「完結」旦那が家に帰ったら美青年になっていた

leon

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第一話 帰ってきたら美青年!

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「ただいま~」

いつもと変わらない金曜日の夕方。春菜は仕事の疲れをため息と一緒に吐き出しながら、マンションの鍵を開けた。

週末の計画をあれこれ考えながら靴を脱いでいると、リビングから聞き慣れない声が返ってきた。

「おかえり」

春菜は足を止めた。夫の和也の声のはずなのに、どこか違う。より低く、より滑らかな、どこかで聞いたことのあるような声だった。

「和也?」

リビングに足を踏み入れた春菜の目に飛び込んできたのは、ソファに座る見知らぬ美青年の姿だった。

黒髪はサラリとなびき、シャープな顎のライン、高い鼻筋、そして澄んだ瞳。まるで雑誌から抜け出してきたようなその男性は、和也が普段着ているパジャマを身にまとっていた。

春菜は思わず玄関に向かって逃げようとしたが、男性が立ち上がり、慌てて声をかけた。

「春菜、違うんだ!僕だよ、和也だよ!」

その仕草は確かに夫の和也のものだった。春菜は混乱して、その場に立ち尽くした。

「嘘でしょ...あなた、本当に和也なの?」

男性――いや、和也らしき人物は、苦笑いしながら頷いた。

「朝起きたら、こうなってたんだ」

春菜は信じられない思いでソファに腰を下ろした。目の前の美青年が、昨日までの少しぽっちゃりとした平凡な夫だというのだ。

「でも...どうして?」

「わからないんだ」和也は肩をすくめた。「朝、鏡を見たら見知らぬイケメンが映っていて...最初は自分じゃないと思ったよ」

春菜は和也の顔をじっくりと観察した。確かに、どこか和也の面影はある。特に笑った時の目の周りのしわの寄り方は、和也そのものだった。しかし、それ以外はまるで別人のように整った顔立ちになっていた。

「病院には行ったの?」

「行くべきかな?でも何て説明すればいいのか...」和也は困ったように髪をかき上げた。その仕草さえも様になっていて、春菜は思わず目を奪われた。

「とりあえず、ご飯食べる?冷蔵庫にカレーの残りがあるはずだけど...」

和也の言葉に、春菜はハッとした。声は違えど、言うことは変わらない平凡な夫だった。

「ええ、そうね...」

その夜、春菜は隣で眠る美青年の横顔を見つめながら、不思議な気持ちに襲われていた。五年間連れ添った夫が、突然モデルのような容姿になるなんて...これは夢なのだろうか。

翌朝、春菜が目を覚ますと、和也はすでに起きていた。キッチンからは朝食の支度をする音が聞こえてくる。

リビングに行くと、和也は昨日と同じ美青年の姿のままだった。もしかしたら一夜限りの出来事かと期待していた春菜は、少しがっかりした。

「おはよう」和也は爽やかな笑顔で春菜に挨拶した。「トーストとスクランブルエッグ作ったよ」

「ありがとう...」

朝食を食べながら、春菜は和也に昨日の様子を詳しく聞いた。しかし、特に変わったことはなかったという。普通に仕事をして、普通に帰宅し、普通に眠りについた。そして朝起きたら、こうなっていたのだという。

「でも、このままじゃ会社に行けないよね?」春菜が言うと、和也は深刻な顔をした。

「そうなんだ...今日は在宅勤務にしておいたけど、月曜日からどうしよう...」

確かに、急に容姿が変わってしまったら、誰も信じないだろう。身分証明書の写真とも全く違う。

「とりあえず、今日は家にいる?」

「うん、君は?」

「私は友達と買い物の約束があるの...」

その時、春菜のスマホが鳴った。友達の美奈子からのメッセージだった。

「春菜ちゃん、今日のショッピング、旦那さんも一緒にどう?紹介してほしいって皆言ってるよ♪」

春菜は困惑した。友達には和也のことを話していたが、今の状況をどう説明すればいいのか分からなかった。

「どうしよう...」

和也は春菜の様子に気づき、覗き込んできた。

「何かあった?」

「友達が...あなたも一緒に来ないかって」

「僕が?でも、この姿じゃ...」

春菜は考え込んだ。確かに、今の和也を紹介するわけにはいかない。しかし、キャンセルするのも気が引けた。

「じゃあ...一人で行くわ。あなたはゆっくり休んでて」

「そうだね...ごめんね」

和也は申し訳なさそうに笑った。その表情があまりにも魅力的で、春菜は思わず見とれてしまった。

「あの...春菜?」

「え?あ、ごめん...」春菜は慌てて視線をそらした。「それじゃ、行ってくるね」

春菜が出かけた後、和也はリビングのソファでぼんやりとテレビを見ていた。自分の身に何が起きたのか、全く見当がつかない。

そのとき、インターホンが鳴った。

和也は困惑した。誰も来る予定はなかったはずだ。おそるおそる玄関に向かい、モニターを覗くと、春菜の母親・和子の姿があった。

「え...」

和也は焦った。義母の和子は春菜に似て、かなりの勘の良さを持つ女性だ。このままでは怪しまれるに違いない。

しかし、逃げるわけにもいかず、和也は意を決して玄関のドアを開けた。

「あ、こんにちは...」

和子は目の前の美青年を見て、一瞬きょとんとした顔をした。

「あら?春菜の旦那さん...じゃないわね?」

「いえ、その...実は...」

和也は言葉に詰まった。どう説明すればいいのか。

「私、和也です...」

和子は信じられないという顔で和也を見つめた。

「冗談はよしてちょうだい。和也君はもっと...」和子は言いかけて言葉を飲み込んだ。「違う人よね?」

「いえ、本当に和也なんです。証明できることがあります」和也は必死に考えた。「去年のクリスマス、お母さんからセーターをいただきました。灰色で、袖口に小さな穴が開いていて、お母さんが『ごめんなさい』って言ったけど、僕は『気にしないでください』って言いました」

和子の目が大きく見開かれた。

「そんなこと...知っているはずがない...」

「僕です、お母さん。信じられないと思いますが...」

和子はゆっくりと部屋に入った。そして、和也の顔をじっくりと観察し始めた。

「目の周りのしわ...確かに和也君に似ているわ...」

「そうなんです。朝起きたら、こうなっていたんです」

和子は椅子に腰掛け、深いため息をついた。

「まあ、座りなさい。いったい何があったのか、全部話してちょうだい」
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