バッティングハンター

いんじんリュウキ

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第1章 卒業後の進路

ダンジョンにて一泊

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「夜になってんじゃん」

 ダンジョンを出ると、外はすっかり日が暮れていた。

「え、そんなに時間経ってたんですか?」

 驚くタフィとボイヤーに対し、カリンは慣れているので驚きもせず普通にしている。

「ダンジョンは明るさとかの変化がないから、時間の経過がわからなくなるのよね。それより、今日はここをキャンプ地とするから、あんたたちは枝拾ってきて」

 カリンはダンジョンの入り口付近で一泊することを決めた。

「キャンプって、ただの野宿じゃん」

「うるさいねぇ。“野宿”って言ったら味気ないでしょ。うちは少しでも楽しい気分になるように、あえて“キャンプ”って言葉を使ってるの。ほら、わかったらさっさと“キャンプファイヤー”で使う枝を拾ってきなさい」

「はいはい。ボイヤー、“たき火”で使う枝を拾いに行くぞ」

 タフィはわざとらしく言い直した。

「はい……」

 ボイヤーはカリンの様子を気にしながら、タフィと一緒に枝拾いへ向かった。

「ったく生意気なんだから……」

 カリンは愚痴をこぼしつつ、石などをどかして寝床の準備を始めた。

 タフィたちが戻ってきたのは、それから30分後のことだ。

「どうだ、これだけあれば十分だろう」

 タフィとボイヤーは、落ちそうなぐらい大量の枝を両脇に抱えていた。

「サンキュー。じゃ、そこ置いて」

「はいよ」

 カリンは乱雑に置かれた枝の山から何本か取ると、それを適当に組んだ。

「ボイヤー、ちょっと火つけて」

「はい」

 ボイヤーは弱めのファイヤーボールで枝に火をつけた。

「うん、いい感じいい感じ」

「なぁなぁ、夕飯は?」

 タフィのお腹からは盛んに空腹の合図が発せられている。

「干し肉と干し芋、それに焼きキノコ。量はそんなにないから、よぉく噛んで食べるんだよ」

「何、噛むと量が増えんの?」

「増えないよ。けど、よく噛んで食べるとお腹いっぱいになるんだって。はい、これあんたの分」

 カリンは大きな葉っぱの上に、10センチくらいの長さの干し肉と干し芋を一枚ずつ、焦げ目のついた白いキノコを一つ置いた。

「いただきます。……かってぇ」

 タフィは干し肉を口に入れたが、歯だけでは噛み切ることができず、手で強く引っ張ることでなんとか噛み切った。

「これさぁ、言われなくてもよく噛まなきゃ食えねえよ」

 干し肉は噛みごたえ十分だ。

「あの……カリン姉さん、これなんていうキノコなんですか?」

「これ? これは、アシキザラタケ」

 アシキザラタケは、カサの直径が5センチくらいの白いキノコで、カサの表面にはイボが無数についている。柄の部分は太く、また名前のとおり、根元に近づくにつれて黄色く染まっていく。食用ではあるが、それほどおいしいキノコではない。

「……おいしくないです」

 ボイヤーは渋い顔をしている。

「そうなのよ、これは食べれるってだけでおいしくないの。だから、これは量をカバーするためだけに置いたの」

 そう笑いながら話すカリンの葉っぱには、キノコは置かれていなかった。

「え? このキノコうまいじゃん」

 おいしそうにキノコをほおばるタフィを見て、カリンはポツリとつぶやく。

「確かに、これは幸福な舌だわ」

「ん、なんか言った?」

「なんでもない。それより、これがバラ姫が欲しがった包丁なのね」

 カリンは木箱から包丁を取り出し、様々な角度からまじまじと見た。

「なんとなくだけど、良い包丁だってわかるわね」

 刃の部分は美しく仕上げられており、柄の部分も良い木が使われている感じがした。

「石の中に入ってましたけど、どうやって隠したんでしょうか?」

 ボイヤーは見つけた時からずっと、そのことを疑問に思っていた。

「うーん、たぶん偶然よね。あの辺に木箱を埋めておいたら、同化して石柱と一緒に生えてきちゃったって感じじゃないの」

「なるほど」

「ところで、あの石柱ってなんなの?」

 干し芋を噛みながらタフィが聞いた。

「石柱? ボイヤー、説明してやりな」

 カリンは質問を受け取ることなくそのままパスした。

「あれは人間でいえば、イボや腫瘍みたいなものです」

「へぇ、イボができるなんて、やっぱダンジョンは生き物なんだねぇ」

 タフィはダンジョンの奥の方へ視線を向けながら、ごくんと干し芋を飲み込んだ。
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