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序章
いざ、入学式!
しおりを挟む何時からだろう、この夢を見始めたのは。
毎回同じ夢、私は一人桜並木に佇んでる。
『雛妃………』誰かに呼ばれて振り向くんだ。
“ヒナキ”私の名を呼ぶ優しい声。
その声に呼ばれた私は嬉しそうに振り向くんだ。
でも、その声の主の顔が見えそうになると私は決まって目を覚ましてしまう。
しかし、今回は違った。
桜並木に佇む私は確かに何時もの様に呼ばれた。
『雛妃………お前がいない………』
えっ?何時もと違う………私は此処に居るよ?
慌てて振り返る………そこには………
「ちょわぁぁぁぁぁぁあ‼」
「ぐえぇぇっ………」
お腹に物凄い衝撃を受けて目を覚ました。
「パパ‼もうちょっと娘を優しく起こせないの‼」
娘を踵落としで起こす父親があるか!
「何を言っておる!もう五時だぞ!朝稽古の時間だ‼」
「うぅ………もう少しで顔を見れたかもしれないのにぃ………」
「早く準備して、道場に来い‼」
「はぁい。」
私の家は代々空手道場をしている、パパは十五代目。
そんな家に育った私は必然的に空手を習い、更には合気道、柔道、剣道と幼い頃から習わされた。
うちは空手道場なんだから合気道とかいらなくない?とパパに言った所、やってて損はないと言われた。
因みに私は決して一人娘とかじゃない。
上に兄が二人居るから私が道場を継ぐ事はないのだ。
では何故、そんなに武道を習わされるか………それは後々分かるだろう。
のそのそと胴着を来て、栗色の腰まで長い髪を適当に纏め道場に向かう。
ママがフランス人だから私も兄も色素が薄い。
私に至ってはママそっくり、目もママと同じでグリーンだ。
夢を良い所で邪魔された私は憂鬱な気分で道場の扉を開けた。
「雛妃ー‼」
「うわっ‼」
「大丈夫かぁ?親父の奴またとんでもない起こし方したんじゃないか?」
「蓮、今日は踵落としだったよ………」
このいきなり抱き付いて来たのは長男の蓮。
「親父‼ふざけんなよ!俺らの可愛い雛妃に何かあったらどうすんだ‼」
このパパの胸ぐらを掴んでるのは、次男の蓮人。
蓮と蓮人は双子なんだ、一卵性双生児って奴だ。
だから顔はそっくり。
私と同じ栗色の髪、目は薄い茶色。
髪型も全く同じにするもんだから、家族以外にはどっちがどっちか分からないらしい。
「その何かがない為に散々武道を習わせてるじゃないか‼」
「それもそうだな、流石親父だ。」
これが私が色んな武道を習わされる原因だ。
厳しいながらも娘を溺愛する父親と絵に描いた様なシスコンの兄。
変な虫や馬の骨を撃退するために私は日々稽古をさせられている。
「雛妃、今日は入学式だろ?待ってるからな?」
「いやぁ、可愛い妹の入学式に出れるなんて生徒会入ってよかったな?」
「あぁ………そっか。」
蓮は生徒会長、蓮人は副会長だった。
私はほぼ強制的に兄達と同じ高校を受験させられ、見事に合格してしまったのだ。
私にしたら少しレベルの高い高校だったけど、毎日蓮達に勉強を叩き込まれ合格した。
「俺達は先に出るからな、後から母さんと来いよ。」
「うん、いってらっしゃい。」
朝稽古が終わり、朝御飯を食べるとサッサと兄達は学校へ向かった。
私も早目に朝食を終わらせると、真新しい制服に袖を通した。
白のワンピースタイプのセーラー服。
襟には水色のラインが入っていて、スカートのプリーツの裾には水色の太いラインが入ってる。
実に可愛い、この高校の制服は男女共に人気がある。
因みに男子は白のブレザーにベージュのパンツに紺色のネクタイだ。
鏡の前で可笑しな所はないか確認する。
「よしっ、準備OK!」
指定カバンを持って階段を降りるとママが待っていた。
「準備できた?忘れ物はない?」
我が母ながらなんたる美人だろう。
名前はセシル、子供が三人もいるとは思えない。
「うん!大丈夫だよ、行こう。」
ママと二人高校へ向けて歩きだす。
うちから高校まで徒歩15分、近くて助かる。
「ねぇ、パパは来なくて良かったの?」
「パパは来れないわよぉ。だって雛妃ちゃんが高校生になったって泣いてたわよぉ?もうすぐお嫁に行っちゃうんだーって。」
呆れた………
「どんだけ先の話してるのよ………」
「あらぁ、そんな事ないわよ?親からすれば子供の成長なんてあっと言う間なんだからぁ。雛妃ちゃんも高校生なんだし、彼氏なんて出来た日にはパパ暴走しちゃうわぁ。」
よしっ、彼氏は作らないと誓おう。
パパの暴走なんて面倒臭い。
「あっ、ほら知世ちゃんよ。」
高校の正門には私の幼馴染みの知世ちゃんが待っていた。
私がこの高校に入ると聞いて、知世ちゃんも同じ高校に来てくれたのだ。
本当なら知世ちゃんならもっとレベルが高い高校に入れたのにわざわざ私と同じ高校を選んだ。
「おはよう、知世ちゃんと知世ちゃんママ!」
「おはようございます、雛妃。」
因みに知世ちゃんのママと私のママも仲良し。
高校からの親友なんだ。
「おはよう、知夏《トモカ》。」
「おはよう、セシル。」
「知夏本当に良いの?知世ちゃんが雛妃と同じ高校なんて。もっと他があったでしょう?」
「いいのよ!私達と同じよ。私もセシルが心配で大学同じにしたじゃない。」
「そうですわ、私がいないと雛妃に変な虫が直ぐについてしまいますわっ‼雛妃に群がる虫など私が許しませんわ‼」
と、知世ちゃん………顔が怖いよ。
「私と同じで知世も雛妃ちゃんラブなのよ。だこら気にしないで。さぁ、行きましょう。」
私と知世ちゃんはママ達と別れると自分達のクラスの確認に行った。
「雛妃!私達同じクラスですわ‼」
「本当に?やったね‼」
「えぇ、1ーAです。これで三年間一緒ですわね?」
ふふっと可愛く笑う。
知世ちゃんは大企業の令嬢で、可愛いと言うより綺麗だと思う。
日本人形の様に真っ直ぐで黒い長い髪、でも顔はフランス人形みたいにぱっちりと大きな黒い瞳。
知世ちゃんは完璧だ!
うちの高校は一年から三年までクラス替えが無いんだ。
三年間同じクラスメイトで友情と団結力をはぐぐむと言う事らしい。
教室に入ると席は出席番号順に決められていた。
私は米原、知世ちゃんは槇原………やっぱりだ‼
「また雛妃が私の前の席ですわね?」
「うんっ!よかったぁ。」
隣の席はやはり男の子、チラッと隣の席を見ると目が合ってしまった。
「あっ、米原です………宜しく。」
「松居健人だ!米原さんすげぇ可愛いな!ヨロシクな?」
あっ、苦手なタイプだわ………
「米原さん彼氏いるの?」
「………。」
「俺さ~今は………」
「………。」
やっばり苦手だわ、松居君………
「おはよー!全員揃ってるかぁ?」
ナイスなタイミングで担任登場!
ありがとう先生‼
「あー俺は担任の原田一人《カズヒト》だ。取り敢えず講堂に移動するぞー。入学式が終わったら自己紹介して解散だ。」
ゾロゾロと皆講堂に移動を始めた。
私も席を立つと視線を感じて隣をみた。
「………。」
どうしよう、松居君に凄い見られてる………
「雛妃、行きましょう?」
「う、うん………」
講堂に着き入学式が始まり、理事長の長~い祝辞を頂いた。
なんでこうも校長とかの話は長いのだろう。
「生徒会長より祝辞。」
はっ!忘れてた………これがあったんだわ!
何もありませんように………。
私の心配を余所に蓮の祝辞は淡々と進んで行った。
生徒会長の蓮を見て頬を染める女子が目につく。
まぁ黙ってれば美形になるんだろう。
でも蓮も蓮人も学校ではかなり猫を被っているらしいけど。
そうこうしているうちに蓮の祝辞は終わった。
筈だった………
「もう一つ、いいか?新入生!お前達の学年に俺の妹が居る。俺の妹に手出したら生徒会長と副会長が敵に回ると思え。俺達を敵に回してこの学校で平和に暮らせると思うなよ!」
マジか………そうだ、蓮はこういう奴だ………新入生がざわめきだす。
「雛妃、相変わらずの溺愛っぷりですわね?」
知世ちゃんが小声で言ってきた。
「信じられない………」私は頭を抱えた。
同じ苗字だし、バレるのは時間の問題だろう。
かなり印象に残ったであろう入学式はこうして幕を下ろした。
入学式を終え、教室に戻る………
「じゃあ、自己紹介でもするかぁ?じゃあ男子の出席番号一番からなあ。」
それぞれに思い思いの自己紹介をしていく。
「次、松居だ。」
「松居健人です!彼女募集中です!宜しく!」
それだけ言うと松居君は席に座った。
その情報いる?
何か………やって行けるかな?隣が苦手とか………
教科書は絶対に忘れない様にしよう!
松居君に教科書見せて貰うとか気まず過ぎる。
「次、米原!」
「あっ、はい!」慌てて立つと………
「おぉ!お前が我らが生徒会長様と副会長様の妹かぁ?なるほど、意味が分かった。」
「えっ?」
ここでバラされると思わなかった。
しかも何か勝手に納得してるし。
「米原雛妃です。宜しくお願いします。」
「おぅ、宜しくな!お前ら米原に手だすなよ?
出すならそれなりに覚悟しとけ。」
止めて!
「はいっ!先生!」
「どうした、松居?」
「何でそんなに覚悟が必要なんですか?」
ちょっとチャラそうな松居君が手を上げた。
「そうなるよな?でもなぁ、生徒会長敵に回すと怖いぞ?俺も敵に回したくない。そのうち分かるだろうが、米原に悪戯すんなよ。俺にとばっちりが来るからな。」
「えぇー‼同じクラスにすっげぇ可愛い子いると思ってテンション上がってたのに!じゃあ、槇原さんは大丈夫なんだよな?」
「どうなんだ、槇原?」
「ツツシンデお断り致します。」
「うぉぉお‼いきなり玉砕かよ!」
ドッとクラスに笑いが起きた。
とんだ入学式だったけど、無事?入学式を終える事が出来た。
応援ありがとうございます!
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