バッティングハンター

いんじんリュウキ

文字の大きさ
43 / 48
第2章 卒業試験

会いに行ったり会いに来たり

しおりを挟む
(ナルホド、ソレデココヘ来タノカ)

 タフィたちが頼ったのは、おそらく誰よりもアレロパシーに詳しいであろうマレッドだった。

「なんとかなりますか?」

(マァ、待テ。確カニオ前ノ話ヲ聞ク限リデハ、ササノハアワダチソウガ原因ダト思ウガ、断定マデハデキナイナ。ナンカ葉ッパトカハ持ッテキテナイノカ?)

「あ、あります」

 ボイヤーは2本目のニジイロソウから採取した葉っぱを、マレッドに向かって掲げて見せた。

(ドレドレ……アァ、コレハアイツノ毒ニ間違イナイナ)

 葉っぱを見るなりマレッドは断言した。

「じゃあ、断定できたところで改めて聞きますけど、なんとかなりますか?」

(ナルナ)

「本当ですか!」

(サスガニスグニ元ドオリトイウワケニハイカナイガ、ワタシノ力ヲ持ッテスレバ、花畑ヲ復活サセルコトハ十分可能ダ。タダ、ソレニハオ前ラノ助ケガ不可欠ダガナ)

「何したらいいの?」

 タフィが食い気味に聞いた。

(ワタシハココカラ動クコトガデキナイカラ、代ワリニ枝ヲ持ッテイッテ接ギ木ヲシテ欲シインダ)

「わかった。枝を持ってって向こうで植えりゃいいんだな」

(バカッ、接ギ木ダッテ言ッタロ。ナンデ植エンダヨ)

「兄やん、接ぎ木っていうのは、木の枝とかを別の木にくっつけて一緒にさせちゃうやり方のことです」

 ボイヤーは慌ててタフィに説明する。

「へぇ~、知らんかったな。カリンは知ってた?」

「ざっくりとはね」

(……ボイヤー、オ前ハ当然ヤリ方ヲ知ッテルダロ。ダカラ、オ前ガ責任持ッテ接ギ木ヲヤレ)

 マレッドはボイヤーに厳命した。

「わかりました。それで、台木は何にしたらいいですか?」

 台木とは接ぎ木される側の木のことで、一般的に接ぎ木する木と同属か、もしくは近縁のものを選ぶことが多い。

(台木ハナンデモイイ。キチント密着サエデキレバ、ドンナ木ダロウト接ギ木デキル。他ニ聞キタイコトハアルカ?)

 要点をとらえた質問をされたマレッドは、満足した様子で返答した。

「大丈夫です」

(ナラ、枝ヲ落トスカラチョットコッチニ来イ)

 言われたとおりボイヤーがマレッドの真下へ行くと、ガサガサッと木が揺れて枝が1本落ちてきた。

「おっとっと」

 ボイヤーはしっかりと枝をキャッチする。

(ジャ、シッカリ接ギ木シテ来イヨ)

 3人はマレッドの枝を手に、再びニジイロソウの群生地へと向かっていった。



「待っていたぞ。平民のタフィ・カルドーゾ」

 ヴァネティ村へと向かう道中、タフィたちはアポロスと遭遇した。

「またあいつか……」

 タフィは顔をしかめる。

「そろそろ出てくるんじゃないかなぁって思ってたのよねぇ」

 カリンはからかうような口調でタフィに言った。

「じじいが喜ぶものは見つかったのか?」

 アポロスは大声で叫びながらタフィとの距離を詰めていく。

「見つかったよ」

 タフィは嫌そうに返事をする。

「そうか、そいつは良かったな」

「え?」

 てっきり「寄越せ!」と言ってくるものと思っていたタフィは、アポロスの反応を見てびっくりした。

「労いの品ってわけじゃないが、今日はお前のためにいいものを用意した。おいっ」

 アポロスは一旦立ち止まると、隣にいる男性従者に指示を出した

「はい」

 男性従者は手に持っていたきれいな柄の箱を開け、中身が見えるように少し傾かせた。

「これはカステラというお菓子だ。甘くてうまいから食べてみろ」

 アポロスはタフィに向かって手招きする。

「じゃあ食ってみるか」

 カステラからは甘い香りとともに怪しいにおいがプンプンと漂っていたが、タフィは迷うことなく食べることを決め、カリンとボイヤーも特にそれを止めようとはしなかった。

「うまそうだな、本当に食っていいのか?」

「いいから、食え食え」

「じゃあ、遠慮なくもらうぞ」

 タフィはカステラを1切れ掴むと、ためらいなく食べ始める。

「うまいなこれ。もう1個もらっていいか?」

 タフィはあっという間に1切れ食べ終え、2切れ目に手を伸ばそうとした。
「ああ、好きなだけ食え」

 タフィは2切れ目もおいしそうに食べているが、一方でアポロスの顔には徐々に当惑の色が見え始めていた。

「……お前、なんともないのか?」

 我慢できなくなったのか、アポロスは直球ともいえる質問をタフィにぶつけた。

「別になんともねぇけど……あ、もしかしてお前これになんか入れた?」

「いや、全然何も入れてねぇよ。さ、どんどん食ってくれ」

 アポロスは全力で否定すると、意見を求めるように男性従者の顔を見たが、男性従者は無言で首をかしげるだけだった。

 そしてタフィが3切れ目のカステラに手を伸ばしたところで、アポロスもカステラに手を伸ばした。

「おっかしいなぁ……」

 アポロスは首をかしげながら食べ始め、3口目を口に入れたところで異変が生じる。

「あ……しびれてきた……入れ忘れじゃなかった……」

 アポロスは苦悶の表情を浮かべながら倒れてしまった。

「やっぱなんか入れてやがったな。けど、俺にはそんなもの通用しねぇぜ。……このカステラ、どうせ誰も食えねぇだろうから、俺がもらってってやるよ」

 タフィは男性従者からカステラの入った箱を受け取ると、勝ち誇った様子で歩き出した。

「うちらも行こっか」

「そうですね」

 去っていこうとする2人に向かって、アポロスは弱々しい声で問いかけた。

「……な、なぁ、あいつって毒とか効かねぇの?」

「効かない効かない。タフィにとっちゃ、毒なんて調味料と一緒なんだから」

「調味料……」

 カリンの言葉を聞いて、アポロスはなんとも言えない敗北感を味わうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...