20 / 28
8.魔王を倒した男
後編上
しおりを挟む面接者の発言は基本的に自由です。
逆説的にいえば、それで評価を行うわけですから。
ゲイリーさんは額をかき、唇を湿らせて、重く目をつむりました。
その目も口もゆっくりと開いていきます。
「……魔王討伐は冒険者にとって憧れのようなものです。ある意味では最終目標ともいえます。僕もそのひとりとして、今回の魔王討伐チームに加わりました」
調査をまとめた報告書によると、この討伐成功チームの人数は二百人を超えるものでした。
今回の魔王が出現から十日という早さで倒されたのは、国の魔王認定が早かったのもありますが、この大規模チームによる一斉攻撃が功を奏してのことです。
「実は、僕は二度目の挑戦でした。前回……去年の魔王はほかのチームに先を越されましたから。パーティーの仲間も同じ思いでした。なので今年の魔王出現の知らせがあったときには、皆で奮い立ちました。さっそく準備に取り掛かり、今年の魔王こそ僕たちが倒そうと大規模チームに加入しました」
そして成功しています。
お歳暮のような言い方ですが、今年の魔王も去年の魔王も、この王国に現れこの王国内の冒険者チームにより倒されました。
魔王の出現は毎年あるものとは決まっていませんので、チームの戦力も重要ですが、作戦や準備も早急に進めなければ他の参戦者に遅れをとってしまいます。
冒険者各々の目標は別にして、スポンサーなどの商業的な競争もありますから。
倒せる前提で事が進むこちらの事情を魔王は知っているのでしょうか。面接には関係のないことですが。
「ます、魔王城に爆薬を仕掛けました」
討伐における作戦のようです。
ゲイリーさんは続けます。
「ああ、でも、爆薬の加減はしたんです。魔王ですから、瓦礫の生き埋めにして倒せるなんて誰も思っていないし、問題はその後なので……。魔王城の物件の価値をあまり下げるなと領主から達しがありましたし、チームのスポンサーからは指定の装備品で倒せ、イメージを損ねるな、とうるさく言われていましたから、それに沿って監督が早急に作戦を立てて僕たちで実行したんです」
おおかたの魔王は魔王城に居を構えます。
魔王は大規模構造物クラスの物質構築魔法や、配下にしたモンスターらを使い魔王城を建造しているようですが、なかには去年の魔王のように、天然の岩窟を利用する自然派の魔王もいます。
今年の魔王は、すでにあった地方領主の別荘を大いに改築し、棲み家に選んだようです。
王都からはだいぶ離れた大陸沿岸のイルクナー地方は多くの諸島を有しています。
そのひとつ、さらに離れた孤島なのですが、魔王は陸地の町々を襲った後にこの島の建物を居城にしました。
周囲を見渡せる海が絶景だそうで、魔王城として選ぶ物件は魔王それぞれの趣味嗜好があるのでしょう。
王都からすれば陸を三日と船で二日の距離です。かなり急いでの移動としてですが、このことからも魔王の出現から討伐までその準備の早さが伺えます。
魔王としては短い君臨期間中に絶景の海でも眺めていたのでしょうが、そもそも私有地です。
「魔王城に突入した人数は二百四十人です。目標は王座の間……事前の潜入で魔王はたいてい屋敷中央の大広間に居ると。ですので、その扉前を集合場所としていました。もともとの屋敷の見取り図はあてにならず、魔王がかなり作り変えていたようです。気分が悪くなるほどに巨大で、ばかばかしくなるほど大げさな装飾の扉がありました。そこまでたどり着かず離脱した者もいましたが、約二百人の冒険者が集まりました」
魔王はモンスターを従える能力を持っているとされています。
莫大な瘴気で覆われた大陸から来たので、瘴気を操るすべを持っている。即ちモンスターを瘴気によって従僕させる、との説が有力ですが。当然その魔王城にも多くの強敵モンスターがいたのでしょう。
「僕たちは扉を開けて一斉に乗り込みました。二百人です。攻略のために半数は魔法使い、残りが戦士と僧侶です。僕たち戦士隊は一直線に魔王へ駆けます。配下のモンスターもいたんですが、妨害魔法を専門にする魔法使いが足止めをします。奇襲ですから、大人数で魔王だけに狙いを絞る作戦です。戦士隊は左右に分散し、後方の魔法使い隊が一斉に魔法を打ち込みます。全員が指向性の火属性魔法をひたすら撃ちこみ、笛の合図が鳴ります。チームでは『英雄の笛』と命名しました。本当はただの競技試合で吹かれるホイッスルなんですけどね……。
作戦はシンプルです。笛が長く鳴れば戦士の攻撃、短く何度も鳴れば魔法攻撃。合図は監督が頃合いを見て出します。魔法使いたちが魔法を詠唱している間に戦士隊は物理攻撃、魔法の準備が出来たら一斉発射、その波状攻撃の繰り返しです。魔王に休む間を与えません」
魔王からすると驚いたかもしれません。
冒険者パーティーというと、古典的に思い浮かぶのはまず四人ほどでしょうから。多くてもせいぜい十人いるかどうか。軍隊でも突入時には少数精鋭を選ぶでしょうし。
そこに手練れの冒険者二百名が一度に雪崩れ込んでくるわけですから。
「魔王と呼ばれるだけのことはあって強力な魔力でした。武器がはねのけられ魔法は防がれます。負傷した戦士はいったん退いて僧侶に回復魔法をかけてもらって再び突撃します。大量に支給された回復マジックアイテムも惜しみなく使いました。やはりスポンサーがつくと強いです。正直、無限に攻められるんじゃないかと思ったくらいです。……さすがの魔王も動きが鈍り、魔力は消耗していきます」
ゲイリーさんの話はいまのところ勇者への志望動機につながるとは思えませんが、本人が続けるのであれば聞きます。発言は任意ですので。
「戦士隊には主にふたつの分担がありました。武器で攻撃をする役と、両手足を押さえる役です。目や口に布を押し込む役もいました。凝視攻撃や魔法の詠唱を防ぐためです。
それで魔王の動きを止めた隙に、空いた胴を攻撃します。僕は攻撃の役割でした。しかし相手は魔王です。槍はひしゃげて剣は折れ、スポンサーから渡された手持ちの武器は減っていきます。僕はひたすら槍で突きました。なんていうか、バケツリレーのような感じです。使える武器を受け渡し、正面の戦士が攻撃する。笛が吹かれて魔法攻撃が始まると分散し、まだ使えそうな武器を拾って補充していく、その繰り返しです。
……それでもまだ倒れないんですね。何本も槍は貫通し、見かねた押さえる役は、スポンサー契約外のハンマーで頭部への殴打も重ねました……契約外の件なので、国の調書でも言っていません。ここだけの話です。
みんな必死で攻撃を重ねました。恐怖にも似た感情です。僕も槍で突き続け、そして何度目かの攻撃で魔王の魔力防御を貫通し、動かなくなりました。ついに魔王は、ぐったりと倒れました」
伝説の剣を求め世界をめぐった先時代の勇者が聞いたらどう思うでしょう。
今や魔王討伐にはスポンサーの意向が強く反映されています。
「驚くことにそれでも魔王は息がありました。本当に気味が悪くなりましたよ。魔法銀の鎖で身体中を何重にも縛って、あと目や口もきつく縛りました。魔力の封印石も手持ちを全て……二十個くらいだったと思います、体中に埋め込んで魔力を封じました。新製品だから必ず使って倒せとスポンサーから言われていました。それまで使う余裕がありませんでしたから、魔王が倒れてようやく使えたわけです。いちおう魔王を倒したマジックアイテムということになっていますけど、性能は本当に良かったので助かりました。歴代の勇者はどうやって倒したんだと不思議に思うくらいです」
魔王はスポンサーの意向で倒されたそうです。
「ああ、すみません。ええと、勇者を目指そうと……目指せると考えたのはその瞬間なんです。魔王を倒したんだとチーム全員で喜びました。残った配下のモンスターもいましたけど、それはスポンサーの意向を気にしなくてもいいので、それぞれ愛用の武器や得意な魔法で自由に戦いました。戦力としても、そして戦意としても僕たちが優勢で、親玉の魔王を倒せたんですから。冗談を飛ばし合いながら撃退したくらいです。なんというか、それで自信を……高揚して気が舞い上がっていたんですね、自分は勇者になれると思ったんです」
ゲイリーさん自嘲するように、自分を蔑むように薄く頬を上げました。
なにかを諦めたような表情ともいえます。
ひと月前のできごとですが、現在もそう思っているのでしょうか。勇者を目指しているからこそ、勇者試験を受けてこの面接まで来たはずですが。
魔王討伐の詳細は、王国軍参謀本部の対策室が討伐者への聞き取りを中心に調査書が作成され、各局が協力して最終報告書として一冊にまとめられます。魔王出現から被害、そして討伐に至るまでの全五百頁ほどが資料本として厳重に保管されます。
ゲイリーさんの話はその最終報告書の内容とほぼ一致しています。
スポンサーのくだりは報告書にはない情報ですが、面接における面接者の発言は経歴書とともに情報保護の対象ですので外部へは漏らしませんし報告もしません。
魔王討伐についてその本人であるゲイリーさんの話は私の個人的な興味もあるのですが、これは勇者面接です。勇者として相応しいかを質疑応答の中で判断することが目的です。
「では今後、その勇者を目指す上で理想とする勇者像を教えてください」
「ええと……はい、やはり魔王討伐のように……仲間と力を合わせることと、応援してくれる協力者の存在が大きいと思います。資金面に限ったことではありません。討伐出立の際に、魔王の犠牲者になったひとたち、その家族の声援に見送られたんです。勝利への期待というよりも、恨みを晴らしてくれと言われているようでした。……勇者は、人々の力の代表だと思います。恥ずかしいことに、その時ではなく後になってから、自分たちの受けた声援の重さに気づいたのですが……」
どの調査書にも載っていない情報です。
最終報告書の目的は、魔王についてと以後後世の魔王対策のためです。
討伐者、今回は二百名におよぶのですが、聞き取りの内容はすべて記録されます。それが調査書の中で抄され、最終報告書には実戦に関する戦術を中心に抜粋されるわけです。
討伐者や被害者の心情については記録に残りません。
最終報告書はのちに一部が一般公開され、これをもとに魔王討伐を題材にする刊行物も出版されています。すでにある街の噂話と併せて、おおよそ市民はそういったものから魔王討伐の経緯を知るわけです。
『月刊冒険者伝説』などの雑誌が有名ですが、噂に尾ひれがついたような内容ですので、事実と異なる部分が多くあります。
ですが、正式な報告書こそが真実であるとも限りません。ゲイリーさんのおっしゃるような個人の内情については記されませんから。
ある意味では、尾ひれがついたような刊行物のほうに真実が含まれていることがあるのかもしれません。
事実と真実とは、必ずしも一致しないものですから。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる