上 下
84 / 93
幕末妖怪の章

吹雪

しおりを挟む

斎藤を始め、知世やその他面々は焦っていた。
吹雪の核を受け取った雛妃の様子がおかしいのだ。
瞳は何時もの綺麗な薄紫色ではなく龍の瞳に変化していた。

「雪夜!雛妃ちゃんどうしたのよ?!」

「分からない。」
そうこうしているうちに雛妃は虹色の翼を出すとバサッと一度はためかせた。

「雛妃!」
知世の呼び掛けにも反応せず、ずっと吹雪の核を見ている。

「妖力が必要なら、妾の妖力を分けようぞ。」
その瞬間大広間は虹色の光に溢れ目も開けられない程の強い光に包まれた。
暫くすると光は消え、雛妃がたおれていた。
しかし、雛妃の傍らには見た事の無い男が立っていた。

「吹雪…」
粉雪は目を見開いた。

「粉雪…僕は、一体どうして…」
吹雪も戸惑っていた。

「吹雪!!」
粉雪は吹雪に飛びついた。
それを倒れそうになりながらも吹雪は受け止めた。
その光景を全員が唖然として見ていた。
斎藤も一瞬戸惑ったが、直ぐに雛妃の元へ駆け付け様子を見ていた。

「吹雪!!吹雪!!吹雪!!」

「ああ、粉雪。しかし、どうして僕は…死んだ筈では。」

「雛妃が親父に妖力を分けたんだ。」
斎藤が呟いた。

「雛妃ちゃんが?!で、でも核だけになった吹雪を元の姿にまで戻す何て妖力がどれ程必要になるか…」
粉雪は驚いていた。

「それだけ雛妃の妖力は膨大だと言う事でしょう。斎藤君、雛妃を寝かせて来てあげなさい。」

「分かりました。」
近藤の支持で斎藤は雛妃を抱き上げると大広間を出て行った。

「食事の途中です、折角雛妃が作ってくれたんだ皆残さず食べる様に。」
吹雪の分は知世が厨房から運んで来た。
皆食事を終え、複雑な表情で大広間から出る者は居なかった。

「ありゃ、雛妃とは別人格か?」
土方が斎藤に向けて質問をした。

「雛妃は雛妃だ。しかし、覚醒する時に別人格と戦ったと聞いている。」

「雛妃はまだ覚醒して間もないからね、まだ定着していないのかもしれんな。」

「でも雛妃ちゃんには感謝しかないわ。吹雪を元に戻してくれたんですもの。」
そう言って吹雪に寄り添う粉雪は心底嬉しそうだった。

「僕からもお礼を言いたい。雛妃ちゃんは雪夜の嫁になる子なのだろう?」

「あぁ、雛妃は龍族の姫。親父を元に戻せたのも不思議な事じゃない。その分雛妃は狙われる。」
斎藤の言葉に吹雪も粉雪も眉を下げた。
先程の雛妃の強い妖力に誘われて屯所の周辺には妖怪が集まって来ていた。

「山崎!」

「ここに!」

「屋敷の周りに低級妖怪が集まって来てる、害ある者は始末して来い。」

「御意!」
山崎は土方の命を受けるとシュンっと消えていった。

「今は低級妖怪だから良いが、強え妖怪になると何か策を講じて雛妃を奪いにくんだろう。」

「沖田君と原田君、あれはどうだった?」

「近藤さんの言った通りだったよ。」

「ああ、あの噂は本当みたいだね。」

「噂はとは何ですか?」
吹雪が不思議な顔をしていた。

「雛妃が覚醒してから鴉天狗と鬼が接触しています。ただの噂でしたが、何しろ雛姫に関わる事なので沖田君と原田君に調査をお願いしていたんです。」
近藤の説明に吹雪と粉雪は顔を見合わせた。

「僕達に何かお手伝い出来る事は?」

「私達盗み聞きなら得意よ?」
近藤と土方はお互いに腕を組み考えた。

「ならば、鴉天狗と鬼が接触する時話を気付かれずに聞く事は出来ますか?」

「勿論!僕がやります。」

「一応、私もやりますわ。吹雪が心配ですもの。」

「場所は沖田と原田から聞いてくれ。」

「分かりました。」
こうして盗聴作戦が開始された。
鴉天狗と鬼はなんの為に接触しているのか?
少なからず雛妃と関係があると近藤も土方も思っていた。
しおりを挟む

処理中です...