上 下
69 / 93
幕末妖怪の章

雛妃家出する

しおりを挟む

「何で駄目なの?!」

「駄目だ!!」

「だから何でって聞いてるの!!」

「中々終わりませんわね。」

「あれは長引くね。」

「左之さん人事じゃないよ?とばっちりは俺達に来るんだぞ?」

「平助の言う通りだ。そうじゃなくても雛妃の妖気がヤバいのに。」
はぁ~と永倉は溜息を吐いた。
かれこれ小一時間、雛妃と土方、近藤の攻防が繰り広げられていた。
事は雛妃が奈緒に会いに行きたいと言い出した事から始まった。
虹龍と言う貴重な存在の雛妃を近藤達はあまり屋敷から出したくなかったのだ。
しかし、雛妃の性格上それは無理と言うものだった。

「雛妃、もう雛妃は一人の身体じゃないんだよ?」
優しく諭す近藤に雛妃は自分の身体を抱き締めた。

「嫌だ!いっちゃん何破廉恥な事言ってるのよ!」
近藤はハッとした顔で顔を赤らめ全力で両手を前で振った。

「ち、違う!私はそんな事は言ってないよ?!何かあったらどうするんだい?龍の姫に何かあったら私達は先見の龍に顔向け出来なくなってしまうよ!」

「何よ!!姫、姫、姫って!!もううんざり姫なんて辞めてやるわよ!!お父さんの許しがあれば良いの?!なら今すぐ聞いてくるわよ?」

「駄目だ、そう言う事を言ってんじゃねえ。俺達は雛妃を守らなきゃならねえ、心配してんだよ。」

「ひいちゃんは駄目ばっかり。なら私は死ぬまでこの屋敷に閉じこもってれば良いの?私死ぬわよ?」
これに全員ギョッとした。
閉じ込められた雛妃がストレスで自害…想像出来すぎるのだ。

「雛妃!死ぬなんて言うなよ!折角寿命がすげえ伸びたのに!」
ん?聞き捨てならない。

「へーちゃん私寿命伸びたの?」

「はっ?当たり前だろ?龍族だぞ?」

「因みにどのくらい?」

「う~ん…龍族は基本超長寿だからなぁ。雛妃はしかも虹龍だろ?数千年は生きるだろ。」

「数千…」
お父さんから龍族の雌について確かに色々聞いたけど正式な寿命とか聞いてなかった。
龍族の雌は殆どが短命だったらしい。
番を見つけるが、他の妖怪に殺されたり攫われたりと真っ当な寿命を終えた雌の話は聞いた事が無いと言っていた。
だから皆が心配なするのは分かる、でも私だって出掛けたりする自由は欲しい。

「雛妃、諦めなよ。今回ばかりは近藤さんも土方さんも折れないよ?」

「そぅちゃんまで…」
雛妃はもう良い!!と叫ぶと立ち上がり大広間を出た。
しかし、雛妃が出た瞬間バサッと音がして知世以外が慌てて縺れ合う様に大広間を飛び出した。

「家出してやる~!!」
夜空に雛妃の声がこだました。

「「「「「「雛妃!!」」」」」」

「飛べる奴は直ぐに雛妃を追え!!斎藤、平助!!」

「分かった!」
斎藤はもう夜空に駆け上がっていた。
斎藤に続いて平助も空に消えて行った。

「はぁ~家出と来たかい。」
と原田。

「雛妃は自分の立場を全く分かっちゃいねえ。」
と土方。

「雛妃も年頃だからねえ。」
と近藤。

「もう少し自由にしてやっても良いんじゃないの?」
と沖田。

「沖田さんに賛成ですわ。」

「知世…」

「土方さんも近藤さんも頭ごなしに雛妃の自由を奪っているだけですわ。」

「それは雛妃を心配してんじゃねえか。」

「分かりますわ。でも限度と言う物があるでしょう?雛妃は今まで15年間人間として生きて来たのですわ。それを急に半妖だの龍の姫だの言われて屋敷に閉じ込められたら誰だって逃げたくなりますわ。私だってそうします。」
知世の言葉に誰も言い返せなかった。
雛妃を追った斎藤と平助は雛妃の妖気の痕跡を頼りに飛んでいた。

「ねえ、雛妃どんだけ早く飛んでんの?!俺達もかなり全力で飛んでんのに雛妃全く見えないじゃん!!」

「………。」
斎藤ただ只管前だけを見て飛んでいた。
その頃雛妃でもはぶつくさ文句を言いながら物凄い速さで飛んでいた。

「誰が来てるよね?何で私が居る方向が分かるの?」
追ってくる気配は二つ、しかも迷いなく雛妃が飛んでいる方へ向かって来ているのが分かった。
はぁちゃんとへーちゃんかな?

「はっ!!私ってば妖気ダダ漏れなのよね?そりゃ分かっちゃうわよ…」
雛妃はどうしたら妖気を抑えられるのか考えた。

「うーん…収まれ…収まれ…落ち着くのよ私。」
雛妃がうんうん唸って居る頃、斎藤と平助は雛妃の痕跡を見失っていた。
あんなに濃かった雛妃の妖気が全く感じられなくなってしまった。

「どうすんの斎藤さん!!完全に雛妃を見失っちゃったよ!!」
頭を抱える平助、斎藤は今まで雛妃の妖気を感じていた方向をジッと見詰めていた。

「雛妃は…奈緒さんの所に行くかもしれない。」
斎藤の呟きに平助はパッと顔を明るくした。

「きっとそうだ!雛妃の知り合いなんて奈緒さんくらいだもんな!!」
二人は奈緒の呉服屋を目指した。
一方雛妃は全く奈緒の所には向かっていなかった。
ただ我武者羅に飛んでいた。
最早戻ろうと思った所で屯所の方角すら分からなくなっていた。

「はぁ~、何処に行こう。勢いで飛んで来ちゃったけど…もう帰り道も分からないよ。」
雛妃は雛妃で途方に暮れていた。
取り敢えず大きな木の天辺に降り立ち枝に座り空をボーッと眺めていた。

「知世ちゃん心配してるかな?」

「こんな夜中にどうしたの?迷子?」
急に聞こえた声に雛妃は目を見開いた。
振り向いたそこには…
しおりを挟む

処理中です...