紙切り道中異世界見聞録

いんじんリュウキ

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第2章 北条家戦争

急ぎ小田原へ

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「敵らしきやつはいたか?」

「いません」

 馬車の屋根の上で、光之助は警戒にあたっている忍者からの報告を聞いていた。

「そうか……なら、この辺で一度馬を休ませよう。おい、この辺りで一旦休憩だ」

 光之助は仲間の忍者に指示を出し、馬車は街道脇の草むらに停車した。

「失礼いたします」

 現状を報告するため、光之助は馬車の扉を開けた。

「どうした?」

「馬を休ませるために、ここで一旦休憩いたします」

「そうか。ここはどの辺りだ?」

「神奈川宿の近くにございます」

「わかった」

「では」

 光之助は扉を閉めると、御者を務めている忍者に馬の様子を尋ねた。

「どうだ、馬は問題ないか?」

「今のところ大丈夫です」

「そうか、夜中に叩き起こして走らせてるから、ちょっと心配だったんだよ」

「それでも負担は大きいですから、早めに交代の馬を手配した方がいいですよ」

「おう、わかった」

 そのまましばらく休憩し、空が白み始める頃、馬車は出発した。



 一行は順調に街道を西進し、行程の半分を過ぎた戸塚宿で、馬の交代と食事休憩を取っていた。

「ん、あれは橋本はしもとじゃねぇか。おい、ちょっと離れるぞ」

 馬車の傍らで警戒にあたっていた光之助は、見知った顔を見つけて駆け寄った。

「おう、橋本」

「これは吉田殿、お久しゅうございます」

 馬上から降りて挨拶した男の名は橋本真右衛門しんえもん。光之助の友人であり、氏元に仕える武士だ。

「お前、こんなとこで何やってるんだ?」

「何って……まぁ、どうせわかることだからいいか。実は、お世継ぎの一件で、江戸様に小田原へ来るよう殿がお命じになられたのです。吉田さんこそ何をやってるんですか?」

「ん……まぁ、俺もそれ絡みみたいなもんなんだが……ちょっとこっち来い」

 光之助は、真右衛門を馬車のところまで連れていった。

「この馬車は……まさか、江戸様が?」

 真右衛門は北条の家紋が付いた倭馬車を見て、驚きの表情を浮かべた。

「違う。乗っておられるのは若君と御簾中様だ」

「若君と御簾中様……どこへお向かいなのですか?」

「小田原だ」

「小田原? どのようなご用向きで?」

「……助けを求めに行くのだ」

「助け? 一体、江戸で何があったのですか?」

 真右衛門は状況が理解できず困惑している。

「それが……殿がもののけを召喚して、そいつらが城内で暴れまわっているんだ。既に、死傷者も多数出ている」

「は? 何ゆえそのようなことに?」

「詳しくはわからんが、どうも、お世継ぎの件で自棄を起こしたようなんだ」

「うーん……にわかには信じがたいことですが……」

「こんな嘘をついてもしょうがないだろう。それより、お前に頼みたいことがある。このまま小田原に戻って、この件を氏元様に伝えてきてもらえないか?」

「いや、私には使者として役割が……」

 真右衛門は当然断ろうとする。

「言っただろ、江戸城は今、もののけの襲撃を受けていると。それに、殿ご自身ももののけとなっている恐れがあり、まともに話ができる状況ではない。使者として赴けば、確実に切り殺されるぞ。だから、ここで引き返すべきなんだよ。俺らとしても、できるだけ早く状況を知ってもらいたいしな」

 光之助は脅しをかけながら言い放つ。

「……」

 真右衛門は判断に迷う。

 光之助の言っていることが事実であれば、確かにこの場で引き返すべきである。

 だが自分の目で確認したわけではなく、何か時間を稼ぐための罠という線も、完全には否定できない。

「俺の言葉だけで足りないなら、若君と御簾中様からも話を伺うか?」

 悩む真右衛門に圧を加えるがごとく、光之助は鋭い眼光を向ける。

「え?」

「若君、ちょっとよろしいでしょうか?」

 光之助は障子窓を軽く叩いて吉親を呼んだ。

「なんだ?」

 障子窓がスッと開き、吉親が顔を覗かせた。

「若君、これは小田原からの使者なのですが、江戸城の状況について、若君の口から少しお話しいただけませんでしょうか?」

「構わんぞ」

「い、いえ、もう大丈夫でございます。私、しかと納得いたしました」

 真右衛門は寝間着姿の吉親を見て、異常事態が生じていることを理解した。

「そうか。ところで、小田原からの使者とのことだが、何を伝えに来たのだ?」

「お世継ぎの件についてでございます」

「……左様か」

 吉親は静かに障子窓を閉める。氏吉がお世継ぎの件で色々と暗躍していることは、吉親もなんとなく察していた。

「じゃ、頼んだぞ」

 光之助は真右衛門の肩をポンと叩いた。

「わかりました。ただ、殿が納得されるかはわかりませんよ」

「わかってるわかってる。とりあえず俺らが行く前に、ある程度心の準備ができていればそれでいいんだから」

「では」

 真右衛門は馬に飛び乗り、小田原へ向けて走り去っていった。

「さて、氏元様はどんな反応をするのかな?」

「吉田さん、出発の準備が整いました」

「おう」

 仲間からの報告を受け、光之助は出発の合図を出し、馬車はゆっくりと動き出した。
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