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第三章 希望
第二十話 未来を支える希望
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佐伯一尉は深く息を吐きながら、戦場の様子を確認した。周囲には撃ち倒されたゾンビたちが転がっている。
彼はゆっくりと肩を回し、銃の残弾を確認しながら、ふと昔の戦場を思い出していた。
あの頃も、夜の闇に潜みながら敵の動きを探っていた。特殊作戦群の一員として、何度も極限の戦場に身を置いた。イラク、アフガニスタン……。
「……変わらんな」
どんな敵を相手にしても、やることは同じだった。戦い、生き延びる。そして仲間を守る。それが彼の戦場での役割だった。
だが、今の状況は当時とは決定的に違う。
敵は人間ではない。
交渉も、説得も、威嚇も効かない。止めなければ、どこまでも襲いかかってくる。撃ち続けなければならない。
そして、今回の戦いには、かつてのような後方支援も、補給もない。頼れるのは、自分たちの手持ちの武器と弾薬だけ。
「……偵察隊は無事に向かっているだろうか」
彼はふと、移動しているはずの仲間たちのことを考えた。
石田二尉は冷静な判断ができる男だ。かつての戦友もいる。だが、彼らだけではない。民間人や子どもたちを連れての移動だ。想定外の事態が起きれば、どれほど訓練を積んだ兵士でも、対処しきれない可能性がある。
「……焦っても仕方ない。俺たちはここを守るだけだ」
独り言のように呟きながら、彼は再びナイトビジョンを装着し、周囲を確認した。
闇の中、まだ動く影はない。
しかし、この静寂は嵐の前の静けさにすぎない。
佐伯一尉は小さく息を吐き、再び銃を構えた。
「来るなら、来い……」
その眼差しには、幾多の戦場を生き延びてきた男の覚悟が宿っていた。
突然、無線が鳴った。「こちら前衛、北側からの群れを確認、約50体のゾンビ……変異種も数体混じっている。配置につけ!」
「了解、全員持ち場を確認しろ! 弾薬の節約を心がけ、ヘッドショットを優先!」
佐伯一尉は迅速に指示を出し、射撃位置についた隊員たちの動きを確認した。塹壕の中に身を隠し、遮蔽物の影からナイトビジョンで敵の動きを捕捉する。
ゾンビの群れは密集して移動してくる。その中に異様に大柄な変異種が混じっているのが確認できた。
「まずは数を減らせ、変異種は後回しだ!」
佐伯一尉の号令とともに、一斉射撃が始まった。銃口から吐き出される銃弾が夜の闇を切り裂き、ゾンビの頭部を撃ち抜いていく。だが、それでも彼らは進んでくる。
「距離20メートル、変異種接近中!」
前衛の一人が叫ぶ。巨体の変異種が他のゾンビを押しのけるように突進してくる。佐伯一尉は冷静に狙いを定め、連射。弾丸は変異種の頭部に直撃し、巨体が鈍い音を立てて倒れた。
「怯むな! 続けろ!」
次々とゾンビが倒れるが、後方からまた押し寄せてくる。弾薬が尽きる危険が頭をよぎる。
「接近戦に備えろ! 刃物を持て、背後を守れ!」
佐伯一尉の指示に従い、隊員たちは銃剣やナイフを構える。やがて最後のゾンビが倒れ、静寂が戻った。
ゾンビの群れが完全に制圧され、掩蔽壕の周囲には一時の静寂が訪れた。銃声が鳴り止み、闇夜に微かに聞こえるのは、風に揺れる草木の音だけ。
佐伯一尉は4眼式ナイトビジョンを上げ、周囲を確認する。銃を構える隊員たちも徐々に緊張を解き、無線で状況を報告し合っていた。彼らの訓練された動きが、戦闘の混乱を抑え、周到な警戒を保っている。
「全員、異常なし。ゾンビの群れは制圧完了しました」
報告が届くと、佐伯一尉はわずかに頷いた。
「よし、これでひとまずの脅威は去った。引き続き警戒を続けろ」
その声は冷静でありながらも、どこか安堵の色が混じっていた。
一方、掩蔽壕の奥深く、指揮室には小野田官房副長官が佇んでいた。大きな地図が壁に貼られ、赤い印で現在の状況が示されている。
彼の表情は険しく、深いシワが刻まれた額には汗が滲んでいた。眼鏡の奥の瞳は虚空を見つめ、わずかに震えている。
「……これが、我々の国の現実なのか」
小野田は自分に問いかけるように呟いた。
彼は政治家であり、かつては外交交渉や政策立案の場で数々の難局を乗り越えてきた。しかし、今目の前にあるのは、未知の脅威に対する戦い。理屈も、理想も通用しない現実が彼を追い詰めていた。
佐伯一尉の冷静な報告が彼の耳に届いた時、一瞬だけ肩の力が抜けた。
「……佐伯君たちはよくやってくれている。だが、あの偵察隊は……」
彼の脳裏に浮かぶのは、移動している偵察隊の姿だ。石田二尉、そして元特殊作戦群の男……彼らに頼らざるを得ない状況が、小野田の無力感を一層強めていた。
「私に、もっと力があれば……」
彼は唇を噛み締める。政治の力では、この未曾有の危機に対応することができない。国としての統制が崩れ、各地は混乱と絶望に包まれている。官房副長官として、国民の命を守る責務があるにも関わらず、何もできない自分がそこにいた。
だが小野田は震える拳を握りしめ、国を立て直す覚悟を胸に刻んだ。
彼はゆっくりと肩を回し、銃の残弾を確認しながら、ふと昔の戦場を思い出していた。
あの頃も、夜の闇に潜みながら敵の動きを探っていた。特殊作戦群の一員として、何度も極限の戦場に身を置いた。イラク、アフガニスタン……。
「……変わらんな」
どんな敵を相手にしても、やることは同じだった。戦い、生き延びる。そして仲間を守る。それが彼の戦場での役割だった。
だが、今の状況は当時とは決定的に違う。
敵は人間ではない。
交渉も、説得も、威嚇も効かない。止めなければ、どこまでも襲いかかってくる。撃ち続けなければならない。
そして、今回の戦いには、かつてのような後方支援も、補給もない。頼れるのは、自分たちの手持ちの武器と弾薬だけ。
「……偵察隊は無事に向かっているだろうか」
彼はふと、移動しているはずの仲間たちのことを考えた。
石田二尉は冷静な判断ができる男だ。かつての戦友もいる。だが、彼らだけではない。民間人や子どもたちを連れての移動だ。想定外の事態が起きれば、どれほど訓練を積んだ兵士でも、対処しきれない可能性がある。
「……焦っても仕方ない。俺たちはここを守るだけだ」
独り言のように呟きながら、彼は再びナイトビジョンを装着し、周囲を確認した。
闇の中、まだ動く影はない。
しかし、この静寂は嵐の前の静けさにすぎない。
佐伯一尉は小さく息を吐き、再び銃を構えた。
「来るなら、来い……」
その眼差しには、幾多の戦場を生き延びてきた男の覚悟が宿っていた。
突然、無線が鳴った。「こちら前衛、北側からの群れを確認、約50体のゾンビ……変異種も数体混じっている。配置につけ!」
「了解、全員持ち場を確認しろ! 弾薬の節約を心がけ、ヘッドショットを優先!」
佐伯一尉は迅速に指示を出し、射撃位置についた隊員たちの動きを確認した。塹壕の中に身を隠し、遮蔽物の影からナイトビジョンで敵の動きを捕捉する。
ゾンビの群れは密集して移動してくる。その中に異様に大柄な変異種が混じっているのが確認できた。
「まずは数を減らせ、変異種は後回しだ!」
佐伯一尉の号令とともに、一斉射撃が始まった。銃口から吐き出される銃弾が夜の闇を切り裂き、ゾンビの頭部を撃ち抜いていく。だが、それでも彼らは進んでくる。
「距離20メートル、変異種接近中!」
前衛の一人が叫ぶ。巨体の変異種が他のゾンビを押しのけるように突進してくる。佐伯一尉は冷静に狙いを定め、連射。弾丸は変異種の頭部に直撃し、巨体が鈍い音を立てて倒れた。
「怯むな! 続けろ!」
次々とゾンビが倒れるが、後方からまた押し寄せてくる。弾薬が尽きる危険が頭をよぎる。
「接近戦に備えろ! 刃物を持て、背後を守れ!」
佐伯一尉の指示に従い、隊員たちは銃剣やナイフを構える。やがて最後のゾンビが倒れ、静寂が戻った。
ゾンビの群れが完全に制圧され、掩蔽壕の周囲には一時の静寂が訪れた。銃声が鳴り止み、闇夜に微かに聞こえるのは、風に揺れる草木の音だけ。
佐伯一尉は4眼式ナイトビジョンを上げ、周囲を確認する。銃を構える隊員たちも徐々に緊張を解き、無線で状況を報告し合っていた。彼らの訓練された動きが、戦闘の混乱を抑え、周到な警戒を保っている。
「全員、異常なし。ゾンビの群れは制圧完了しました」
報告が届くと、佐伯一尉はわずかに頷いた。
「よし、これでひとまずの脅威は去った。引き続き警戒を続けろ」
その声は冷静でありながらも、どこか安堵の色が混じっていた。
一方、掩蔽壕の奥深く、指揮室には小野田官房副長官が佇んでいた。大きな地図が壁に貼られ、赤い印で現在の状況が示されている。
彼の表情は険しく、深いシワが刻まれた額には汗が滲んでいた。眼鏡の奥の瞳は虚空を見つめ、わずかに震えている。
「……これが、我々の国の現実なのか」
小野田は自分に問いかけるように呟いた。
彼は政治家であり、かつては外交交渉や政策立案の場で数々の難局を乗り越えてきた。しかし、今目の前にあるのは、未知の脅威に対する戦い。理屈も、理想も通用しない現実が彼を追い詰めていた。
佐伯一尉の冷静な報告が彼の耳に届いた時、一瞬だけ肩の力が抜けた。
「……佐伯君たちはよくやってくれている。だが、あの偵察隊は……」
彼の脳裏に浮かぶのは、移動している偵察隊の姿だ。石田二尉、そして元特殊作戦群の男……彼らに頼らざるを得ない状況が、小野田の無力感を一層強めていた。
「私に、もっと力があれば……」
彼は唇を噛み締める。政治の力では、この未曾有の危機に対応することができない。国としての統制が崩れ、各地は混乱と絶望に包まれている。官房副長官として、国民の命を守る責務があるにも関わらず、何もできない自分がそこにいた。
だが小野田は震える拳を握りしめ、国を立て直す覚悟を胸に刻んだ。
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