6 / 86
第1章 北条家騒動
なんでもいいから出ろっ!
しおりを挟む
「「!?」」
同時に振り向く辰巳とユノウ。その視線の先にいたのは、三メートルはあろうかという巨大なザリガニだった。
「モクメザリガニ?」
ユノウは確認するように夏へ顔を向けると、夏は首を縦に振った。
モクメザリガニは陸生の大型ザリガニで、身を覆う殻に木目のような模様があることが名前の由来。主食は植物で、地面に生えている草花だけでなく、巨大なハサミを使って固い木の幹も砕いて食している。素早く動くことはできないものの、木目調の殻はその弱点を補って余りあるほどの頑丈さを誇っていた。またおとなしい性格で、危害を与えなければ襲ってくることは滅多にない。
「あいつ美味しいよね」
ユノウが言うように、モクメザリガニの身は甘みがあってとても美味しい。
「塩焼きも良いですけど、私はお刺身が好きです」
相手が移動速度の遅い草食の生き物だからか、夏は平然としている。
「……危なくないんだな」
二人の様子を見て、辰巳の恐怖心は少し和らいだ。
「久々に食べたいし、獲ろっか」
ユノウは三味線をしまうと、先ほどと同じように大きく振りかぶって、美しいアンダースローのフォームで水球を解き放った。
水球はモクメザリガニの頭部に命中。だが威力が弱かったのか、大きなダメージを与えるには至らず、しかもユノウたちの存在に気づいたモクメザリガニは、威嚇するように両手のハサミを大きく上に上げると、三人に向かって移動し始めた。ただそのスピードは遅く、全力で走れば逃げ切れそうな感じだ。
「おいおい、大丈夫かこれ?」
辰巳は少し不安げな表情を浮かべたが、ユノウは表情を変えずに投球動作に入り、二球目となる水球を放った。
一球目よりも威力の増した水球は、威嚇姿勢によって露わになったモクメザリガニの胸部を直撃。心臓に強い衝撃を受けたのか、そのまま真後ろにひっくり返って動かなくなってしまった。
モクメザリガニにとって、殻で覆われていない胸や腹の部分は弱点のひとつである。
つまり初球で弱点をさらけ出させ、二球目で仕留めたということだ。
ちなみに、これは身の損傷を最小限に抑えるために考えた戦法であり、一撃で倒すことも可能だった。
「よしっ。じゃあ、ちょっと回収してきますね」
ユノウは小さくガッツポーズをすると、そのままモクメザリガニのところへ向かった。
「やっぱ魔法ってすげぇな。……異世界ものだと、よく魔法が使えるようになったりするんだけど、俺も魔法が使えたりするのかな? ファイアボール」
ユノウの魔法に感化されたのか、辰巳は右手を前に出しながら試しにつぶやいてみた。
「……」
何も起きない。
「火属性じゃないのかな?」
辰巳はもう一度右手を前に出した。
「ウォーターボール!」
技名を変え、先ほどよりも若干大きめの声で言ってみたが、何も起きない。
「サンダー! ファイアー! アイスニードル! 火球! エクスプロージョン!」
辰巳は頭に浮かんだ技名を片っ端から叫んでいったが、やはり何も起きない。
「……」
なんとなく諦めきれない辰巳は、そのまま右手に思いきり力を込め続け、改めて大声で叫んだ。
「なんでもいいから出ろっ!」
すると、そんな魂の叫びが聞き入れられたのか、左手に持っていた騎馬武者の紙が具現化し、辰巳の目の前に出現した。
「おわっ!」
辰巳は驚きのあまり後ろに倒れそうになった。
「拙者を呼んだのは貴公か?」
栗色の馬に跨った鎧武者は、辰巳にそう問いかけた。
「え……え!? ど、どういうこと?」
辰巳は混乱した。雷や火の玉などではなく、馬に跨った鎧武者が突如眼前に現れたのだから、当然といえば当然の反応である。
「貴公が呼んだのかと聞いておる。答えよ」
辰巳の反応を無視して、鎧武者はやや強めの口調で返答を求めた。
「え、え? あれ……さっき切った紙がなくなってるけど、これって、そういうことなの? ……はい」
いまいち状況は理解できていなかったが、辰巳はとりあえずうなずいた。
「左様か。して、用向きは?」
「用向き……」
そんなものあるはずがない。しかし、それをそのまま言ってしまうと怒られそうな気がしたので、辰巳はなんとか適当な用件を考えようとしたが、結局思いつかなかった。
「……ないです」
辰巳は怒られるのを覚悟したが、鎧武者は意外な反応を示す。
「左様か。ならば、拙者はこれにて失礼する」
鎧武者は特に怒ったりすることもなく、馬とともにパッと姿を消した。
同時に振り向く辰巳とユノウ。その視線の先にいたのは、三メートルはあろうかという巨大なザリガニだった。
「モクメザリガニ?」
ユノウは確認するように夏へ顔を向けると、夏は首を縦に振った。
モクメザリガニは陸生の大型ザリガニで、身を覆う殻に木目のような模様があることが名前の由来。主食は植物で、地面に生えている草花だけでなく、巨大なハサミを使って固い木の幹も砕いて食している。素早く動くことはできないものの、木目調の殻はその弱点を補って余りあるほどの頑丈さを誇っていた。またおとなしい性格で、危害を与えなければ襲ってくることは滅多にない。
「あいつ美味しいよね」
ユノウが言うように、モクメザリガニの身は甘みがあってとても美味しい。
「塩焼きも良いですけど、私はお刺身が好きです」
相手が移動速度の遅い草食の生き物だからか、夏は平然としている。
「……危なくないんだな」
二人の様子を見て、辰巳の恐怖心は少し和らいだ。
「久々に食べたいし、獲ろっか」
ユノウは三味線をしまうと、先ほどと同じように大きく振りかぶって、美しいアンダースローのフォームで水球を解き放った。
水球はモクメザリガニの頭部に命中。だが威力が弱かったのか、大きなダメージを与えるには至らず、しかもユノウたちの存在に気づいたモクメザリガニは、威嚇するように両手のハサミを大きく上に上げると、三人に向かって移動し始めた。ただそのスピードは遅く、全力で走れば逃げ切れそうな感じだ。
「おいおい、大丈夫かこれ?」
辰巳は少し不安げな表情を浮かべたが、ユノウは表情を変えずに投球動作に入り、二球目となる水球を放った。
一球目よりも威力の増した水球は、威嚇姿勢によって露わになったモクメザリガニの胸部を直撃。心臓に強い衝撃を受けたのか、そのまま真後ろにひっくり返って動かなくなってしまった。
モクメザリガニにとって、殻で覆われていない胸や腹の部分は弱点のひとつである。
つまり初球で弱点をさらけ出させ、二球目で仕留めたということだ。
ちなみに、これは身の損傷を最小限に抑えるために考えた戦法であり、一撃で倒すことも可能だった。
「よしっ。じゃあ、ちょっと回収してきますね」
ユノウは小さくガッツポーズをすると、そのままモクメザリガニのところへ向かった。
「やっぱ魔法ってすげぇな。……異世界ものだと、よく魔法が使えるようになったりするんだけど、俺も魔法が使えたりするのかな? ファイアボール」
ユノウの魔法に感化されたのか、辰巳は右手を前に出しながら試しにつぶやいてみた。
「……」
何も起きない。
「火属性じゃないのかな?」
辰巳はもう一度右手を前に出した。
「ウォーターボール!」
技名を変え、先ほどよりも若干大きめの声で言ってみたが、何も起きない。
「サンダー! ファイアー! アイスニードル! 火球! エクスプロージョン!」
辰巳は頭に浮かんだ技名を片っ端から叫んでいったが、やはり何も起きない。
「……」
なんとなく諦めきれない辰巳は、そのまま右手に思いきり力を込め続け、改めて大声で叫んだ。
「なんでもいいから出ろっ!」
すると、そんな魂の叫びが聞き入れられたのか、左手に持っていた騎馬武者の紙が具現化し、辰巳の目の前に出現した。
「おわっ!」
辰巳は驚きのあまり後ろに倒れそうになった。
「拙者を呼んだのは貴公か?」
栗色の馬に跨った鎧武者は、辰巳にそう問いかけた。
「え……え!? ど、どういうこと?」
辰巳は混乱した。雷や火の玉などではなく、馬に跨った鎧武者が突如眼前に現れたのだから、当然といえば当然の反応である。
「貴公が呼んだのかと聞いておる。答えよ」
辰巳の反応を無視して、鎧武者はやや強めの口調で返答を求めた。
「え、え? あれ……さっき切った紙がなくなってるけど、これって、そういうことなの? ……はい」
いまいち状況は理解できていなかったが、辰巳はとりあえずうなずいた。
「左様か。して、用向きは?」
「用向き……」
そんなものあるはずがない。しかし、それをそのまま言ってしまうと怒られそうな気がしたので、辰巳はなんとか適当な用件を考えようとしたが、結局思いつかなかった。
「……ないです」
辰巳は怒られるのを覚悟したが、鎧武者は意外な反応を示す。
「左様か。ならば、拙者はこれにて失礼する」
鎧武者は特に怒ったりすることもなく、馬とともにパッと姿を消した。
0
あなたにおすすめの小説
アラフォー幼女は異世界で大魔女を目指します
梅丸みかん
ファンタジー
第一章:長期休暇をとったアラフォー独身のミカは、登山へ行くと別の世界へ紛れ込んでしまう。その場所は、森の中にそびえる不思議な塔の一室だった。元の世界には戻れないし、手にしたゼリーを口にすれば、身体はなんと6歳の子どもに――。
ミカが封印の箱を開けると、そこから出てきたのは呪いによって人形にされた大魔女だった。その人形に「大魔女の素質がある」と告げられたミカは、どうせ元の世界に戻れないなら、大魔女を目指すことを決心する。
だが、人形師匠はとんでもなく自由すぎる。ミカは師匠に翻弄されまくるのだった。
第二章:巷で流れる大魔女の遺産の噂。その裏にある帝國の侵略の懸念。ミカは次第にその渦に巻き込まれていく。
第三章:異世界で唯一の友人ルカが消えた。その裏には保護部屋の存在が関わっていることが示唆され、ミカは潜入捜査に挑むことになるのだった。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました
mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。
なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。
不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇
感想、ご指摘もありがとうございます。
なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。
読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。
お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる