余命1年病

ちゃっぷ

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12月 年越し

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「昆布を弱めの中火に……沸く前に取り出して……」

「そんなに難しい顔をしなくても大丈夫よ」

「う、うん」

 母親にそう言われて、寄っていたであろう眉のシワや固くなっていた肩を少しだけ緩める。

 今日は12月31日……大晦日だ。

 昼間から明日の年明けに食べるお雑煮を手作りしてる。

 しかもただ手作りするだけではつまらないと思って、料理下手なくせに出汁からしっかり取ろうとしてるので、どうしても難しい表情をしてしまう。

 初めてのお雑煮作り……いや、正確には2回目か?

 実はこのお雑煮を作る前、出汁づくりの時点で1度失敗してしまってて、2回目の挑戦になる。

 最初のはうっすら色と味のついた白湯だったからな……。

 今度こそ、ちゃんとお出汁をとりたい!

 そう意気込みながら、お湯の加減を見て昆布を取り出して火を止め、たっぷりの鰹節を加える。

「あとは弱火でしっかり煮出す……と」

「良い感じね」

「良い匂いだな~」

 母親とお父さんにそう言われて、自分的にも良い感じかもと思えた。

 今度こそ成功させるぞ!

 ***

 無事に出汁取りが出来上がり、今は先に入れる具材を鍋に入れて軽く煮込みを終わらせ、調味料を入れてほぼ完成状態にしたところだ。

「うん、美味しい!」

 スープの味見をして、思わず喜びの声を漏らすと、母親もニコッと笑みを返してくれる。

「お父さんにも味見させてくれ」

「だめ! 明日のお楽しみ!」

「えー……そうか……」

 しょぼくれかえっているお父さんを無視して、改めてお雑煮に目を向ける。

 あとは明日、食べる直前に残りの具材を入れて完成!

 明日、食べるのが楽しみだな~と胸を踊らせながらも、ふいにズシッとしたものが頭と心にのしかかる。

 ……明日、いよいよ年を越す。

 つまり、自分が死ぬ時ももうすぐということだ。

 明るく振る舞っているつもりではあるけど、気を抜くとふいに現実が自分の目の前にやってきて、残りの時間をせいぜい楽しむんだなと囁いてくるようだった。

 年末年始はいつも自分の部屋でダラッと過ごして、食事の時間になれば母親の作ってくれた年越しそばやお雑煮を2人だけで何の感情もなくモソモソと食べていた。

 お父さんは年末年始も付き合いやら仕事だと言って、いつも家にはいない。

 それが今は家に両親がいて、わたしもお雑煮づくりになんて挑戦して……初めて家族との年末を過ごせている気がする。

 こんなに楽しいなら、年越しそばもつくってみれば良かったかなと思う。

 でも、母親のつくった年越しそばを最後に味わいたいという思いもあったから、そこは納得してる。

 だって、もう母親の手料理を食べる機会も少ないからね……。

 こんな楽しい時間も、家族で過ごす時間ももう少ない……年末を過ごすのはもう最後なのだと思うと、もっと早くから家族で過ごしたいと言えば良かったという想いが湧いてくる。

 けど、余命1年病になってないわたしがそんなこと言っても、お父さんも母親も聞いてくれなかったかもなと思うと、どうしても自嘲気味な笑みがこぼれてしまう。

「……どうしたの? ひかり?」

 お雑煮を見つめて固まっているわたしを心配したのか、母親がそう声をかけてくる。

 昔の母親だったら、こんな風に声をかけてくることはなかっただろうな。

「出来が心配か? やっぱりお父さんが味見しようか?」

 お父さんもおどけた調子でそう尋ねてくる。

 お父さんがこんなに明るい人だなんて、知らなかったな……。

 そんなことを思って、もう一度笑みをこぼす。

「……明日食べるのが楽しみだね!」

 ぱっと顔を上げ、明るい笑顔を浮かべてそう言う。

 すると母親は「そうね」と穏やかな笑みを浮かべてて、お父さんは「明日までお預けか……」と残念そうにしながらも、食べるのを楽しみにしてくれてるのがとても伝わってきた。

 わたしの最後の年末年始……楽しまないとね!

 暗い感情は心の奥底にしまい込んで、わたしは家族と一緒に楽しく笑いあった。
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