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第1章 北条家騒動
冒険者依頼処河越支部
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冒険者依頼処は、呉服屋や宿屋などが立ち並ぶ大通りに面した場所に位置していた。
白漆喰に瓦屋根の二階建ての建物で、正面に「冒険者依頼処」と彫られた木製の大看板が掲げられている。
「あ、良かったぁ、ここちゃんと連盟に加入してる」
ユノウは軒下に吊り下げられた看板に視線を向けた。そこには、ボディビルダーのように両腕を上に曲げた人のシルエットをバックに、剣と杖をクロスさせたようなマークが描かれていた。
「連盟? 何それ?」
「連盟っていうのは冒険者ギルド連盟のことで、各国の冒険者ギルドが加入している組織なんです。ランクや成果情報などが共有化されてるんで、加入しているギルドであれば、どこの冒険者カードでも使えるんですよ」
「へぇ。じゃあ、加入していないところだと、その都度新規で作らないとダメってこと?」
「そういうことです。ここは連盟に加入しているので、ここで冒険者カードを作れば他のギルドでも使えますよ。さ、入りましょう」
中に入ると、甲冑や着流し、鎖帷子などといった様々な装束に身を包んだ冒険者たちの姿があった。
「すいません。素材の買い取りをお願いします」
「へい、買い取りでございますね。では、冒険者手形をご提示願います」
受付で対応したのは、背中に丸に冒の字の紋が描かれた印半纏を着た男性職員だった。
「手形……あぁ、冒険者カードか。はい」
「お預かりします」
職員はユノウからカードを受け取ると、様々な冒険者カードの見本が掲載された台帳を見ながら、真贋の確認を行った。
「ありがとうございます。では、売りたい素材を拝見いたします」
「えっと……これです」
ユノウがレッグポーチから取り出したのは、四〇センチほどの長さがある動物の角で、水晶のような見た目をしていた。
「ほぉ、見たところ、スイショウヤギの角のようですね」
スイショウヤギは主に山岳部に生息しており、水晶のような美しい角を持っていることからその名で呼ばれている。角は装飾品などの材料として高値で取引される一方で、肉は非常に硬く臭いも強いため、食用には向かない。
「早速鑑定させていただきます。しばしお待ちを」
職員は虫眼鏡を用意すると、様々な角度から角の状態を確認した。
「……そうですねぇ、スイショウヤギの角、二本で二両というところですかな」
倭国の通貨制度について、ユノウはしっかりと夏から聞いていた。
それによれば、単位は文・朱・両の三つがあり、一〇〇文で一朱という具合に、一〇〇で次の単位に上がる。つまり一両=一〇〇朱=一〇〇〇〇文という感じだ。また、貨幣は一文銭、一〇文銭、一朱銀、一〇朱銀、一両金、一〇両金の六種が鋳造されていた。ちなみに日本円で例えると、一文はおおよそ二〇円ほどの価値になる。
「それでいいです。あと、この人の冒険者登録をお願いします」
そう言うと、ユノウは後ろに立っていた辰巳に、前へ来るよう促した。
「登録には試験と、受験料が一〇朱かかります」
「じゃあ、そのお金から受験料引いて」
「では、一両九〇朱です。そちらの方、この紙に必要事項を書いてください」
職員は角の代金、登録用紙に筆と墨を用意した。
「住所とかがあったらどうしよう」と、辰巳は少し不安に思っていたが、必須となっていたのは名前と年齢だけであり、住所に関しては記入欄すらなかった。
辰巳は特技や経歴といった任意記入の項目はスルーして、達筆な字で名前と年齢を書き入れた。
「お願いします」
「はい……大丈夫ですね。試験ですが、薬草採取になります。こちらの依頼書に書かれた薬草を、明後日までに採取して持って来られれば合格になります。では、お気をつけて」
依頼書を受け取ると、辰巳たちは休憩スペースとおぼしき場所に置かれた椅子に腰を下ろした。
「無条件で登録ってわけにはいかないんだね」
「そりゃそうですよ。ギルドも商売ですからね。依頼をこなせるかわからない人を、誰かれ構わず登録しませんよ。スマホアプリじゃないんですから」
「それもそうか。で、ユノウから見て、この試験は難しいの?」
依頼書には「アオタネソウ採取依頼 アオタネソウを一〇本採取する」という内容と注意事項、薬草の絵が記載されていた。
アオタネソウはその名が示すように種が青色をしている薬草で、大きさは二〇センチほど。根の部分に腹痛を和らげる効果があり、薬の材料として重宝されている。
「難しいことはないです。薬草採取は基本の基ですからね。逆にこれができなければ、冒険者としての素質はゼロです。まぁ、辰巳さんだったら大丈夫だと思いますよ。ただ、事前にある程度は情報を集めておいた方が良いですね」
「情報?」
「この絵だけで薬草を探すのは大変ですよ。それこそしらみつぶしに探さないといけないですからね。だったら、あらかじめ本で調べるなり、人に聞くなりして、生えている場所の目星をつけておいた方が効率的ですよ」
「確かに」
「なので今日は準備だけにして、出発は明日にしましょう」
「うん。ところで、冒険者カードってどんな情報が載ってるの?」
「そんなに大した情報は載っていませんよ」
ユノウは自身の冒険者カードを取り出すと、辰巳に見せた。
冒険者カードは手のひらサイズの大きさで、登録者の名前、ランク、ランクごとの依頼受注数と成功数が記載されている。
「……これ、Bってあるけど、ユノウってBランクってことなの?」
「ええ、あたしはBランク冒険者ですよ。ちなみに、ランクは上からSABCDEFの七段階あります。自分で言うのもなんですが、Bランク冒険者って結構すごいんですよ」
ドヤ顔のユノウを見て、辰巳は苦笑した。
「自分ですごいって言っちゃうんだ」
「だってこういうランク系のものって、すごさとかが伝わりにくいじゃないですか。例えば将棋や剣道の段位や、色んな検定の級なんかも、知らない人にはそれがどのくらいすごいのかピンとこないでしょ」
「確かに」
「だからすごいって思ってもらうには、恥ずかしかろうが、自分で言うしかないんですよ」
ユノウはそう言うと、おもむろに椅子から立ち上がった。
「ちょっと待っててください。あたしも、良さそうな依頼があったら受けてきますから」
ユノウは依頼書が張りつけられた掲示板へ向かうと、少し考えたうえで一枚選び、受付でそれを受注した。
「どんな依頼を受けてきたの?」
「これです」
ユノウが見せた依頼書には「オシロイツチノコ討伐依頼 オシロイツチノコを二匹以上討伐する。 討伐証明部位:尾 報酬:一匹につき二五朱 期限:受領後四日 番付:小結」という内容が記載されていた。
オシロイツチノコは三角形の頭部、太く平坦な胴体、細く短い尻尾という特徴的な体つきをした蛇で、尾が白いことからその名で呼ばれている。雷魔法を使い、相手を痺れさせたうえでその身を丸飲みにしていた。
「ツチノコって、あのUMAのツチノコ?」
「その類ですよ」
依頼書に描かれていた絵は、テレビなどで想像図として紹介されるツチノコの姿にそっくりだった。
「一匹二五朱だと……だいたい五万くらいか。……この番付っていうのは、やっぱりランクを意味しているのかな?」
「ええ。受注する時に受付で聞いたら、ここでは相撲の番付でランクを表しているそうです。幕下、十両、前頭、小結、関脇、大関、横綱とあるんで、この依頼はCランク相当ってことだそうです」
「へぇ。じゃあ、大関や横綱に昇進したら、相撲みたいに口上を言ったりするのかな」
「さすがにそれはないと思いますよ。ただ、番付上位者には成績に加えて品格も求められるそうなので、その辺は相撲に似ているかもしれません」
「どこの世界も似たようなもんなんだな。……あれ、そういえばこっちの依頼書には番付なかったよな」
辰巳は薬草採取の依頼書を見直したが、そこに番付の記載はなかった。
「たぶん、試験用の特別な依頼なんですよ」
「あぁ、そういうこと。じゃ、行こうか」
依頼処を出発した二人は、途中本屋で何冊か本を買い、かんざしや箸などといった様々な生活用品を商う小間物屋を覗き見たりした後、客引きの若い衆に誘われるまま「鷲屋」という宿屋へ泊ることになった。
白漆喰に瓦屋根の二階建ての建物で、正面に「冒険者依頼処」と彫られた木製の大看板が掲げられている。
「あ、良かったぁ、ここちゃんと連盟に加入してる」
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「連盟? 何それ?」
「連盟っていうのは冒険者ギルド連盟のことで、各国の冒険者ギルドが加入している組織なんです。ランクや成果情報などが共有化されてるんで、加入しているギルドであれば、どこの冒険者カードでも使えるんですよ」
「へぇ。じゃあ、加入していないところだと、その都度新規で作らないとダメってこと?」
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「へい、買い取りでございますね。では、冒険者手形をご提示願います」
受付で対応したのは、背中に丸に冒の字の紋が描かれた印半纏を着た男性職員だった。
「手形……あぁ、冒険者カードか。はい」
「お預かりします」
職員はユノウからカードを受け取ると、様々な冒険者カードの見本が掲載された台帳を見ながら、真贋の確認を行った。
「ありがとうございます。では、売りたい素材を拝見いたします」
「えっと……これです」
ユノウがレッグポーチから取り出したのは、四〇センチほどの長さがある動物の角で、水晶のような見た目をしていた。
「ほぉ、見たところ、スイショウヤギの角のようですね」
スイショウヤギは主に山岳部に生息しており、水晶のような美しい角を持っていることからその名で呼ばれている。角は装飾品などの材料として高値で取引される一方で、肉は非常に硬く臭いも強いため、食用には向かない。
「早速鑑定させていただきます。しばしお待ちを」
職員は虫眼鏡を用意すると、様々な角度から角の状態を確認した。
「……そうですねぇ、スイショウヤギの角、二本で二両というところですかな」
倭国の通貨制度について、ユノウはしっかりと夏から聞いていた。
それによれば、単位は文・朱・両の三つがあり、一〇〇文で一朱という具合に、一〇〇で次の単位に上がる。つまり一両=一〇〇朱=一〇〇〇〇文という感じだ。また、貨幣は一文銭、一〇文銭、一朱銀、一〇朱銀、一両金、一〇両金の六種が鋳造されていた。ちなみに日本円で例えると、一文はおおよそ二〇円ほどの価値になる。
「それでいいです。あと、この人の冒険者登録をお願いします」
そう言うと、ユノウは後ろに立っていた辰巳に、前へ来るよう促した。
「登録には試験と、受験料が一〇朱かかります」
「じゃあ、そのお金から受験料引いて」
「では、一両九〇朱です。そちらの方、この紙に必要事項を書いてください」
職員は角の代金、登録用紙に筆と墨を用意した。
「住所とかがあったらどうしよう」と、辰巳は少し不安に思っていたが、必須となっていたのは名前と年齢だけであり、住所に関しては記入欄すらなかった。
辰巳は特技や経歴といった任意記入の項目はスルーして、達筆な字で名前と年齢を書き入れた。
「お願いします」
「はい……大丈夫ですね。試験ですが、薬草採取になります。こちらの依頼書に書かれた薬草を、明後日までに採取して持って来られれば合格になります。では、お気をつけて」
依頼書を受け取ると、辰巳たちは休憩スペースとおぼしき場所に置かれた椅子に腰を下ろした。
「無条件で登録ってわけにはいかないんだね」
「そりゃそうですよ。ギルドも商売ですからね。依頼をこなせるかわからない人を、誰かれ構わず登録しませんよ。スマホアプリじゃないんですから」
「それもそうか。で、ユノウから見て、この試験は難しいの?」
依頼書には「アオタネソウ採取依頼 アオタネソウを一〇本採取する」という内容と注意事項、薬草の絵が記載されていた。
アオタネソウはその名が示すように種が青色をしている薬草で、大きさは二〇センチほど。根の部分に腹痛を和らげる効果があり、薬の材料として重宝されている。
「難しいことはないです。薬草採取は基本の基ですからね。逆にこれができなければ、冒険者としての素質はゼロです。まぁ、辰巳さんだったら大丈夫だと思いますよ。ただ、事前にある程度は情報を集めておいた方が良いですね」
「情報?」
「この絵だけで薬草を探すのは大変ですよ。それこそしらみつぶしに探さないといけないですからね。だったら、あらかじめ本で調べるなり、人に聞くなりして、生えている場所の目星をつけておいた方が効率的ですよ」
「確かに」
「なので今日は準備だけにして、出発は明日にしましょう」
「うん。ところで、冒険者カードってどんな情報が載ってるの?」
「そんなに大した情報は載っていませんよ」
ユノウは自身の冒険者カードを取り出すと、辰巳に見せた。
冒険者カードは手のひらサイズの大きさで、登録者の名前、ランク、ランクごとの依頼受注数と成功数が記載されている。
「……これ、Bってあるけど、ユノウってBランクってことなの?」
「ええ、あたしはBランク冒険者ですよ。ちなみに、ランクは上からSABCDEFの七段階あります。自分で言うのもなんですが、Bランク冒険者って結構すごいんですよ」
ドヤ顔のユノウを見て、辰巳は苦笑した。
「自分ですごいって言っちゃうんだ」
「だってこういうランク系のものって、すごさとかが伝わりにくいじゃないですか。例えば将棋や剣道の段位や、色んな検定の級なんかも、知らない人にはそれがどのくらいすごいのかピンとこないでしょ」
「確かに」
「だからすごいって思ってもらうには、恥ずかしかろうが、自分で言うしかないんですよ」
ユノウはそう言うと、おもむろに椅子から立ち上がった。
「ちょっと待っててください。あたしも、良さそうな依頼があったら受けてきますから」
ユノウは依頼書が張りつけられた掲示板へ向かうと、少し考えたうえで一枚選び、受付でそれを受注した。
「どんな依頼を受けてきたの?」
「これです」
ユノウが見せた依頼書には「オシロイツチノコ討伐依頼 オシロイツチノコを二匹以上討伐する。 討伐証明部位:尾 報酬:一匹につき二五朱 期限:受領後四日 番付:小結」という内容が記載されていた。
オシロイツチノコは三角形の頭部、太く平坦な胴体、細く短い尻尾という特徴的な体つきをした蛇で、尾が白いことからその名で呼ばれている。雷魔法を使い、相手を痺れさせたうえでその身を丸飲みにしていた。
「ツチノコって、あのUMAのツチノコ?」
「その類ですよ」
依頼書に描かれていた絵は、テレビなどで想像図として紹介されるツチノコの姿にそっくりだった。
「一匹二五朱だと……だいたい五万くらいか。……この番付っていうのは、やっぱりランクを意味しているのかな?」
「ええ。受注する時に受付で聞いたら、ここでは相撲の番付でランクを表しているそうです。幕下、十両、前頭、小結、関脇、大関、横綱とあるんで、この依頼はCランク相当ってことだそうです」
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「どこの世界も似たようなもんなんだな。……あれ、そういえばこっちの依頼書には番付なかったよな」
辰巳は薬草採取の依頼書を見直したが、そこに番付の記載はなかった。
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