「完結」旦那が家に帰ったら美青年になっていた

leon

文字の大きさ
2 / 6

第二話 病院の診察へ!

しおりを挟む
買い物から帰ってきた春菜は、和也と義母が仲良く談笑している光景を目にして驚いた。
「お母さん!?いつ来たの?」
和子は穏やかな笑顔で娘を見上げた。
「ちょっと前よ。あなたのご主人と話していたところ」
「え…あの…」春菜は困惑した。和也のことを義母はどう思ったのだろう。
「大丈夫よ、全部聞いたわ」和子は穏やかに言った。「信じられない話だけど、あの灰色のセーターのことまで知っているのよ」
春菜はほっとした表情で和也を見た。和也も安堵の表情を浮かべている。
「それで、お母さんは…この状況をどう思う?」
和子は考え込むような表情をした後、にっこりと笑った。
「まあ、見た目が変わっただけなら、それほど悪いことでもないんじゃないかしら」
「お母さん!」
「冗談よ」和子は笑いながら立ち上がった。「でも、病院には行った方がいいわね。明日、私の知り合いの先生を紹介するわ」
和子が帰った後、春菜と和也はソファに並んで座った。
「友達との買い物はどうだった?」和也が聞いた。
「うん、普通に…」春菜は少し言いよどんだ。「美奈子があなたのことをしつこく聞いてきたけど、適当にごまかしておいたわ」
「そっか…」
静かな沈黙が流れた。
「このまま…元に戻らないかもしれないね」和也がぽつりと言った。
「そうね…」
春菜は複雑な思いに駆られていた。もちろん、和也が元の姿に戻ることを望んでいる。しかし同時に、今の美青年の姿にも惹かれている自分がいる。そんな自分に罪悪感も感じていた。
「春菜、正直に言って…」和也が真剣な目で春菜を見つめた。「今の僕の方がいい?」
春菜は言葉に詰まった。
「そんなこと…」
「正直に言って」
春菜は深呼吸した。
「あなたはあなた。見た目なんて関係ないわ」
和也はほっとしたような、少し物足りないような複雑な表情をした。
「ありがとう。でも、正直に言うと…僕も少し混乱しているんだ」
「どういうこと?」
「この姿になってから、なんだか自信が湧いてくるというか…」和也は言葉を探しながら続けた。「街を歩いていても、みんなの視線が違うし、自分自身の感じ方も変わってきているような気がするんだ」
春菜は和也の言葉に考え込んだ。確かに、外見が変われば、周囲の反応も変わる。そして、それが自分自身の在り方にも影響するのかもしれない。
「それって…良いこと?」
「わからない…」和也は正直に答えた。「でも、この機会に新しい自分を見つけられるかもしれないと思うと、少し…ワクワクしている」
春菜はそんな和也の顔を見つめた。五年間連れ添った夫の、知らなかった一面を見る思いだった。


翌日、和子の紹介で総合病院の内科医・田中先生の診察を受けることになった。
「ふむ…」田中先生は和也の顔をじっくりと観察した後、様々な検査を行った。血液検査、X線、CTスキャンなど、可能な限りの検査をしたが、異常は見つからなかった。
「坂本さん、正直に申し上げて、医学的には説明がつかない現象です」田中先生は困惑した表情で言った。「身体的には全く健康で、DNAも確かにあなたのものです。しかし、骨格や筋肉、皮膚の状態が…一晩で変化するということは、通常ありえません」
「つまり…」
「つまり、医学では説明できない現象だということです」田中先生は眼鏡を直した。「民間療法や…その…超常現象的なことを疑わざるを得ません」
春菜と和也は顔を見合わせた。
「まあ、健康上の問題はないようですので、経過観察ということで…」田中先生は少し困ったように付け加えた。「何か変化があればすぐに連絡してください」
病院を後にした二人は、近くのカフェに入った。
「医者でも分からないなんて…」春菜はコーヒーをかき混ぜながら言った。
「うん…」和也は窓の外を見つめていた。「でも、健康に問題はないみたいだからね」
「そうね…」
しばらく沈黙が続いた後、和也が突然言った。
「春菜、明日から会社行こうと思う」
「え?でも、その姿では…」
「もう三日も休んでいるし、このまま休み続けるわけにもいかないでしょ」和也は真剣な表情で言った。「それに…いつ元に戻るか分からないんだから、このままでも生活していかないと」
春菜は心配そうな顔をした。
「でも、会社の人たちは信じてくれるの?」
「正直に話すしかないよ。DNA検査の結果もあるし…」
春菜はため息をついた。確かに、いつまでも隠れているわけにはいかない。
「分かったわ…でも、何かあったらすぐに連絡してね」
「うん、ありがとう」
その晩、春菜は眠れずにいた。隣で眠る和也の横顔を見つめながら、これからどうなるのかという不安と、新しい和也との生活への期待が入り混じった複雑な感情に揺れていた。
翌朝、和也は緊張した面持ちで会社へと出かけていった。春菜も自分の職場へ向かったが、一日中和也のことが気になって仕方がなかった。
昼休み、春菜のスマホに和也からのメッセージが届いた。
「大丈夫。みんな驚いていたけど、証拠を見せたら信じてくれたよ。課長は『せっかくだから営業部に異動しないか』って言ってた(笑)」
春菜は思わず笑ってしまった。和也は元々経理部で働いていたが、人見知りな性格もあり、営業は向いていないと言っていた。しかし、今の彼ならどうだろう。
その日の夕方、春菜が帰宅すると、和也はすでに帰っていて、キッチンで何やら料理をしていた。
「ただいま」
「おかえり」和也は振り返り、笑顔で迎えた。その笑顔に春菜はまだ慣れないものを感じた。
「会社、どうだった?」
「うん、最初は大変だったけど…」和也はパスタを鍋から上げながら言った。「みんな意外と受け入れてくれたよ。むしろ『羨ましい』って」
「そう…」
「それにね、今日、不思議なことがあったんだ」和也は少し興奮した様子で言った。「営業会議で、いつもなら絶対に発言できないようなアイデアを、すらすら話せたんだ。そしたら、部長が『それいいね!』って採用してくれて…」
春菜は驚いた。和也がそんな風に仕事で積極的になるなんて。
「それは素晴らしいじゃない」
「うん…」和也は少し考え込むような表情をした。「なんだか、外見が変わっただけなのに、中身まで変わってきているような…そんな気がするんだ」
春菜はその言葉に何か言いかけたが、やめた。和也の料理を食べながら、彼の話を聞くことにした。これまでにない生き生きとした表情で仕事の話をする和也を見ていると、春菜の中にも複雑な感情が湧き上がってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

【完結済】侯爵令息様のお飾り妻

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―

喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。 そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。 二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。 最初は手紙も返ってきていたのに、 いつからか音信不通に。 あんなにうっとうしいほど構ってきた男が―― なぜ突然、私を無視するの? 不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、 突然ルイスが帰還した。 ボロボロの身体。 そして隣には――見知らぬ女。 勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、 私の中で何かが壊れた。 混乱、絶望、そして……再起。 すがりつく女は、みっともないだけ。 私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。 「私を簡単に捨てられるとでも? ――君が望んでも、離さない」 呪いを自ら解き放ち、 彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。 すれ違い、誤解、呪い、執着、 そして狂おしいほどの愛―― 二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。 過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。

処理中です...