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幕末日常と食事の章

壬生浪士組ー台所事情ー

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 島田さんに促され、台所に入ると少し不安になった。
ガスコンロしか知らない私には、釜戸は未知の道具だ。
薪をくべて使うんだよね?でもさ、火力はどうするの?

「どうかしましたか?」

「あっ、知世ちゃん………どうしよう私釜戸なんて使った事ないよ。」

「ちょっと待って下さい。」
知世ちゃんは土方さんに何か話した。
知世ちゃんの話を聞き終えた土方さんは島田さんに釜戸の火を担当するように言ってくれた。

「分かりました、火は危ないですからね。」
よしっ、釜戸問題は片付いたわ。
後気になるのは調味料………江戸末期の調味料なんて知らないもの。
醤油と塩と砂糖があれば何とかなるんだけど。
あっ!でも孝之助さんのお店、餡蜜出してたし砂糖はあると思う。

「島田さん、調味料みせて貰っても良いですか?」
そう言うと島田さんは調味料を並べてくれた。
一つ一つ確認していくと、醤油も砂糖もちゃんとある。
昔は砂糖は凄く貴重だったんだって。

おっ?これは…………鰹節!しかも削られる前だわ。
こんなのおばあちゃんの家でしか見たことないよ。
調味料の確認も出来たし、料理に取りかかろう。


所で、皆は何をしてるんだろう?
ずっと出来るまで見ているつもりなんだろうか?
島田さんは釜戸を任せてあるし、う~ん………

「知世ちゃん、鰹節削って貰える?」

「はい、それくらいなら私にも出来ますわ。」

よし、鰹節は知世ちゃんに任せて私は煮物を何とかしよう。
生煮えだったから良く煮込む、味も一味足りないから砂糖を少し足す。
本当は煮物にも出汁を使いたいけど、もう今日は仕方ないこれで良しとしよう。

ージャッジャッ…………

うん、鰹節を削る音も良いね。
現代ではなかなか聞けない音だもんね、ちょっと得したかも。

ージャッジャッ…………バキッ‼

バキッ?
知世ちゃんを見ると顔の前で手を合わせて、ごめんなさいポーズをしていた。
その隣では永倉さんが鰹節と鰹節を削るカンナを交互に見て不思議な顔をしている。
鰹節を削るカンナの下は箱の様になっていて、削った鰹節が貯まる引き出しがついているのだけど…………
どうやったらその箱が壊れるの‼

「悪い、力加減間違えた。」
永倉さんは罰が悪そうに頭を掻いた。
どんな力加減よ…………馬鹿力過ぎるでしょう!

ーガタガタ…………ガチャーーーーーンッ‼

今度は何‼

「あぁぁぁぁぁあっ‼煮物が無い‼」

沖田さんと平助君と近藤さんが押合いへしあい、我先煮物を食べたみたいだ。
どうするのよ、メインのおかず無くなっちゃったじゃない。
人が一生懸命作ろうとしてるのに………この人達は………
怒りに震え、俯いた………私だってお腹空いてるの!
何で待てないの‼

「と、知世………雛妃どうしたんだ?」

俯いて動かない雛妃を見て何かを察した、永倉は知世にコソッと聞いた。

「雛妃が、怒ってますわ。どうしましょう………雛妃を怒らせると怖いんです。」

「嘘だろ?」

「いいえ、普段はあんな感じで見た目もああですからフワフワ女子ですが………一度、雛妃のお兄さんが料理の邪魔をした事があるんです。」

「どうなったんだ?」
永倉はゴクリッと喉を鳴らした。

「雛妃は木の分厚いまな板を拳で割りました………」

永倉はサーッと血の気が引いた。
すると雛妃が動いた、端にある大きな水瓶に拳を降り下ろすと、水瓶は水を巻き上げながら砕けた。

「永倉さん、原田さん…………」

「「は、はい…………」」

「カンナを持って来て鰹節を削って下さい。」

「でもカンナが…………」

「そんなの借りるなり探すなりすればいいでしょう?」
物凄い冷たい笑みを見せる雛妃を見て、永倉と原田は台所を飛び出した。
次に煮物を食べてしまった、沖田、平助、近藤を見る。
三人は真っ青になっている。

「沖田さん、平助君、近藤さん…………」

「「「はいぃ!」」」

「貴方達は薪割りです、台所への立ち入り禁止と今日のおかずは抜きです。」

「ちょっと待って、雛妃!謝るから…………」

ーガッシャーーーーン‼

「文句ありますか?」

「ありません…………」

また瓶を割った雛妃を見て沖田は黙った。
三人は背中を丸めて台所を出ていった。
土方と斎藤はすでに避難したようで、姿は無かった。

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