「完結」ゾンビと片腕少女はどのように死んだのか特殊部隊員は語る

leon

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第一章 片腕の少女

第四話 病院での死闘

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病院の一室で休息を取るはずだったが、静寂は長く続かなかった。夜半過ぎ、地下から響く不気味な唸り声が俺たちを叩き起こす。高橋が慌てて立ち上がり、扉の方へ駆け寄る。

「やつらが来た!地下からだ!」彼の声が震えている。俺は猟銃を手に、詩織に目配せする。彼女が金属棒を握り、即座に俺の隣に立つ。その目に迷いはない。

「佐藤、田中、援護を頼む。高橋、生存者を集めてバリケードを固めろ。」俺は冷静に指示を出す。特殊作戦群の訓練が体に染みついている。状況が悪化しても、頭は冷える。

だが、次の瞬間、扉が激しく叩かれ、木が軋む音が響く。変異種だ。通常のゾンビとは違う力強さ。高橋が叫びながらテーブルを扉に押し付けるが、間に合わない。扉が砕け、3体の変異種が部屋に飛び込んでくる。瘦せた体躯に異様に長い爪、目は濁りながらも鋭い光を放っている。

「下がれ!」俺が叫び、猟銃を撃つ。1発目で1体の頭を撃ち抜くが、残り2体が素早く動き、生存者たちに襲いかかる。高橋の横にいた女が悲鳴を上げ、首を掻き切られる。血が噴き出し、床を染める。別の男が変異種に飛びかかるが、逆に腹を裂かれ、即死。もう1人の男が逃げようとして背中を刺され、崩れ落ちる。瞬く間に3人が死んだ。

「詩織、左を叩け!」俺は2発目を撃ち、1体を仕留める。同時に、詩織が金属棒で最後の変異種の膝を叩き潰す。動きが止まった隙に、俺がナイフで喉を突き刺す。3体とも沈黙するが、部屋は血と死体で埋め尽くされた。

「くそっ…!」佐藤が拳を握り、田中が震えながら壁に凭れる。高橋は呆然と立ち尽くし、生き残った女――名前は由美だと後で知った――が泣き崩れる。詩織が俺を見る。その目に恐怖が浮かんでいるが、すぐに表情を引き締める。

「おじさん、大丈夫?」彼女が小声で聞く。

「ああ。お前は?」俺が返すと、彼女が頷く。「私、平気。戦えたから。」その言葉に、彼女の過去が重なる。浩二が教えてくれた「生きる術」が、今、彼女を支えている。

地下への決断

生存者の死で部屋は混乱に包まれるが、俺は高橋を掴んで冷静に言う。「地下に何があるか分からないままじゃ、俺たちは全滅する。状況を教えてくれ。」

高橋が震える手で額を拭い、口を開く。「この病院…ゾンビが出る前、感染症の研究施設だった。政府が秘密裏に運営してたって噂があったけど、怪しい実験なんてデマだ。実際は、感染を防ぐための研究所だった。俺、看護師だったから知ってる。ゾンビが広がり始めた時、ここでワクチンを作ろうとしてた。」

「ワクチン?」俺が眉を寄せると、高橋が頷く。

「そう。感染者を調べて、免疫を持つ人間を探してた。抗体があればワクチンを作れるって。でも、失敗した。抗体を持った感染者が変異して、あの速いやつ――変異種になった。元気なゾンビだよ。頭が良くて、動きが速い。ワクチンの試作用に地下で培養してたのが、ゾンビの発生で管理が崩壊して…暴走した。」

「抗体持ちが変異種に…?」佐藤が驚いたように呟く。

「原因は分かったんだ。ワクチンの試作過程で、抗体が感染を抑えるどころか、ウイルスと共存する形で強化しちまった。ゾンビなのに人間の知能の一部が残ってる。失敗作だよ。」高橋の声に悔しさが滲む。

俺は頭を整理する。特殊作戦群時代、生物兵器の失敗例を聞いたことがある。意図せず敵を強化してしまうケース。皮肉なことに、この病院は人類を救うつもりで地獄を作り出したわけだ。

「地下にどれくらいいる?」俺が聞くと、高橋が首を振る。

「分からない。10体以上は確実。ゾンビが病院を襲った時、地下の封鎖が解けて出てきた。俺たち、逃げ込むしかなかった。」

「なら、地下を封鎖するか、変異種を全部始末するしかない。」俺は決断を下す。このままじゃ病院は持たない。生存者5人のうち3人が死に、残りは俺、詩織、佐藤、田中、高橋、由美の6人。戦力は少ないが、やるしかない。

「おじさん、私も行くよ。」詩織が言う。彼女の目に覚悟が見える。

「お前はここで――」俺が制止しようとすると、彼女が遮る。

「父ちゃんが死んだ時、私、何もできなかった。隠れて泣いてただけ。でも、今は違う。おじさんと一緒に戦いたい。」彼女の声に、過去の記憶が滲む。浩二が死んだ日、彼女は避難所の隅で震えていた。あの時、俺は彼女を連れて逃げたが、彼女の心には無力感が残ったらしい。

「…分かった。一緒に行く。ただし、俺の指示を聞け。」俺は頷く。彼女が小さく笑う。「うん。おじさんなら信じられる。」

地下への突入

翌朝、俺たちは地下へ向かう準備を整える。猟銃の弾は15発、佐藤のライフルは10発、ナイフと金属棒が俺と詩織の武器。田中と由美は鉄パイプとバールを持ち、高橋が懐中電灯と地図を手に持つ。地下への入り口は病院の裏にある非常階段。錆びた扉が軋みながら開く。

「気をつけろ。変異種は頭がいい。罠を仕掛けてる可能性もある。」俺は全員に警告し、先頭に立つ。階段を下りると、湿った空気と腐臭が鼻をつく。懐中電灯の光がコンクリートの壁を照らし、血痕と爪痕が目に入る。

地下1階に着くと、研究室らしき部屋が並ぶ。ガラスが割れ、机や椅子が散乱している。奥から低い唸り声。俺は全員に停止を指示し、様子を窺う。暗闇の中、変異種が2体現れる。動きが速く、こちらを認知してる様子だ。

「佐藤、右を撃て!詩織、左を叩け!」俺が叫び、猟銃を構える。佐藤がライフルで1体の頭を撃ち抜き、俺がもう1体の胸を撃つ。だが、胸では止まらず、変異種が飛びかかってくる。詩織が金属棒で足を叩き、動きを封じる。俺がナイフで首を切り裂く。

「頭じゃないと駄目だ…弾がもったいない。」俺は舌打ちする。高橋が震えながら言う。「実験データには、頭部へのダメージが有効って書いてあった。」

「なら、狙いを絞れ。無駄撃ちは避けろ。」俺は指示を出し、さらに奥へ進む。研究室の奥に、封鎖された扉がある。血の手形が無数についている。間違いなく変異種の巣だ。

詩織の覚悟

扉の前で、俺は詩織に言う。「お前、ここで待機してもいい。無理するな。」

彼女が首を振る。「おじさん、私、父ちゃんが死んだ日のこと、ずっと忘れられない。あの時、父ちゃんは私を庇ってゾンビに突っ込んでった。私、逃げるしかできなかった。でも、今は違う。おじさんを守りたい。父ちゃんみたいに。」

その言葉に、俺は浩二の最後の姿を思い出す。あいつは詩織を避難所に押し込み、俺に「頼む」と言い残して死にに行った。俺はあの時、あいつを止められなかった。その無力感が今でも胸を刺す。

「お前がそう言うなら、俺は止める権利ねえよ。一緒に戦おう。」俺はそう答え、彼女の肩を叩く。彼女が笑う。「うん。父ちゃん、見ててくれるかな。」

「見てんだろ。あいつなら、お前を誇りに思うよ。」俺はそう言い、扉に手を掛ける。

変異種の巣

扉を開けると、暗闇の中から変異種の群れが現れる。数は10体以上。唸り声と爪が擦れる音が響き、俺たちは即座に戦闘態勢を取る。佐藤がライフルで1体を仕留め、俺が猟銃で2体を狙う。詩織が俺の左で金属棒を振り、田中と由美が側面を固める。高橋が懐中電灯で照らし、敵の位置を伝える。

戦いは熾烈だ。変異種は通常のゾンビより賢く、連携を取ってくる。1体が俺に飛びかかり、もう1体が詩織を狙う。俺はナイフで1体を仕留め、詩織が金属棒で応戦する。彼女の動きが鋭い。過去の無力感を振り払うように戦っている。

「詩織、右!」俺が叫ぶと、彼女が即座に反応し、変異種の頭を叩き潰す。血が飛び散り、彼女の顔を汚すが、彼女は怯まない。

戦いが続く中、奥に実験データの残骸が見える。俺は高橋に叫ぶ。「データを持ってけ!これで終わりだ!」

高橋がデータを掴み、俺たちは撤退を始める。変異種を全て倒すのは不可能だ。だが、地下を封鎖する爆薬があれば――。
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