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第三章 希望
第二十四話 灯の果てに
しおりを挟む「これで電力が復旧できるな」
制御盤のある部屋にたどり着くと、大石が手際よく燃料をセットし、発電機のスイッチを操作した。数秒の沈黙の後、低く唸るような音が響き、かすかな振動が床を伝う。
「……よし、動いた!」
直後、廊下の天井に設置された非常灯がぼんやりと点灯し、暗闇が少しずつ後退していく。
「……とりあえず、これで地上の電力も復旧するはずだな」
石田二尉がそう言いながら制御盤を確認する。大石が頷き、「問題ない、しばらくは持つはずだ」と安心させるように言った。
「じゃあ、戻るとするか」
階段を上がると、地上のフロアには非常灯が点いており、ぼんやりとした明かりが周囲を照らしていた。俺たちの帰還に気づいた仲間たちが、次々と駆け寄ってくる。
「おじさん!」
詩織が安堵の表情を浮かべ、俺の腕を軽く叩く。
「大丈夫だったか」俺が尋ねると、美奈子が肩をすくめる。
「こっちは特に問題なし。でも、そっちはずいぶん派手にやったみたいね」
「まぁな……」
俺が肩を回しながら言うと、佐藤が驚いたように口笛を吹く。
「流石だな!」
山口一曹が笑いながら佐藤の肩を叩く。その空気につられて、全員が少しだけ緊張を解いたようだった。
「ともかく、電気が戻ったってことは、少しは状況がマシになる」石田二尉が言う。「今のうちに休める者は休んでおけ。次の問題に備えるためにもな」
確かに、戦いはまだ終わっていない。だが、この瞬間だけは、生き延びたことを喜んでもいいだろう。俺は仲間たちの顔を見渡し、静かに頷いた。
「……よくやったな、みんな」
疲労はあったが、それ以上に、今ここに仲間たちがいることが嬉しかった。
「ひとまず、休もう。もうじき夜明けだ」
俺たちは疲れ切った体を引きずりながら、一旦安全なスペースへと戻った。防衛を固めるために最低限の見張りを配置し、残りの者は仮眠を取る。
この戦いで負った疲労は相当なものだったが、今は少しでも体を休めることが重要だった。
——そして、明け方。
俺たちが交代で見張りをしていると、遠くからかすかな足音が聞こえた。
「……誰か来ます」
佐々木隊員が立ち上がり、懐中電灯を向ける。暗闇の中、疲れ果てた民間人の姿が浮かび上がった。30人ほどの男女、子供も混じっている。彼らはボロボロの服を身にまとい、疲弊しきった表情でこちらを見つめていた。
「助けてくれ……!」
先頭の男が弱々しく声を絞り出す。俺たちはすぐに状況を察し、急いで入り口へと向かった。
「……ゾンビの群れに追われた。必死に逃げてきたが、もう体力も限界を迎えた時に遠くで光が見えたんだ。助かるかもしれないと思って、みんなでここに向かう事にしたんだ」
男は息を切らしながら答えた。
「とにかく中へ入れ! ここなら安全だ!」
俺の言葉に、民間人たちは次々と建物内へ駆け込んでくる。俺たちは彼らを誘導しつつ、周囲の様子を警戒した。
「追ってくる気配は……今のところないな」
山口一曹が周囲を見渡しながら呟く。どうやら、ゾンビの群れとは距離を取れたようだ。
「しばらくここで休め。状況を整理したら、また話を聞かせてくれ」
俺たちは民間人たちを地下へと誘導した。疲労の色が濃く、足元もおぼつかない者が多い。とくに子供たちはぐったりとした様子で、まともに歩ける者はほとんどいなかった。
「水と食料を分けてやれ」
石田二尉の指示で、美奈子と詩織が備蓄していた飲料水と非常食を配り始める。ペットボトルの水を受け取ると、生存者たちは貪るように口へ運んだ。
「食い物も少ないが、今は遠慮するな。体力を回復させろ」
俺は子供の一人にクラッカーの入った袋を渡した。彼は一瞬戸惑ったように俺を見上げたが、すぐに袋を握りしめ、小さく「ありがとう」と呟いた。
「それで……状況を整理しよう」
俺は生存者たちの中でリーダー格の男を見つけ、話を聞いた。彼は60代半ばくらいの男で、やつれた顔には深い疲労の色が滲んでいた。
「俺は神田、元消防士でここにいるのは、俺の家族や近所の人たちだ」
「どうやって生き延びていた?」
「最初は街の避難所にいたんだ。だが、そこも崩壊して、俺たちは散り散りになった。何とか生き延びて、今まで身を隠していたが……昨日、ゾンビの大群に見つかったんだ」
神田の視線が彷徨い、思い出すのも苦しそうに息をつく。
「道中で何人もやられた……」
「だが、こうして助かった。あんたたちには感謝してる」
「礼はいい」俺は手を振った。「今は生存者が増えたことを喜ぶべきだ」
佐々木隊員が周囲を見回しながら言った。「しかし、30人となると物資の消費も増えますね……」
「確かにこのホテルの備蓄だけじゃ長くは持たないな」山口一曹が腕を組む。「どこかで補給を考えた方がいい」
石田二尉が顎に手を当て、考え込む。
「いずれにせよ、まずは休息が必要だな。皆、今はゆっくり休んでくれ」
生存者たちは安心したのか、ようやく座り込んで肩の力を抜いた。
「……よし、見張りは俺たちがやる。お前らは少しでも眠っておけ」
戦いの疲労が残る俺たちは、それぞれ順番に交代で休息を取ることにした。
朝日が昇り始める頃、新たな課題とともに、新しい一日が始まろうとしていた。
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