バッティングハンター

いんじんリュウキ

文字の大きさ
34 / 48
第2章 卒業試験

キャットダンジョン探索中

しおりを挟む
 翌日、タフィたちは朝一からキャットダンジョンで大暴れしていた。

「おらぁ!」

 タフィが相対しているのは、猫耳を付けたヒトツメイワのトリオ。かわいいというより、どこか間の抜けた姿をしているものの、放たれる魔法の威力はヴァーベンダンジョンで戦ったものよりも数段上で、耐久力もそれに準じて向上している。

 が、そんなことはタフィには関係なく、戦闘向けに少し改良されたバッティングによって、容赦なく魔法攻撃を打ち返されていた。

「くらえー!」

 ボイヤーは天井ギリギリまで飛び上がると、猫の手になったウデエンバン目掛け、落下する勢いを利用しながらファイヤーボールを叩き込み、見事ウデエンバンを撃破した。

「あ、魔石が出てきた」

 倒されたウデエンバンの中に魔石があるのを見て、カリンはすぐにそれを回収する。

「……うーん、これはあんまりかわいくないね」

 出てきたのは猫耳のような形をした明るい青色の魔石で、大きさは10センチほど。

「本当になんでも猫の形をしてるんだな」

 ヒトツメイワとの戦闘を終えたタフィが、カリンのところへやって来た。

「あ、タフィちょうどいいところに。あそこに魔石があるんだけど、ちょっと打って落としてくれない?」

 カリンは、壁の上部にある岩から顔を出した赤褐色の魔石を指差した。

「……あぁ、あれか。わかった」

「じゃあ、うちが合図したら打って」

 カリンは魔石を受け取れるように岩の下へと移動する。

「いいよぉ」

「よーし、それっ」

 タフィはその辺に落ちていた手ごろな石を手に取り、岩目掛けて打ち込んだ。

「ナーイス」

 カリンは岩が落下してくるのを確認するや、即座に捕球体勢に入って見事にキャッチ。そしてそれを地面にそっと置くと、槍を使って魔石の周りに付いた岩を丁寧に削ぎ落した。

「肉球かぁ」

 岩の中にあったのは猫の足裏の形をした青色の小ぶりな魔石だ。

「……なぁ、魔石ってなんなの?」

 タフィは魔石を見つめながら不意にそんなことを聞いてきた。

「どうしたの急に?」

「いや、なんとなく気になってさ。これ、ダンジョンにとってなんなの?」

「なんなのって……あ、真珠よ真珠、真珠みたいなもん」

 カリンはタフィと比べてかなり雑な説明で済まそうとした。

「なるほど真珠かぁ……あ、なんか変なのが出てきた」

 地中から突如出現したのは剣のような形をした岩のモンスターで、その大きさはおよそ2.5メートル。柄の部分からは、まったく似合っていない猫のしっぽがニュッと生えていた。

「あれはイワツルギね。見てのとおり剣の形をした岩のモンスターで、剣を突き刺すように飛んでくるのよ」

「飛んでくるのか。だったらここで構えてればいいな。おーいツルギ野郎っ、かかってこーい!」

 タフィはイワツルギに向かって挑発するように大声で叫んだ。

 するとその声に呼応するかのようにイワツルギはぴょーんと飛び上がるや、そこから切っ先をタフィへ向けて勢いよく突っ込んできた。

「どおりゃあああ!」

 タフィは迫ってくる巨大な剣に対して全くひるむことなくバットを振り、そのまま力負けすることなく豪快に振り抜いて相手の体を粉砕した。

「うぉし! ……なぁ、今のやつってどんくらいの強さなの?」

「ギルド基準だとイワツルギのランクはデ……いや、Eランクね」

 慢心させないためか、カリンは実際より1ランク下の値をタフィに告げた。

 なお、モンスターなどの強さを示すランクは冒険者ギルドが独自に定めているもので、FからSまでの7段階がある。

 定められた目的は依頼の難易度や報酬額を査定するためで、鍛え抜かれた熟練のギルド職員が実際に戦ってランクを決定していた。

「ふーん、そんなもんか。じゃあ、ボイヤーが戦ってるやつはどんくらいなの?」

 ヒトツメイワを倒したボイヤーは、そのまま猫の形をしたスライムとの戦闘に突入していた。

「キャットスライムはEランクね」

「それって普通のスライムより上なの?」

「上ね。あれは普通のやつと違って、素早く動いたり魔法を放ったりするから」

「やっぱ上か……あ、倒した」

 ボイヤーは猫同様の素早い動きに多少翻弄されたが、最後は炎を手にまとわせた状態で放つ強力な掌打をおみまいし、一撃でスライムを消し飛ばした。

「良い一撃だったわ。猫好きが見たら確実に悲鳴をあげるくらいにね」

 カリンは戻ってきたボイヤーを軽くからかった。

「だって姉さん言ったじゃないですか、ここでは見た目を気にしちゃダメだって」

「だから褒めてんじゃない。猫好きが悲鳴をあげるくらいに良い攻撃だったって」

「褒めるならもっとストレートに褒めてくださいよ」

「はいはい。それで、魔石は手に入ったの?」

「スライムはなかったですけど、ヒトツメイワからこれが出てきました」

 ボイヤーが手に入れたのは、丸くなって眠っている猫の形をした、手のひらサイズの赤い魔石。

「どれどれ」

 カリンは魔石を手に取ってまじまじと見た。

「うーん、悪くないんだけど、大きさとか表情がちょっと物足んないなぁ」

「そうですか」

「じゃ、引き続き魔石を探していきましょう」

 この後、3人は1日中ダンジョンに籠って魔石を探していたが、コーツが喜びそうなものを見つけることはできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...