紙切り道中異世界見聞録

いんじんリュウキ

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第1章 北条家騒動

過去と向き合う

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 無事目的を果たし、辰巳たちはそのまま河越への帰路につこうとしたが、氏元が「急な来訪とはいえ、秀頼様をなんのもてなしもせずに帰すわけにはいかない」と言って譲らなかったため、仕方なく小田原城に一泊することとなった。なお、仁は重要参考人として、しばらく小田原に留まることになっている。

 その仁を除いた五人は、城下にあるかまぼこ屋へと向かっていた。

「こっちでも、小田原はかまぼこが名物なんだね」

 道沿いに立ち並ぶかまぼこ屋を見て、辰巳はそんな感想を漏らした。

「そうですね。やっぱり魚がたくさん獲れて、良い水があったら、自然にそういう食文化が育まれるんでしょうね。ちなみに、あたしは自分でかまぼこを作ったことがありますよ」

「へぇ、かまぼこって自分で作れるんだぁ」

「作れますよ。ちょっと面倒くさいですけどね。一時期釣りにはまってたことがあって、カワハギとかキスがすごい釣れた時があったんですよ。ああいう白身魚はかまぼこには持って来いですからね、思わず作っちゃいましたよ」

「ふーん」

 そんな風に辰巳とユノウが他愛もない話をしているうちに、目的の店に到着した。

「こんにちは、伯父さんいますか?」

 この店の主人は文の兄である。

「おぉ、夏じゃないか。久しぶりだな。今日はかまぼこでも買いに来たのか?」

 店の奥から現れたのは、前掛け姿の大男だった。

「いえ……あ、それもあるんですけど……」

 夏がこの店を訪れた理由。それは、産みの母が殺害された場所へと赴き、その御霊みたまを弔うためであった

「大丈夫」

 後押しするように、奈々は夏の背中をポンと叩いた。

「そちらのお嬢さんは、夏の友達かな?」

「初めまして、河越城家老、大道寺直孝が娘、大道寺奈々と申します」

「これは失礼いたしました。私は夏の伯父、佐平さへいでございます。姪がお世話になっているようで、ありがとうございます」

「お気になさらず。“甥御”さんのお世話なんて、全然してませんから」

 “甥御”という言葉を聞いた瞬間、佐平の眉が僅かに動く。

「はっはっは。夏は男っぽいところがありますからな」

 佐平は笑いながら軽く受け流した。

「……伯父さん、私、お母さんから全部聞いたの」

 夏は意を決して話し始めた。

「ところで、かまぼこはどれを買うんだ?」

 佐平は夏の言葉を無視するように、話題を変えた。

 が、夏は臆することなく話を続ける。

「氏元様にも会って、話をしたから。もう全部知ってるから」

 それを聞いて、佐平の動きが止まる。

「氏元様に会った? ……氏元様は、なんとおっしゃられた?」

「『七松丸は既にこの世にはいない』と、おっしゃられました」

 佐平は氏元の言葉を聞き、夏が“本当の平穏”を手にできたことを知った。

「そうか……。で、母親の仇を討つためにここへやって来たのか?」

 夏は慌てて首を横に振る。

「違います違います。その……弔いに行きたいんです」

「わかった、案内しよう」

 佐平は店を閉めると、辰巳たちを引き連れて、街の背後にそびえる山の中へと入っていった。
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