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幕末妖怪の章

粉雪

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目を覚ました斎藤の母粉雪は呆然と天井を眺めていた。
可愛い息子が嫁を決めたと聞いて嬉々として会いに来てみれば白龍の娘で龍族の姫だと言う。
雪女や雪男でも知っている事だ、龍族の姫は命を狙われる為短命だと。
更に虹龍と言う伝説の龍だと言う。
粉雪は迷っていた。
息子を見ていれば分かる、本当にあの娘を愛しているのだと。
雪女も雪男も一途、雛妃を失った雪夜は…きっと耐えられないだろう。
龍族も一途だが、雪男と雪女も負けず劣らず。
少し違うのが雪女や雪男は愛した者を失うと溶けて消えてしまう者、人で言う自害してしまう者まで居る事だ。
粉雪も同じく夫、斎藤の父親を失っていた。
何とか生きて来れたのは息子あってこそだった。
しかし、反対した所で雪夜は粉雪の話を聞かないだろう。

「起きたのか?」

「雪夜…」

「ここでは斎藤だ。」

「そうだったわね…本当に良いの?」

「何がだ?」

「雛妃ちゃんよ。龍族の姫は短命だと聞くわ。貴方に私と同じ思いはさせたくないのよ。」

「俺が守れば良い話だ。それに雛妃には白龍やダイダラボッチにそれに新撰組がついてる。」

「それでも…守れなかったら?」
斎藤は粉雪をジッと見た。

「俺は雛妃と共にある。雛妃が逝くなら俺も共に逝く。」

「そう…」
粉雪はとても悲しい顔をした。
しかし、斎藤は共に逝く気など毛頭無かった。
雛妃を失うつもりは全く無かったからだ。

「貴方が決めたなら母さん何も言わないわ。協力出来る事があれば言うのよ?何かあれば雛妃ちゃん雪の里で預かるわ。」

「助かる。」
雪の里は隠れ里、雪女と雪男しか辿り着けない。
雛妃を匿うならうってつけの場所だ。

ーコンコン…

「近藤です。」

「どうぞ。」

「お久しぶりです、粉雪殿。」

「ええ、雪夜を迎えに来て以来ですね?」

「雛妃の事は、私達も全力で守ります。だから…」

「ええ、分かって居ます。雪夜と雛妃ちゃんを宜しくお願いします。」
頭を下げる粉雪に近藤はえっ?と声をあげた。
近藤は粉雪に雛妃が認められないと思っていたのだ。

「認めていますよ。息子のあんな優しい顔を見たら認めない訳には行かないじゃない?可愛い息子に可愛らしい嫁が出来て良かったわ。今は近藤さんだったわね?雛妃ちゃんに何かあったら雪の里で預かるわ、直ぐに声を掛けて頂戴?」

「それは助かります!宜しくお願いします。」
近藤は頭を下げた。

「まぁ、その前に白龍が何とかするでしょうけど…私も白龍に挨拶に行かなくてはね?」

「はい、案内します。」
粉雪は笑った。

「雪夜はもう雛妃ちゃんの所に行きなさい。そわそわしてるわよ?」
斎藤は素早く部屋を出て行った。

「近藤さん、雪夜は幸せですか?」

「えぇ、ずっと雛妃に片思いをしていましたから。今では側を離れませんよ。」

「でしょうね、過保護過ぎないかしら?ちょっと心配ね?」

「過保護は…確かに過保護ですが、大丈夫でしょう。あの二人なら。」

「なら安心ね。では白龍に会いに行こうかしら?」

「えっ?もう行くのですか?もう少しゆっくり…」

「いいえ、雛妃ちゃんが龍の姫なら早く白龍に会うべきだわ。」
真剣な粉雪に近藤は黙って龍の元へ粉雪を案内するのだった。
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