乙女ゲームのヒロインに転生したので、推しの悪役令嬢をヒロインにしてみせます!

ちゃっぷ

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第九章 話したいこと

第三十四話

 話があると言ったものの、彼はどこかまだ悩んでいるようでなかなか話出せずにいるようだった。

 そんな悩むほどのことをこれから言うのか……? と不安に思いつつも、彼からの言葉を受け止めるつもりでいた私は、笑顔で彼の手を握った。

「話して? 一緒にダンスを踊った仲じゃない」

 すると彼もフッと笑って、ふー……と深呼吸をしてから、先程見たアミーラのような決意めいた真剣な表情をしてから話し始めた。

「この国が腐っていること、国王が堕落しきっていることは……知っているかな?」

 突然、国の話が始まって戸惑いながらも特に口は挟まず静かに頷いて返事をすると、彼は暗い表情をして俯きながら話を続けた。

「貴族ばかりが甘い汁を吸って、平民には重い税収だけがのしかかる。そんな状態に民衆はもう限界でね、反王政派の中で国王に反旗を翻そうという話が出ているんだ」

 私は少しだけ驚いた、なぜ彼がそのことを知っているのかと。

 民衆が国政と国王に怒り、反旗を翻すのは数年後の話……ヒロインとエスネイニがバッドエンドになった後、彼が堕落した王になった場合のみ登場する話だ。

 それを……なぜ、今、上級貴族の彼が知っている?

 私の頭にははてなマークばかりが浮かんでいたが、黙って彼の話を聞く。

「でも俺はもう少し待とうと……第一王子が王になれば、この国は変わるかもしれないと待ったを掛けているんだ」

 自分の中で疑問に思っていた何かが繋がったのを感じた。

 なるほど、この頃から王政に不満を抱いている反王政派はいたけど、エスネイニが待ったを掛けていて……でもエスネイニが王になっても現状が変わらなかったから、数年後に反乱が起きたということか。

 そこには納得したが、まだまだ疑問はあった。

「なんでワハイドはちょっと待とうと提案したの? それに……上級貴族のワハイドが、なぜ反王政派に?」

 色々な疑問が浮かんできて、私はつい一気に疑問をぶつけてしまった。

 するとワハイドは少しだけ力なく微笑んでから、考え込んで俯いてしまったが……少ししてから顔を上げ、私の方を真っ直ぐに見つめてきた。

「それは、この国の第一王子が俺の弟だから……俺が本当の第一王子だから」

 突拍子もないことを言われて……私はあまりの驚きに開いた口が塞がらなかった。

 一瞬、こんな状況で冗談か? とも思ったけど、彼の表情は真剣そのもので疑う余地はなかった。

「な……んで、弟が第一王子になっているの?」

 ゲームは何度もプレイした……でもそんな話は聞いたことがない。

 この世界のことを、何度もプレイしているからこそ知り尽くしていると思っていた私は、思いもよらなかった答えにただただ困惑した。

 せっかく質問の答えをもらったのにさらに疑問がブワッと増えて、私は混乱する頭を必死に動かしながらとにかく質問した。

 するとワハイドは静かな口調で話し始めた。 

 母親のお腹にいた時から無事に生まれるか分からないということで、妊娠も出産も公には発表されなかったこと。

 産まれてからも病弱な上、彼には王族の証である紫の髪と瞳がなかった。

 世継ぎを求めていた父親は彼への興味を完全に失い、母親はその状況が危険だと感じ、良い環境で療養させるためにと自分の生家にワハイドを送ったということだった。

 ワハイドは淡々と語っているけど、その内容はかなり重たく壮絶で……私は驚きと、悲しみでいっぱいだった。

「そんな顔しないでよ。母親の生家っていうのが今も世話になっている町外れの叔父の家なんだけど、すっごく良くしてもらってる」

 話を聞いて暗い顔をする私を、気遣うように明るく振る舞うワハイド。

「母親も時々様子を見に来てくれて、それなりに幸せに暮らしていたんだ。身体も今じゃすっかり健康体!」

 母親のことを離す時は、ワハイドも少しだけうつむき加減に話していたように感じたが……心配そうにする私を見て、困ったような表情をしながら私の頭を撫でて笑っていた。

「んで、しばらくは叔父のもとで平和に暮らしていたんだけど……数年前かな、反王政派の中に俺の出生を知っている人間がいて、接触してきたんだよね」

 私の頭を撫でていた腕が止まって、彼はまた真剣な表情になっていた。

「母親が亡くなって、今の王政はもうダメだと思ったらしい。真の第一王子である俺に王になってほしい、国を変えてほしいって言ってきたんだよね」

 そこまで言われてハッと思い出した。

 ワハイドの声を初めて聞いた時、どこかで聞き覚えがあると思っていたけど……ヒロインとエスネイニのバッドエンドルート、民衆が反旗を翻した時にいた貴族の声がワハイドの声だったと。

「反王政派の中から新しい王を出しても、平民と貴族の全員を納得させることはできないから、王族である俺をトップに据えたかったんだろう。俺も町外れにも届く王政の酷さは知っていたから……反王政派に入ることにした」

 本当の第一王子だから反王政派の中心人物になっていたのかと、今更ながら納得した。

「でもどうしても弟のことが気になって……第一王子の話は母から聞いていた、まともな可能性があると訴えて、王政への攻撃は待ってもらった」

 確かにヒロインとエスネイニがちゃんとハッピーエンドになれば、彼は良き国王となって腐りきった国をちゃんと立て直そうとしていた。

 ……バッドエンドになると、父親と同じ道を行くけどね。

「だから王政はどうか、町外れで暮らしながらちょこちょこ王都に来て現地で情報収集して、様子を見ていたんだ」

 ワハイドが王都に来て、お店の人たちに度々声を掛けていたのはそのためか。

 少しずつ分からなかったワハイドのことが分かるようになって、自分の中で納得がいって……混乱していた頭も少しずつではあるけど落ち着いてきていた。

「でも最近は反王政派も我慢の限界と騒ぎ出していて、それを抑えるために街に出れなくなるし、今日もさっきまで会合に参加してたんだ。……俺としても弟がまともであるという保証がなくて、強くは言えなかった」

 そこまで言ったワハイドは暗い表情から少しだけ微笑み、こちらを見つめながら私の頬に手を添えて改めて言葉を続けた。

「それにナジマと出会ったことで、早くこの国を良い状態にしなきゃなと俺も思うようになったんだ」

 この人はさらっとこういう事を言う! と少しだけ赤面しながらも、頬に寄せられた彼の手をぎゅっと握る。

 けれど話を聞く限り、ワハイドは母親から聞いていた弟への期待と、民衆からの不満との間で板挟みになっていて疲れ切っているようだった。

 そんな彼に私は微笑みを返してからこう言う。

「ワハイド、今度は私の話を聞いてくれる?」
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