みほしたヤエルの頭を撫でてやりながら息を整えると、昨日までと同じ、さわやかな笑顔をミチカに向けた。

「なぜなら、これはぼくの使い魔だからね」
「使い魔、ですか‪……‬」
「そう。使い魔だ。こうして性的な行いを通して魔素を与えてやらなければ、この子たちはこの世界で生きていけない。この使い魔は亡き父から譲られた子でね‪。当然息子のぼくが世話をする。だから安心してくれ、ミチカ。これは浮気ではない」

「浮気ではない」

 思わずオウム返しするミチカに大きく頷いてみせた。

「そうだ。浮気ではない」



 使い魔は異なる世界から召喚される。
 契約を交わせば魔素——人間の気に含まれる特殊なエネルギーで使い魔の魔力源になる——と引き換えに主人に忠誠を近い、危機が訪れれば命に替えても身を守ってくれるらしい‪……‬ということはミチカも知っていた。

 しかし、魔物の襲来や他国との争いが絶えなかった時代はそうであったにしても、平和になった現在ではその本来の意味は薄れつつある。
 見目麗しい使い魔を従えることが裕福な貴族の象徴となり、愛玩やファッションを目的とした使役が増えた。しかし使い魔のほうも嫌ならば契約を断ることもできるため、合意に基づく使役ならば倫理的にはなんら問題はない。
 問題はないのだが。

 射精したにも関わらず、すぐにまた勢いを取り戻しつつある婚約者のペニスを愕然とした気持ちで見つめながら、ミチカは立ち上がった。

「‪……‬わたくし、今日はこれで失礼いたします‪」
「ミチカ? どうした? 何か用があったのでは」
「ええ、今日、わたくしは十八の誕生日を迎えました。ですので、レダラスさまと性交をしてくるように‪……‬と父に命じられ参じましたが、申し訳ありません。今日はこれで」

 感情のこもらない声でそう告げると、ミチカはくるりと踵を返した。
 後ろで今度こそ慌てたようにレダラスが何か言っていたが、振り返ることもせず、足早に屋敷を後にした。



(なんということなの……信じられません‪……‬‪)

 馬車の中で息が整うのを待って、ようやく冷静になった頭でミチカは考えた。
 いや、どんなに時間がたとうと冷静になど考えられるはずはなかった。
 いまだ残酷な現実に打ちのめされている。
 目に、脳に焼きついて離れないあの光景。
 婚約者、レダラスの——

(チンポ‪!‬! あれが現実のチンポだというの‪!?)

 先端は張り出て、竿は太く赤黒くはち切れんばかりに膨らんで、血管が浮き出たそれはあまりにもグロテスクで受け入れ難いものだった。

 衝撃だったのは、レダラスに使い魔がいたことでも魔素の与え方でもなかった。
 彼の甘く整った容貌からは想像もできない、おそろしい見た目をした雄の象徴、ペニスそのものだった。

(思っていたのと全然違います‪……‬。つるんと可愛い突起を想像していましたのに、なんなんですかあれは‪……‬? この世のものでしょうか? あんなのは無理です。色もかたちも、とにかく無理です。触りたくも、挿れたくもありません! ああ、手遅れになる前に分かって良かった‪……‬)

 もし何も知らないまま彼と性交に及んでいたら、と思うと恐ろしくて震えが止まらなかった。
 使い魔がいてくれて良かった、と心底思うミチカだった。
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