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幕末日常と食事の章

壬生浪士組ーご飯編ー

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「ねぇ、雛妃また俺達の事渾名で呼んでよ、昔みたいに。」
沖田さんがとんでもない事を言い出した!

「おぉ、それ良いな?あの頃の雛妃と知世は可愛かったなぁ!いっちゃーんって駆け寄って来るんだもんな。」

「そうそう、そうちゃーん抱っこって来るだもんね堪んないよね。」
近藤さん、沖田さんまで…………

「知世、雛妃これからも渾名で呼べ。」
土方さん…………命令ですか?
斎藤さんは此方をジッと見ていた。

「斎藤さ…………」

「はぁちゃんだ。」
貴方もですか?嫌な予感が当たった気がする。

「呼ぶよな?」
土方さんが黒い笑みで…………ってそれもう強迫してるじゃない。
知世ちゃんも私も黙っているとスッと斎藤さんが立ち上がり私の前に座った。
凄い真面目な顔で顔を近付けてくる、私は顔を反らしツーンとそっぽを向いた。

「雛妃?」

「…………。」

「雛妃………」

「…………。」

「ひ…………」

「わっ分かりました!渾名で呼ぶから離れて下さい!」
斎藤さんの肩を押すとスッと離れてくれた。
あんな無言の圧力掛けられるくらいなら、渾名呼んだ方がマシだわ。

「はっはっはっ!じゃあ決まりだな?そろそろ飯にしよう。」
近藤さんが言うと私達の前に御膳が並んだ。
全ての御膳が並ぶと、皆一斉に手を合わせる。

「「「いただきます。」」」
御膳にはご飯、御味噌汁、漬け物と煮物が並んでいた。

「美味しそうだね?」

「雛妃、ここの食事は覚悟した方がいいですわ。」
何それ?ご飯に覚悟って…………


煮物を食べた私はお箸を握り締めて固まった。
これ、里芋よね?なんでシャリシャリするのよ。
御味噌汁も確かに味噌の汁よ、間違ってはいないと思う。
でも、でもよ?お出汁は?これ…………お湯に味噌を溶いただけじゃないの?
ご飯はちゃんと炊けてる、漬け物も美味しい。
知世ちゃんが言ってた意味が分かった。

「知世ちゃん………」

「私は料理が出来ないので、何も言えないのですわ。」

そうだった、知世ちゃんは料理が出来ない………
その代わり裁縫は知世ちゃんはピカイチだ。
まぁ、逆に私は雑巾すら縫えないけども………

「土方さん、台所に連れて行って!」
意を決して立ち上がった。
このご飯を作った人を一目この目で見てやるわ!
出来るなら作り直したいのが本音だ。
全員が注目する中、私はささっと廊下への襖に手を掛けた。
私を見て皆ポカーンとしているが、一向に土方さんは返事をしてくれない。

「土方さん!行きますよ‼」
土方さんは私を見るも、すぐにプイッとそっぽを向いてしまった。

「雛妃、その呼び方じゃ駄目だ。」
近くに居た原田さんに首を傾げる。

「だから、渾名じゃないと駄目だって。もう忘れたの?」

あっ!だから返事しないの?子供か‼
はぁ…………仕方ない、ご飯の為だもんね?

「ひ…………ひぃちゃん?台所に行きたいんだけど。」
すると直ぐに土方さんは返事をしてくれた。

「いいが、台所になにしに行くんだ?」

えっ?それ言わなきゃ駄目?
この不味いご飯を作った人を見たくて、あわよくばご飯を作り直したい何て…………言える訳ない。


「あ~…………えーとっ、煮物が生煮えだから作り直したいなぁ…………なんて………思って。」
ははっと笑うと、ガタガタと皆が立ち上がった。
知世ちゃんはそんな皆に目を丸くしていた。

「雛妃!お前飯作れるのか?」
永倉さんが私の肩を掴むとグラグラと揺らした。

「なっ………永倉さん…………」

「俺はくぅちゃんだ!」
今はそんな事どうでも良いでしょう‼

「雛妃!頼む、この不味い飯を何とかしてくれ‼」
今度は平助君が泣き付いて来た。

何コレ…………
皆不味いと思ってたのに、我慢して食べてたって事?
何で改善しようとしないのよ?

「雛妃、皆さんも全く料理が出来ないのでずっと我慢していたそうですわ。残念ながら私も裁縫以外は出来ませんし…………雛妃は料理が得意なので、何とかしてあげて貰えませんか?」
知世ちゃんの言葉に皆は目を輝かせた。

「私も作ってくれた方には申し訳ないのですが、雛妃のご飯が食べたいですわ。」

「「「「俺も‼」」」」

おぉぅっ…………どれだけ我慢してたの?
そうと決まればと言う事で、台所に行く事になったのだけど…………全員で行く事なくない?
ゾロゾロと廊下を歩いて行くと台所は屋敷の奥の方にあった。

「ここだ、それと飯担当の島田魁だ。」

土方さんに紹介された島田さんが、ご飯を作っていたらしいのだけど、料理が得意と言う訳ではない様で。
ただ、一番まともな物が作れた人が島田さんだったらしい。
島田さんも被害者じゃないか。

「いやぁ、貴女が作ってくれるなら助かります。作った私が言うのも難ですが、やはり旨い飯を食べたいですからね。」
島田さんは豪快に笑った。


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