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幕末日常と食事の章

壬生浪士組②

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 縁側で眠ってしまった私達が起きたのは、もう空が茜色に染まってからだった。
肩を揺すられて起きるとそこには沢山の人が居た、正確には私が知ってるのは斎藤さんと平助君しか居ないから沢山に見えたのかもしれない。

「おはよう、良く寝てたな?」

「おはようございます。」

「おはようございます。」

ニカッと笑っている平助君に挨拶すると、起き上がりまだ眠たい目を擦る私と知世ちゃんには誰かの大きな羽織が掛けられていた。
まだ開ききらない目で知世ちゃんを見ると、知世ちゃんは既にバッチリ目覚めていた。
なんて寝起きがいいの、知世ちゃん………

「久しぶりだな、雛妃!」

「えっ?」

黒髪の長髪イケメンが私を見て優しく笑っていた。

「まぁいい、全員紹介するから大広間に移動するぞ。」

黒髪の長髪イケメンに続いてゾロゾロと移動を始めた、私と知世ちゃんは最後に着いていく。
大広間に入るとその広さにも驚いた、うちの道場よりも広いんじゃないかな?
私と知世ちゃんは下座に二人並んで座った。

「では自己紹介をしようか?」
優しい顔の厳つい人がまず口を開いた。

「私は近藤勇だ、雛妃とは五歳の時に会ってるんだ。知世から少しは話を聞いたんじゃないか?」

「はい、聞きました。」
恐る恐る返事をすると近藤さんは満足そうに笑った。

「私は雛妃にはいっちゃんと呼ばれていたんだ。またそうに呼んでくれると嬉しいんだけどね?」

はっ?いっちゃん………ですって?
五歳の私、知らなかったとは言えあの近藤勇にいっちゃんなんて渾名を付けるなんて………

「俺は土方歳三だ、雛妃にはひぃちゃんて呼ばれてたな。」

さっきの黒髪長髪イケメンが土方歳三だったの?
それからどんどん自己紹介は行われた。

「久しぶり雛妃、俺は沖田総司。雛妃にはそうちゃんってよばれてたよ。」

「斎藤一………はぁちゃんだ。」

此処までで私はもう白目を剥きそうだった。
ひぃちゃんにそうちゃんにはぁちゃん?私ってば歴史に名を残してる人達になんて事を………
知世ちゃんを見れば笑っていた。

「ふふっ、雛妃らしい渾名ですわね?」

「知世ちゃん………笑えないよ。」
マジで五歳の私を恨むわ………

「次俺な、もう知っているとおもうけど藤堂平助だ。俺にも渾名付けてくれよ!土方さん達だけ狡いじゃん!」
何で此処でそんな事言い出すのよ、平助君‼
いやっ‼そんなキラキラした目で見ないで!

「へーちゃん…………?」
平助君のキラキラ御目目にやられた私は結局渾名を付けてしまった。

「うぉぉぉお!俺にも渾名が出来た!やっほーぃ!」
平助君は飛び上がって喜んだ、そんなに嬉しいもの?
なんの捻りもないへーちゃんだよ?

「俺は永倉新八、俺にも渾名くれよ。ただし!新八っつぁん以外だぞ?」
えぇぇぇ‼貴方もですか?
えぇっと…………永倉………永倉………

「くぅちゃん?」

途端に大広間はシーンとしてしまった。
あれ?くぅちゃんは駄目だったの?
知世ちゃんに助けて目線を送っても私を見てニコニコと微笑んでいるだけで。

「ぶっ‼くっくっ…………ぶぁっはっはっ‼八っつぁんがくぅちゃん?可愛い…………くっくぅちゃん‼」
急に平助君が膝を叩いて爆笑し始めた。

平助君を皮切りに、大広間には笑いが溢れた。
斎藤さんまでも手を口に当てて笑っていた。

「煩い!いいんだよ、俺はくぅちゃんが気に入ったんだ‼」

「じゃあ俺も渾名付けて貰おうかな?俺は原田佐之助だ、佐之さんとか以外の渾名がいいな。」

はぁ…………新撰組は渾名好き、メモしておこう。
原田…………佐之助…………原田…………う~ん。

「すぅちゃん…………?」

「決まりだな?」
永倉さんがニヤリと原田さんを見た。

「くっく…………すぅちゃんね、いいよ気に入った。」
皆満足そうに渾名を呼び合っていた。

「ねぇ、知世ちゃん………本当にいいのかな?新撰組にあんな適当な渾名なんてつけちゃって。バチ当たらないかな?」

「雛妃、新撰組は神様じゃありませんわ。渾名は兎も角、バチは間違いなく当たらないと思います。渾名も皆さん気に入っている様ですし、良いと思いますわ。」
本当にいいのかなぁ?何か嫌な予感がすんだよねぇ。


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