幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される

ちゃっぷ

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第二章 やたらと甘い神様の溺愛

第八話

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 目を開けると、ぼんやりとしていた視界が少しずつクリアになっていく。

 視界にあるのは、天井……?

 頭には柔らかい枕の感触、身体には雲のようにふかふかの布団が掛けられている感覚がある。

 でも頭だけがずっとはっきりとせず、自分の状況をつかめずにぼんやりとしてしまう。

「……ここは……?」

 私が誰に言うでもなくそう呟くと、私の隣でガタタッと何かが慌てて動く気配がした。

「――アルサ、大丈夫か? ここは君の部屋だ」

 音の主はイラホン様だった。

 心配そうな顔をして、私の額に手を添える。

 手がひんやりとしていて気持ち良いなと思っていると、冷たさのおかげか頭も少しずつクリアになっていく。

 そしてやっと自分のおかれている状況、何があったのかを理解して……血の気が引いた。

「イラホン様、申し訳ありません!」

 ガバッと上半身を起こして全力で頭を下げ、慌てて謝罪の言葉を口にする。

 食事からお風呂までいただいて、私のために神使まで出してくださったのに……私は勝手に倒れて、迷惑を掛けてしまった。

 せっかく幸せにすると言ってもらえたのに……。

 私の頭はクリアになっていたけど、どうしよう・嫌われた・怒られると色々な思考がぐちゃぐちゃに頭を掻き乱していて……謝罪することしかできなかった。

 身体が震える……怖い……顔が見られない……。

 けれどイラホン様はそんな私の肩に優しく手を添えて、語りかけてくる。

「――元気そうで嬉しいけれど、まだ横になっていなきゃダメだよ」

 困ったような優しい声色で、諭すように語りかけてくるイラホン様。

 これ以上迷惑を掛けるわけにはいかないと、私は言われたとおりにベッドに再び身体を沈めた。

 横になったことで視界に入ったイラホン様の顔は、さっきの声色通り……やはり困ったような微笑みを浮かべている。

 面倒な女を拾ったと考えていらっしゃるだろうか。

 私の身体が万全になったら、私は捨てられてしまうのだろうか。

「申し訳ありません……」

 私はもう一度、謝罪を口にする。

 優しくしてもらったのに、笑顔を向けてもらったのに……謝罪をすることしかできない自分が、情けなくてしょうがない。

 それでも言わずにはいられなかった。

 そんな私の頬に、イラホン様が優しく撫でるように手を添える。

「……謝るのは俺の方だよ。急に振り回してしまって、ごめんね」

 悲しそうな表情でそう言うイラホン様。

 私は慌てて、イラホン様は何も悪くないと否定する。

「イラホン様が謝ることなどありません! 私が……」

 そこまで言って、言葉をつまらせてしまった。

『言い訳をするな』

 昔言われた、父の言葉が聞こえた気がしたから。

 ヒュッと喉がなって、頭の中でその頃家族に言われていた言葉と、彼らからひどい仕打ちを受けながら、誰にも言うことができずにループしていた謝罪が一気に頭を駆け巡る。

 ……不出来でごめんなさい……グズでごめんなさい……不快にさせてごめんなさい……生きていてごめんなさい……産まれてきてごめんなさい。

 家で過ごしていた頃の記憶が、想いが……ぶわっと蘇る。

 恐怖で、顔も身体も強張る。

 イラホン様のおかげで壊れた無表情の仮面が、自分の顔を侵食し始めるのを感じる。

 いやだ……嫌だ……!

「アルサが奥さんになってくれたことが嬉しくて、はしゃぎ過ぎてしまった」

 そんな私に、イラホン様は困惑しつつも頬を赤らめて、恥ずかしそうな照れたような温かい表情をしながらそう言った。

 頬に添えられた彼の手が、ほんわりと温かくなったように感じる。

 仮面の侵食が一気に引っ込んだ。

 ……けれど、今度は顔が真っ赤になるのを止められなくなってしまった。

 顔を隠したいが、イラホン様の手が添えられていてできない。

 私はどうすることもできずに、ただ顔の熱が引いてくれるのを待つことしかできない。

 そんな私を見つめながら、頬を優しく撫でてくるイラホン様。

 は、恥ずかしい……!

「……時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり、少しずつ夫婦になっていこう」

 そう言うイラホン様は、穏やかな笑みを浮かべていた。

 夫婦という単語に、また顔の熱が上がったように感じる。

 けれど幸せになりたいと、妻にしてくれるというイラホン様の施しに答えたのは私自身だ。

 いつまでも恥ずかしがってないで、ちゃんとイラホン様が望むような妻になれるように努力しなくては。

 そう思いつつも、いざイラホン様の顔を見ると……にっこりと微笑まれるだけで、赤面が止まらなくなってしまう。

 見つめられることにも、微笑まれることにも免疫がなさすぎる……。

 そんな自分の不甲斐なさにまた恥ずかしくなりながらも、はい……という返事だけは、なんとか絞り出すことができた。
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